適格請求書(インボイス)などの保存を仕入税額控除(※)の新たな要件とする「インボイス制度」の開始まで残り1カ月を切った。納税義務のある課税事業者と、納税義務のない免税事業者の登録申請はともに進んでいる状況だが、各所に大きな影響を及ぼす同制度に対する不安の声は尽きない。
経理の2人に1人が抱える不安とは?
請求書受領サービスを手掛けるTOKIUMが経理業務に携わる全国約1000人のビジネスパーソンを対象に実施した調査結果によると、残り1カ月を切った今でも、約7割が制度開始後の業務に不安を感じていることが分かった。
いちばん多かったのは「受け取るインボイスを正しく処理できるか」という不安の声で、2人に1人が回答。これまで認められてきた処理方法が制度開始後には通用しなくなるからだ。例えば、取引先から届いた請求書などに記入漏れがあった場合、現行の消費税法で認められている追記や修正ができなくなり、取引先に修正や再交付を依頼する必要がある。
また「本当にインボイスか否か」の確認も欠かせない。インボイスが発行できない免税事業者の請求書を受領してしまうと、売上にかかる消費税から仕入れにかかった消費税を差し引いて納税する仕入税額控除ができなくなる。そのため、国税庁の公表サイトを活用して登録番号を一件ごと確認するといったことが新たな業務として追加される。
ほかにも、激変緩和の観点から設けられている課税事業者への6年間に及ぶ経過措置の存在により、記帳パターンが現行の3倍に増えたり、ECサイトのインボイスもすべて保存しなければならなくなったりと、経理が頭を抱えるような変更点はいくつもある。
「一般社員だから関係ない」は誤解
もし「自分は経理担当ではないから関係ない」といった考えを持っているとすれば、それは誤りである。一般社員の業務にも少なからず影響はある。
例えば、接待などで利用した飲食店の領収書や営業時のタクシー代や駐車場代(レシート)などもインボイスの対象となり、税込3万円未満の取引であっても、仕入税額控除を受けるには領収書が必要な場合がある。
また先述したTOKIUMの調査結果によると、経理の約4割が「経営陣が法制度による業務負荷への理解が不足している」と感じているようだ。加えて、4割超の企業が社員への説明会を実施する予定がなく、全社での理解促進がまだ足りていない様子がうかがえる。
「経理は従業員にルールを守ってもらい、提出されたインボイスが正しいか確認が必要。経理以外は制度やルールを理解した上で対応しなければならない」(TOKIUM広報)
なぜ受取側の対応は進まないのか
インボイス制度が始まると、特に受領に関する業務負担が大きくなることは先述した。
しかし、インボイス管理サービスを手掛けるSansanの調査によると、インボイス制度への対応を進めていると回答した人のうち、受領に関わる準備を完了しているのはわずか2割だった(2023年7月時点)。請求書を発行するための準備を進めている企業は多いが、自社が受け取る請求書の処理に関する対応準備は遅れているのが現状だ。
なぜ、受け取り側の対応が遅れているのか。「そもそもの認知が遅れている。インボイス制度への対応が『適格請求書発行事業者への登録を行うこと』と『適格請求書を発行できるようにすること』だけだと勘違いしている事業者が少なくはない」と、Sansan Bill One事業部 チーフプロダクトマーケティングマネジャーの柘植朋美氏は見解を示す。
もう一つ理由がある。「発行側は取引先に明らかに迷惑をかけてしまうからと急いで対応を進めたが、受領側は最悪社内で何とかできるといった認識を持っている企業もいるはず。第一関門を突破することに必死で、その後のことまで頭が回っていない可能性もある」(柘植氏)
順番待ちの対応になるケースも
国税庁によると、課税事業者のインボイス登録は7月末時点で9割を超えた。しかし「とりあえず登録を済ませただけで、業務への適応を完了できている企業は多くはない」と、田中麻里税理士は同制度への対応に追われる事業者の現状を説明する。
受領側の対応ばかり論じてきたが、発行側の対応も一筋縄ではいかない。請求書などのフォーマット変更や請求書の計算方法の見直し、請求書の写しの保存義務化など対応すべき項目は多い。「フォーマット変更のためにシステム改修をベンダーに依頼したが、この時期ベンダーは各社の対応に追われているため、順番待ちの対応になるケースもある」(柘植氏)
1カ月はあっという間に過ぎる。見落としがちな売手・買い手側の落とし穴を今のうちにしっかりと再確認し、できるだけ不安を解消しておきたいところだ。