KDDIは9月6日に東京都内で記者説明会を開き、法人向けの事業戦略について説明した。これまで通信事業を軸に培った顧客接点を起点に、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)の技術とグループ会社のシナジーを掛け合わせて、法人顧客のDX(デジタルトランスフォーメーション)を支援するという。

  • 記者会見の様子

    記者会見の様子

顧客接点の多さをDX支援の強みに

KDDIでは「お客さまが非デジタルをデジタル化し、データを活用していくこと」を同社のDXと定義づけているという。昨今は多くの企業がデータドリブンな経営へとシフトしつつある中で、KDDIとしてはデータを活用したビジネスモデルへの変革や新規ビジネスの創出を支援する方針だ。

現在までにDXへの対応を完了したとする企業は16.4%にとどまるという調査結果もある。同様に、「DXを実施している」または「DXに関する実証実験を実施している」とする企業も約半数であり、今後ますますDXへの投資が進むと考えられる。

  • DXへの取り組み状況

    調査から見る、企業のDXの取り組み状況

このような状況に対し、KDDIの取締役執行役員専務を務める桑原康明氏は「モバイルID3000万回線、法人顧客基盤40万回線、IoT4000万回線と、圧倒的なお客さま接点が当社の強みである。スマートフォンやIoTなどデータの入出力が行われる接点を当社は多く保有しており、戦略の策定からサービス開発、サービスの運用まで、一気通貫で提供できる利点も発揮できるはず」と説明した。

同社が持つもう一つの強みは、グループ企業による幅広い対応だ。データの収集・管理から蓄積、分析、活用まで、同社グループ内で対応可能なのだという。

  • KDDI 取締役 執行役員専務 ソリューション事業本部長 兼 グループ戦略本部長 桑原康明氏

    KDDI 取締役 執行役員専務 ソリューション事業本部長 兼 グループ戦略本部長 桑原康明氏

デジタル化から企業間のデータ連携まで、DXを3つのフェーズで支援

KDDIは現在、コア事業とNEXTコア事業の両輪でビジネスを進めている。コア事業は以前から手掛ける通信やモバイルの領域であり、NEXTコア事業はDXをはじめとする新しい事業基盤サービスなどだ。なお、現在の売上比率はコア事業が約6割、NEXTコア事業が約4割ほどだという。

同社はNEXTコア事業の中で、ビジネスDXとして3つのフェーズで顧客企業のデータ活用を支援するとのことだ。フェーズ1は「非デジタルをデジタル化」、フェーズ2は「IoTデータの活用」、フェーズ3は「企業間のデータ融合」である。

フェーズ1では音声データや請求書などのアナログな情報をデータ化し、その活用を促す。また、顧客情報や発注の情報などをクラウド化し、さらに利用しやすい環境を構築するとのことだ。

KDDIグループでコンタクトセンターのBPO事業を手掛けるKDDIエボルバと、三井物産の関係会社でコンタクトセンター事業およびバックオフィス事業を展開するりらいあコミュニケーションズは9月1日に、統合会社としてアルティウスリンクを発足した。ここでは6万人のオペレーターが年間約5億件の電話対応を行うそうだ。これらの対応データと、商品情報や気象情報などを組み合わせることで、顧客のより高度なマーケティング施策を支援する。

  • デジタルデータとクラウドの活用を支援する

    デジタルデータとクラウドの活用を支援する

フェーズ2では、IoT機器から取得できるデータの活用を支える。エンドユーザーの利用状況をリアルタイムで把握しながら、サービスや製品を適切に利用できる環境を構築する。

東洋計器との事例では、エンドユーザー宅に設置したIoT機器でLPガスの利用状況をモニタリングし、配送車の手配や配送ルートの効率化を試みている。今後は気象データや交通データを活用して、AI(Artificial Intelligence:人工知能)などを用いることで、さらなる効率化を図る予定だ。

  • 東洋計器におけるフェーズ2支援の事例

    東洋計器におけるフェーズ2支援の事例

IoT機器の活用の現場は広がっており、今後さまざまな領域での活用を同社は見込む。特に自動車(コネクテッドカー)分野での活用を強化しているそうで、6月にはBMW社での導入が決まっている。KDDIのソリューションを導入したBMWの車は、日本だけでなくグローバルで展開されるとのことだ。

  • BMWでの導入も決定したという

    BMWでの導入も決定したという

フェーズ3では、企業間のデータ活用をサポートする。顧客が1社だけで持つデータを使うのではなく、KDDIが持つデータも掛け合わせることで柔軟なデータ活用を支え、新規ビジネスの創出につなげる。

同社は5月に、東日本旅客鉄道(JR東日本)と共に「TAKANAWA GATEWAY CITY」を舞台として、街の設備や人に関するデータを収集して分析するデータ基盤(都市OS)を構築し、新たなサービスの創出を可能にする街づくりで共創する方針であることを発表した。商業施設やオフィスのデータを活用してデジタルツインを構築し、地域住民や労働者の快適な生活を目指す。

  • JR東日本とKDDIが取り組むデータ活用

    JR東日本とKDDIが取り組むデータ活用

同社はこの3フェーズでの支援の高度化を目的として、生成AIの活用を進める方針だ。既に同社では独自のAIチャット「KDDI AI-Chat」を実務で利用し始めており、社内でのユースケースも蓄積している。今後は同社のサービスに生成AIをアドオンで提供する予定だ。

  • 生成AIも顧客へ提供していく方針

    生成AIも顧客へ提供していく方針

また、DXの生産性向上を目的として、顧客向けに生成AIの導入支援も開始する。KDDIは9月1日からAWS(Amazon Web Services)との連携を開始しているが、今回新たにMicrosoftのAzure OpenAI Serviceとの連携を開始した。今後はGoogle Cloud Vertex AIとの連携も予定しているとのこと。