野村総合研究所(NRI)は8月25日、報道関係者への最新情報の提供と意見交換を目的とした「NRIメディアフォーラム」を開催した。第363回目となる今回のテーマは「生成AIで変わるビジネス」。

同フォーラムには、野村総合研究所 未来創発センター 生活DX・データ研究室 エキスパート研究員の鷺森崇氏、デジタル社会研究室 エキスパートストラテジストの長谷佳明氏が登壇し、生成AIで何ができるのか、ビジネスにどう活用できるのか、活用するための課題は何か、技術的な視点で見た場合の展望や課題などについて解説した。

本稿では、その一部始終を紹介する。

生成AIは「さまざまなコンテンツを生成する学習能力を持った人工知能」

最初に登壇した鷺森氏は、「生成AI時代にビジネスはどう対応すべきか」というタイトルで、急拡大する生成AI市場の現状や広がるビジネスでの活用について説明した。

「『生成AI』つまり『Generative AI』は、AIで『生産する』または『発生させる』ことができるという意味を持っています。ChatGPTであれば、条件に応じた文章が生成可能であり、新たなデータを入力して学習することで生成する文章の精度を高めることも可能です。つまり、『生成AI=さまざまなコンテンツを生成する学習能力を持った人工知能』なのです」(鷺森氏)

  • 生成AIについて説明する野村総合研究所 未来創発センター 生活DX・データ研究室 エキスパート研究員 鷺森崇氏

このような特徴を持つ生成AIだが、従来のAIとは大きく異なる性質を持つという。それが「新しいコンテンツの生成」だ。

従来のAIが、「情報の整理・分類・検索」といった決められた行為の自動化を行うものだったのに対し、生成AIでは学習の視点が「パターンと関係の学習」に変化しているという。

このように従来のAIから大幅な進化を遂げている生成AIは、年平均成長率が30%を超える勢いで急拡大しているとのことだ。

「生成AIに関連する市場規模は、世界全体で、2022年には約1.5兆円を達成しました。そして、market.usの予測値では、2032年には約21兆円にまで成長することが見込まれています」(鷺森氏)

鷺森氏は、市場成長の要因として「ビジネス活用企業の拡大」「ソフト・サービスの充実」「基礎技術・モデルの向上」を挙げた。

ここまで急速に普及している生成AIであっても、日本においてはまだまだ業界によって生成AIの導入に差があるようで、建築・土木業界や運輸・物流業界、公共機関などでは導入が進んでいないという。

しかし、これらの業界では今後の拡大が急速に広まるとの予測もあり、現在すでに先行的に導入が進められているIT・通信業界や教育・学習業界に追いついてくるとの見方もあるそうだ。

なお、業界ではなく企業単位で見ると、導入や取り組みを進める企業は多く、鷺森氏は以下の企業を例に挙げていた。

「今は進化の始まりにしか過ぎない」

続いて登壇した長谷氏は、「生成AIのテクノロジーはどう変わっていくのか」というテーマで、生成AIの展望を語った。

「先ほど、Generativeは生成という意味だと説明しましたが、この言葉に惑わされてはいけません。生成AIの本質は『言語と知識を操るAI』だからです。面白い画像や文章を作ることが現在は注目を集めていますが、本質はそこにはありません」(長谷氏)

長谷氏が、生成AIの技術的観点からの課題として挙げたのは、「コスト」「従来型AIと比べた時の処理時間の長さ」「抜本的なアーキテクチャの見直し」「知識の整備」という4点だ。

この中でも、「コスト」と「従来型AIと比べた時の処理時間の長さ」は短期的な課題、「抜本的なアーキテクチャの見直し」と「知識の整備」は中長期的な課題だという。

短期的な課題である2点は、急速に普及が進んだことによる開発競争の中で、大規模化や性能の向上を優先した結果、実用面での課題が山積みになってしまっている状態だという。

中長期的な課題について、長谷氏は以下のように語った。

「現在の生成AIは、プログラムにデータを書き込んだメンテナンス性の悪いシステムになってしまっています。また、言語処理などのシステムは実用域に達しているものの、知識の面では発展途上と言えます」(長谷氏)

  • 生成AIの課題を語る長谷氏

それらを踏まえて、長谷氏は以下の図のように生成AIは発展していくのではないかとの仮説を紹介した。

  • 生成AIの展望の仮説

これらを踏まえて、長谷氏は「今は進化の始まりにしか過ぎない」と語った。

「現在は、ブーム初期のように企業と研究の両輪が回り、急速に進化しています。1年かかっていたことが1週間で済んでいるということからも分かるように、AIの進化は早いのです。今後の10年を考えると、2023年は『第4次AIブームが始まった年』と言われているかもしれません」(長谷氏)