四天王寺大学と大阪大学(阪大)の両者は9月11日、赤ちゃんの顔の「かわいさ」は、顔画像を逆さに提示した時でも同じように判断できることを明らかにしたと発表した。

同成果は、阪大大学院 人間科学研究科の藏口佳奈助教(現・四天王寺大 人文社会学部 社会学科 講師)、入戸野宏教授らの研究チームによるもの。詳細は、「Perception」に掲載された。

  • 赤ちゃん顔のかわいさは、上下を逆さにしても同じように知覚が可能

    赤ちゃん顔のかわいさは、上下を逆さにしても同じように知覚が可能(出所:阪大Webサイト)

個人差はあるものの、多くの人が丸みを帯びた顔の輪郭や広い額、大きな目など、赤ちゃんが持つ特徴に対しかわいいと感じる傾向がある。このかわいさとは、刺激が持つ特徴の1つであり、このような現象は、いまから80年ほど前に動物行動学者のコンラート・ローレンツにより提案され「ベビースキーマ説」と呼ばれる。

人の顔に対する印象は、画像を上下逆さに提示すると判断しにくくなることが知られている。この現象は「顔倒立効果」と呼ばれ、顔の知覚には個々のパーツの特徴ではなく、パーツ間の位置関係が重要である証拠とされてきた。

それに対し上述のローレンツは、かわいさの知覚には丸みを帯びた顔や大きな目といった個別の要素的な特徴が影響すると提案している。もし、この考えが正しければこれまで成人顔で報告されてきた顔倒立効果は、赤ちゃん顔の「かわいさ」の知覚には当てはまらない可能性があるという。そこで研究チームは今回、赤ちゃん顔のかわいさの判断が顔画像を上下逆さに提示することで変わるかどうかを検証することにしたとする。

今回の研究では、20~71歳の日本人男女299名を対象にオンラインで実験が行われた。まず、コンピュータで合成された生後半年の赤ちゃんの顔画像12枚から、かわいさの平均評定値が高かった顔6枚と、低かった顔6枚が1枚ずつ提示され、それぞれのかわいさが7段階で評定された(1:まったくかわいくない~7:非常にかわいい)。

次に、かわいさの程度を増減させた別の合成顔のペアを9対見せ、どちらの顔がよりかわいいと感じるかの選択が行われた。この時、顔画像の上下が正しく提示されている顔(正立顔)を判断する群と、上下逆さに提示されている顔(倒立顔)を判断する群が設けられた。また、比較のために赤ちゃん顔の「美しさ」を正立顔と倒立顔について判断する群も設定された。

  • かわいさを評定する課題と、よりかわいいと感じる顔を選択する課題が実施された

    かわいさを評定する課題と、よりかわいいと感じる顔を選択する課題が実施された(出所:阪大Webサイト)

実験の結果、赤ちゃん顔のかわいさの評定値は顔を逆さにしても低下しないことが判明。また、かわいさの平均評定値が高かった顔と低かった顔の差も同様に変化していないことが明らかにされた。さらに、2つの顔からよりかわいい顔を選択する課題の成績も、顔画像の向きに関わらず、偶然よりも高くなったとした。ただし、倒立顔ではわずかに成績が下がったという。同様の結果は、赤ちゃん顔の美しさを評価・判断する時にも得られたとした。

  • 赤ちゃん顔に対するかわいさの評定値は、通常の向き(正立顔)でも、上下逆さ(倒立顔)でも差がなかった

    (A)赤ちゃん顔に対するかわいさの評定値は、通常の向き(正立顔)でも、上下逆さ(倒立顔)でも差がなかった。(B)2つの顔からよりかわいい高い顔を選択する割合は、顔の向きによらず、偶然よりも高かった。しかし、倒立顔ではやや成績が下がった。(出所:阪大Webサイト)

これらの結果は、赤ちゃん顔のかわいさは、上下逆さになっても同じように知覚できることが示されているという。かわいさのわずかな違いを判断する時には、目・鼻・口などの相対的な位置関係も利用されるが、主には丸みを帯びた顔の輪郭や大きな目など、個々のパーツの特徴に基づいてかわいさは知覚されるということである。この知見は、ローレンツのベビースキーマ説を支持する結果だ。

なお研究チームは、今回の研究から得られた知見に基づけば、たとえばかわいいと感じられるロボットやイラストを創作する時には、顔パーツの配置を工夫するよりも、かわいいと感じられる個々の要素を組み合わせる方がよいといえるとした。