ENEOSホールディングスでは2040年に向けた長期ビジョンとして、エネルギー・素材の安定供給とカーボンニュートラル社会の実現を掲げている。そのために、2023年度から始まる第3次中期計画の期間では、確かな収益の礎の確立と、エネルギートランジション実現に向けた取り組みの加速を目指しているという。

8月2日から18日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 for Leader DX FRONTLINE ビジョンから逆算する経営戦略」にENEOSホールディングス/ENEOS 取締役 副社長執行役員 CDOの椎名秀樹氏が登壇。長期ビジョン実現のために策定された「ENEOSデジタル戦略」で何を目指しているか、どのような取り組みをしているのかを語った。

  • 長期ビジョン実現に向けたENEOSホールディングスの取り組みの全体像

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DX推進の原動力を強化し、事業変革の実現を目指す

椎名氏は冒頭で、同社の長期ビジョンを実現するための取り組みをいくつか紹介した。エネルギートランジション分野では、再生可能エネルギー、水素、SAF(Sustainable Aviation Fuel、持続可能な航空燃料)などに目標値を定めて技術開発と事業拡大を進めている。また、素材事業分野では機能材や先端素材、生活プラットフォーム事業分野ではEV (Electric Vehicle、電気自動車)充電やフリートマネジメントなどに注力していくという。そしてこれらを支える土台である経営基盤を強化するために策定されたのが、「ENEOSデジタル戦略」だ。この戦略で目指すのは、3つの事業変革をDXで実現するとともに、DXを推進する原動力となる4つの要素を強化することである。

  • ENEOSデジタル戦略の全体像

DXで実現を目指す3つの事業変革

3つの事業変革とは、基盤事業を徹底的に最適化すること、成長事業を創出し収益拡大を目指すこと、そしてカーボンニュートラルに向けたDXである。

エネルギー・素材の安定供給からアプリサービスまで広く基盤事業を最適化

基盤事業の最適化は、高度なエネルギー・素材供給をデジタル技術により実現し、効率的で安定的な供給を維持することを目的としている。これには製油所稼働率の最大化のためプラント制御にAIを活用したり、ドローンを導入して設備点検を高度化したりといった取り組みがある。また、国内外の拠点の情報を一元集約して判断を迅速化するサプライチェーンの最適化や、AIを活用した配船計画の最適化も行っている。

同社では、モビリティやライフサポート関連のサービスをトータルで提供する生活プラットフォームの構築を進めており、その中心となるスマホ用アプリのサービス「ENEOS サービスステーションアプリ」の提供も開始した。このアプリには サービスステーションでの給油設定やクーポン利用、QRコード決済などの機能がある。今後はこのアプリを中心に、他のモビリティ事業や電気・ガス事業などもデジタルでつなぎ、デジタルマーケティングに活かしていく予定だという。

AIや将来技術を活用し、成長事業を創出

成長事業分野では、AIを活用して材料開発を効率化するマテリアルズ・インフォマティクス(Materials Informatics:MI)に取り組んでいる。Preferred Networksとの協業で材料の挙動を原子スケールで再現できるシミュレーターを開発、両社で設立した合弁会社によりSaaSで提供する事業も開始した。電力事業分野の成長事業としては、ENEOSバーチャル・パワー・プラントの取り組みがある。これは再生エネルギーなどの発電アセットと産業用・家庭用の蓄電池、EVなど複数のエネルギーリーソースを接続し、統合制御で電力需給バランスの調整力を創出するもので、電気の安定供給や顧客への新たな価値提供を目指す将来技術だ。

カーボンニュートラルの実現に不可欠なCO2排出量可視化

カーボンニュートラルの実現のためには、製油所などを含めた全社目線と、製品のライフサイクル目線の両方でCO2排出量の可視化が必要だと椎名氏は言う。そのためには膨大なデータの集計やチェック、報告などに労力が必要になる。そこで同社では、知見を持つ他社との協業によって集計ロジックを定めてシステム化に取り組んでいる。これにより、正確かつリアルタイムでの環境価値の可視化が可能になるそうだ。