「AI(人工知能)が新たなプラットフォームシフトの基盤になっていく」ーーそう断言するのは米マイクロソフトでエグゼクティブバイスプレジデント(EVP)を務める沼本健氏。マイクロソフト本社でグローバルマーケティング戦略を統括する沼本氏は10月2日、報道機関向けに同社のAI戦略について説明を行った。
沼本氏は冒頭、「テキストだけでなく映像や音声などマルチモーダルな形であらゆるものが生成できる『Natural user interface』と、知識ベースを利用してある事象から結論を導き出すため『Reasoning engine』。この2つの技術が合わさることで、プラットフォームとしてのAI時代が幕を開ける」と切り出した。
その上で沼本氏は、企業のAI導入における3つの喫緊課題について説明した。
AI導入における3つの喫緊課題とは?
劇的に生産性を向上すること
まず1つ目の課題は「AIの活用によって劇的に生産性を向上すること」。沼本氏は「生成AIの話になると、大規模言語モデルといった理論的な議論に発展しがち。しかし、企業が生成AIを導入するうえで一番重要なのは、すでに使用しているアプリケーションが生成AIの適用でいかにアップグレードするのかを実感することだ」と述べた。
マイクロソフトは2023年9月に対話型AIサービス「Microsoft Copilot(コパイロット)」をWindowsで開始した。同2月から試用版が提供された「Microsoft Bing AI」はコンシューマ向けのサービスで、企業に特化したのがCopilotという位置付けだ。「根本的にBingとは異なるが技術的には整合性がとれたサービスになっている」(沼本氏)
Copilotは、Microsoft365で利用できる「Word」や「Excel」、「Teams」といったアプリケーションからデータを取り込んで、プレゼンテーション資料を自動で作成したり、長いメール本文や会議の内容を要約したりすることができる。
「自身も日々の業務でCopilotを使っており、ゲーム・チェンジャーであると実感している」と沼本氏は話し、その上で「Copilotはあくまでも副操縦士。万能であると勘違いせず、必要に応じて編集することが大切だ」と補足した。
また、同社の調査によると、Copilotを利用することで、ソフトウェア開発者のコード生成は55%、ナレッジワーカーのタスク完了までの速度は37%向上したという。
独自のAI機能を構築すること
そして、2つ目の課題は「独自のAI機能を構築すること」。沼本氏は「AI開発においてデータ活用は欠かせない。データを有機的に活用できなければ良いAIは作れない」といい、自らの企業に最適化したAIを構築することの重要性を説明した。
企業が独自のAI機能の構築できるようにするために、同社はさまざまなサービスやツールを「Copilot stack」として提供している。その基盤となるのが、世界に60以上のリージョンがあり200以上のデータセンターで運営されているクラウドプラットフォーム「Microsoft Azure」だ。
Azure基盤の上で、「Azure SQL Database」「Azure Cosmos DB」「Microsoft Fabric」「Azure AI」「Microsoft Purview」といったデータサービスを提供しており、「OracleやSnowflake、Databricksといったパートナーとも協業し、顧客企業のデータをクラウド上で有機的に統合することで、AIの開発や導入を加速させている」(沼本氏)という。
さらに同社はデータサービスだけでなく、幅広いAIモデルも提供している。代表的な大規模言語モデル「Azure OpenAI Service」だけでなく、パートナー企業との連携により、Metaの「Llama」シリーズや、Hugging Faceが提供しているオープンなAIモデルも用意しており「適材適所でAIモデルを選べるようにしている」(沼本氏)とのことだ。
ビジネスデータの安全を確保すること
最後に3つ目の課題として、沼本氏は「ビジネスデータの安全を確保すること」を挙げた。
「マイクロソフトでは顧客のデータを使ってAIモデルをトレーニングしている。アプリケーション、データ、AIモデルなどはすべてエンタープライズグレードのセキュリティとコンプライアンスで安全を担保していく。そこに関しては非常に自信を持っている」と沼本氏は述べた。
同社は9月に「Copilot Copyright Commitment」を発表。これは、万が一Copilotを利用したことで、同社の顧客が著作権侵害で訴えられた場合、同社が法的リスクに対して責任を負うといったもの。訴えられた顧客を弁護し、訴訟の結果生じた不利な判決または和解により課された金額を全額支払う。「責任あるAIを担保している」(沼本氏)
「AIの幕開けにはこれら3つの課題の解消が不可欠だ」と説明した沼本氏。企業はAI導入に向け、どのような第一歩を踏み出せばいいのだろうか。沼本氏は次のように説明した。
「まずは自社の現状を把握すること。特に日本のような市場では、AI導入の話の前にクラウドの導入を検討するべき。そして、実際にCopilotといったAIサービスを導入して生産性がどのように上がるのかを実感することも重要。実感するだけでなく、AIの導入によってどのような成果が出たのか、どのような影響があったのかを評価することも欠かせないだろう」(沼本氏)