近畿大学(近大)と岡山中央病院は、早川ゴムと共同で、放射線治療や手術で患者の皮膚に目印をつける際に使用する、発がん性物質を含まない「サージカルスキンマーカー」を共同開発したことを発表した。

  • 近畿大学などが開発した「サージカルスキンマーカー」

    近畿大学などが開発した「サージカルスキンマーカー」(出所:近畿大学)

同成果は、近大 医学部 放射線医学教室 放射線腫瘍学部門の門前一教授、同・小児科学教室の宮崎紘平医学部講師、岡山中央病院 放射線がん治療センターの中山真一主任らに加え、早川ゴムも参加した共同研究チームによるもの。詳細は、医学物理学と放射線技術学に関する国際誌「Radiological Physics and Technology」に掲載された。

放射線治療や外科手術、心臓カテーテル治療などの際、治療の位置を正確に把握するために、皮膚にマーカーなどで印をつける必要が生じる。

かつて国内外の医療現場では、マーカーの耐久性を高める目的で、消毒効果があり着色性も高い「メチルロザニリン塩化物」を主成分とした皮膚専用マーカーペンが、広く用いられてきた。しかし近年、同塩化物を含有する医療用医薬品には発がん性があることが世界保健機関(WHO)やカナダ保健省から指摘され、日本国内でも2022年度末に製造・販売が停止された。

そのため現在では皮膚マーカーとして、一般的な油性マジックや水転写シール、仮タトゥーなどさまざまなものが用いられているが、放射線治療でも消えない耐久性と安全性の両立が求められる中、どれも何らかの欠点を抱えているという。特に油性マジックについては、その主成分が染料・アルコール系有機溶剤・樹脂・添加物であり、特に子供患者のデリケートな肌においては、ミミズ腫れや赤み・かゆみが生じ、ステロイド塗布による治療が必要となる症例も報告されている。

そのため研究チームは、含有成分の情報がすべて開示されており、安全で、性能と利便性も高い皮膚マーカーの開発を目指し、共同研究を開始。化粧品原料や食用素材などを主原料とし、発がん性物質を含まず子供にも安全に使用できるサージカルスキンマーカーを開発したとする。

なお今回開発された新マーカーについて、研究チームは、インクのにじみや線の耐久性試験、臨床試験(患者に使用して問診・視診を実施)による評価を行ったという。

耐久性試験では、油性マジックと新マーカーを同時に塗布し、線が消えて見えなくなるまでの時間を比較。その結果、油性ペンは平均3.6日で視認できなくなるのに対し、新マーカーでは平均7.2日にわたって視認できたうえ、線を描いた後に水を噴霧してもにじまないことが確認されたという。放射線治療は数日から2ヶ月と長期間にわたることから、入浴しても線がにじまず消えにくいことは、大きなメリットになるとする。

また臨床試験では、56人の放射線治療患者の皮膚に新マーカを用いて3か月間マークを描き、症状や皮膚変化の観察を実施。すると、油性マジックなどでは報告されていた合併症は1例も見られなかったといい、安全に使用できることが確認されたとした。

研究チームによれば、新マーカーの開発では医療従事者の“描くとき”および患者側の“描かれるとき”の感触を考慮して、ペン先の改良も施しているとのことで、小児科などの臨床現場での活用が期待されるとする。また4月11日には「皮膚マーカー用インキおよび皮膚マーカー」として特許出願を行っており、今後は製品化を目指すとしている。