日本プロサッカーリーグ(以下:Jリーグ)は7月31日、環境省との連携協定2周年を記念したイベントを開催した。二部構成で行われた本イベントでは、今年度からパートナーカテゴリーとして新設した「Jリーグ気候アクションパートナー」に、日本電信電話(以下:NTT)と丸紅新電力、明治安田生命の3社が加盟したことが発表された。

本稿では、加盟した3社のコメントを紹介すると共に、第二部のトークセッションを振り返る。

「Jリーグ気候アクションパートナー」を新設

第一部には、環境省 副大臣 山田美樹氏、Jリーグ チェアマン 野々村芳和氏、NTT 代表取締役社長 社長執行役員 島田明氏、明治安田生命保険 取締役 代表執行役社長 永島英器氏が登壇した。

  • 左から明治安田生命保険 永島氏、Jリーグ 野々村氏、環境省 山田氏、NTT 島田氏

まず、山田氏は、環境省の環境基本計画において、地域ごとの取り組みの重要性を強調していくことに言及。Jリーグの取り組みについて「地域脱炭素の必要性や、自治体との取り組みを住民や地元企業へ発信すること、地域活性化を目指した連携が展開されることを願っている」との期待を寄せた。

これまでも環境省とJリーグは多くの取り組みを実施しており、試合会場でのフードドライブの実施や、熱中症対策のリーフレットの配布などを行ってきた。続いて登壇した野々村氏は、3年目を迎えた環境省×Jリーグの取り組みについて「環境問題の解決とJリーグ本来の姿である地域創生が重なる部分に注力したい」とコメントした。

加えて、Jリーグとして「2023シーズンJリーグ全公式戦でのカーボン・オフセットの実施」と「クラブ主体で行われる環境アクション」を支援することを表明。新設した「Jリーグ気候アクションパートナー」について説明した。

「サッカーをすることや、お客さまを安心してお迎えできるといった“当たり前のこと”が当たり前にできなくなりつつあることに、強い危機感を感じました。サッカーを支える社会や健全な自然環境が揺らいでいる中で、Jリーグが気候変動問題の解決に貢献することは非常に重要なことだと考えています」(野々村氏)

加盟3社の取り組み

NTTは従来からオフィシャルテクノロジーパートナーとして、ファンの試合観戦ニーズに合わせた映像制作のDXや、NTTドコモとも連携したデジタルマーケティングの支援を行ってきた。同パートナーシップへの加盟にあたり、NTTでは同社の独自構想「IOWN(Innovative Optical & Wireless Network)」に基づくサービス実装で環境保全に取り組む。

これにより、試合の映像を大容量かつ高品質、低遅延で転送しつつ、消費電力を抑えることが可能だという。島田氏は「技術やサービスを活用しながら、持続可能な社会の実現に向けてJリーグと一緒に進んでいきたい」と意気込みを述べた。

  • JリーグとNTTのキャンペーン「TH!NK THE BALL PROJECT」

一方、タイトルパートナーとしてJリーグや各クラブと10年以上のパートナーシップを継続してきた明治安田生命は、「明治安田×Jリーグの森 ~未来をつむぐ森~」と題して森林の再生や保全活動を行う。また、丸紅新電力では、カーボン・オフセットの実現に向けて「FIT非化石証書」を提供。試合運営に再生可能エネルギーで発電されている電力を使うことで、Jリーグが開催する全試合の電力使用により発生したCo2量をオフセット(相殺)する。

気候アクションに参加しやすくするには? - Jリーグ×NTTでアプリを共同開発

第二部には、NTT 取締役執行役員 工藤晶子氏、FC東京 クラブコミュニケーター 石川直宏氏、Jリーグ サステナビリティ部 執行役員 辻井隆行氏が登壇。NTTとJリーグの協働プロジェクト「TH!NK THE BALL PROJECT」についてトークセッションを実施した。

同プロジェクトは、NTTグループが持つテクノロジーを活用して、ファンやサポーター、市民が気軽に気候アクションに参加できるような体制を強化するものである。工藤氏は同プロジェクトの背景について次のように語る。

「街づくりは地域が主役で、住民や市民がつくっていくものと考えています。(中略)皆さんに気候アクションに参加していただける体制を強化することで、地域コミュニティの形成と活性化に貢献したいと思います」(工藤氏)

  • NTT 取締役執行役員 工藤晶子氏

NTTとJリーグは、共同でスマホアプリを開発。同アプリでは、ユーザーが取り組みやすい気候アクションを検索して選び、実践するとポイントが貯まる仕組みとなっている。アプリ上で気候アクションを記録、ユーザー同士で共有すると、実践したアクション分のポイントは応援しているクラブの活動量としても計上され、ユーザーへ返礼が届く仕組みだという。

2023年シーズンは、所属カテゴリーとホームタウンの地域を考慮し、横浜F・マリノス、ベガルタ仙台、ギラヴァンツ北九州の3クラブを対象にトライアルを実施。今後、希望した全てのクラブが参加できるように体制を整えていくとのことだ。

FC東京で「クラブ・地域や社会・ファンをつなぐ役目」であるクラブコミュニケーターを務める石川氏は、FC東京のサポーターたちとともに地域の住民や自治体と連携してすでに多くの気候アクションを行っていると語る。

だが、サポーターからは「もっと力になれることはないか」との声が多く挙がっているのだという。石川氏は、こうした状況を説明した上で「ファンの起こした気候アクションが可視化されて、クラブにも還元される仕組みはとても素晴らしいと思う」と、同施策を称賛した。

アスリートのセカンドキャリアにも気候アクションのヒントが

環境にまつわる社会課題が多くある中で、セッションでは農業における地域活性化や再生エネルギーの活用も話題に上がった。

太陽光パネルの下で農場を運営するNTTでは、再生エネルギーやテクノロジーを活用した地域課題の解決にチャレンジしている。この農園では太陽光発電を行う傍らでレタスやパプリカの栽培が可能で、農場運営による地域での雇用創出にも貢献しているそうだ。

こうした取り組みに対して辻井氏は「Jリーグとしてはまだこういった取り組みができていないものの、可能性を感じる。(太陽光発電で)再生エネルギーを使ってCO2を出さない発電もできるので、農業を通じて環境を再生することにも繋がる」と話した。

  • Jリーグ サステナビリティ部 執行役員 辻井隆行

石川氏もクラブコミュニケーターの活動以外に、長野県飯綱町に農地を所有して野菜の栽培などを行っている。2017年に現役を引退して以降、サッカーに注いできた熱量を農業に向けているのだという。

「僕は全然農業には詳しくありませんが、詳しくないからこそ見える課題もあります。それをスポーツ界やサッカー界を通して発信することで、目の前のことに向き合えるアスリートの力を農業にも生かせないかと思っています」(石川氏)

  • FC東京 クラブコミュニケーター 石川直宏氏

セッションの最後に辻井氏は、さまざまな地域課題の解決や気候アクションの推進についてこう語った。

「『TH!NK THE BALL PROJECT』も含めて、こうした活動を広げていくにはナオさん(石川氏)のように皆さんの力が必要になります。(中略)Jリーグとしては前向きに、楽しく気候アクションに取り組みたいと思っています」(辻井氏)