千葉県立中央博物館とお茶の水女子大学は9月8日、『千葉県の保護上重要な野生生物―千葉県レッドデータブック―動物編』で“絶滅”と評価されていた「ウツセミガイ」の生きた個体を、千葉県館山湾の海底から採集したことを発表した。

  • 館山湾で採集されたウツセミガイ。写真は体を縮めたところ。

    館山湾で採集されたウツセミガイ。写真は体を縮めたところで、左が頭部、右半分のクリーム色の部分が殻。(出所:お茶の水女子大学)

同研究成果は、千葉県立中央博物館 分館海の博物館の立川浩之主任上席研究員、お茶の水女子大の吉田隆太博士らの共同研究チームによるもの。詳細は、日本貝類学会の研究連絡誌『ちりぼたん』に掲載された。

お茶の水女子大 湾岸生物教育研究所では、研究材料であるウニ類などの入手を目的に館山湾において定期的に海底に潜む生物の採集を行っている。その際、実験に使用しない貝類や甲殻類などが採集された場合には、海の博物館で千葉県産の生物標本として登録保存しているという。そして今回、2022年3月2日に水深14m~23.5mの砂底からウニ類と共に採集された貝類を、海の博物館で調べたところ、ウツセミガイの生きた個体1体が含まれていることが確認されたとする。

ウツセミガイは、分類学的には軟体動物門 腹足綱 アメフラシ目 ウツセミガイ科に属する巻貝の仲間で、アメフラシ類に近縁な種であり、体内のつくりもよく似ているという。しかしウツセミガイは、背中に円筒形の大きな殻を背負っていること(アメフラシ類も薄い殻を持つが体の中に埋もれ外からは見えない)、頭部に触覚が無いことなど、アメフラシ類とは外観が大きく異なる特徴を持つ。ちなみにウツセミとはセミの抜け殻(空蝉)のことで、殻が薄く壊れやすいことからウツセミガイと名付けられたとされる。

同種はインド洋および西部太平洋の温帯域から熱帯域に分布し、日本にも生息しているとされるものの、全国的に記録は少ない種だという。1960年代以降、近年に至るまで発行された図鑑類などの多くでは、「房総半島以南に分布する」とされているが、実際にウツセミガイが採集された記録や証拠となる標本は見つかっていなかったとのこと。そのため、2011年改訂版の千葉県レッドデータブックでは、およそ50年間正確な記録が無かったことも考慮され、絶滅のランクにあると評価されていた。

研究チームによると、今回採集されたウツセミガイは1個体のみであり、他の海域からプランクトンとして分散してきた幼生が成長した偶発的な出現なのか、館山湾で少数ながらも継続的に生息しているのかは、今のところ明らかではないという。ただし、少なくとも現在の館山湾の環境はウツセミガイが生育するための条件を備えていると考えられることから、今後の同種の出現状況を継続的に調査していくことが必要だとしている。

なお、今回の報告に使用されたウツセミガイの標本と生時の写真、および論文が掲載された学術雑誌については、9月8日から11月5日までの間、千葉県立中央博物館 分館海の博物館にて展示されるとのことだ。

  • 体を伸ばしたウツセミガイ。体を充分伸ばした際の体長は約5cmで、殻の長さは1.4cmほど。

    体を伸ばしたウツセミガイ。体を充分伸ばした際の体長は約5cmで、殻の長さは1.4cmほど。(出所:お茶の水女子大学)