クアルトリクスは8月2日、カスタマーエクスペリエンス(CX)/従業員エクスペリエンス(EX)に焦点を当てたイベント「X4 on Tour Tokyo」を東京国際フォーラムにて開催した。エクスペリエンス管理(XM:Experience Management)に取り組む先進企業が集結した同イベントには、700名以上が来場。CX/EXの2トラックに分けて行われたブレイクアウトセッションは、聴講者の熱気で溢れた。
“体験”を重視する同社のイベントらしく、会場には優れたイベント体験を提供するために結成された「Dream Team」がスタンバイ。普段は顧客企業のCX/EX向上に尽力するクアルトリクスのメンバーが、来場者のリクエストに可能な限り応えるという趣向が凝らされていた。
当日の基調講演には米Qualtrics プレジデント兼COO ブライアン・ストゥーキ氏、クアルトリクス カントリーマネージャー 熊代悟氏、同ソリューションストラテジー シニアディレクター 市川幹人氏らが、同社がエクスペリエンス管理に懸ける想いやAI関連のイノベーションについて語ったほか、後半はユーザー企業3社が登壇。各社それぞれの顧客体験・従業員体験の向上に向けた取り組みが紹介された。
本稿では、前半で言及されたクアルトリクスの取り組みにフォーカスしてお届けする。
最新技術への注力でXMの最適化を
冒頭、登壇した熊代氏は「我々はビジネスにとって重要なCX、EX、PX(プロダクトあるいはサービス体験)、ブランドの4つのエクスペリエンスを総称して『X4』と呼んでおり、イベント名はこれに由来する」と説明。このイベントで、参加者らがXMの最新技術について学んだり、取り組みについて情報共有したりしながら、この分野を盛り上げていってほしいと呼びかけた。
熊代氏に呼び込まれるかたちで登壇したストゥーキ氏は、「5年前に東京にオフィスを開設して以来、人材に投資を続け、今では120人以上のチームに成長している。ローカルのデータセンターでの技術提供も実現しており、日本へのコミットメントはこれまで以上に強くなっている」と力を込める。
さらに、イベント前日に発表した「XM/os2」に言及し、AI関連のイノベーションに5億ドル投資していくことを説明。「これにより、次のXMの時代が最適化される」とし、リーダー的な組織がビジネスのより良い体験を提供できるようになると語った。
AI×XMで明らかになる新たなインサイト
では実際、同社はAIによって何を実現するのか。続いて登壇した市川氏から、その取り組みについて語られた。
同氏によれば、昨年クアルトリクスのユーザーは音声・テキストによる会話を20億件、フィードバックを16億件分析し、120億件のXIDプロファイル(従業員・顧客体験に関するプロファイルデータ)を更新。加えて20億件のワークフローを実行し、顧客や従業員の体験改善に取り組んだという。市川氏は「これは、クアルトリクスが世界最大級の体験データを蓄積しているということを意味する」とし、「(同社は)AI・機械学習において、モデルに学習させるために必要な“人間の感情データ”を十二分に保有している稀な存在だと言えるだろう」と説明する。
「クアルトリクスには、どんな体験データもインプットすることが可能です。リアルタイムで、誰がどんな意図で何をしようとしているのかや、そのときの感情といったものを分析できるようになっています」(市川氏)
そしてその最大の特長は、こうしたデータの収集・分析をアンケート調査だけに頼るわけではない点だという。
「クアルトリクスのAIは、バックグラウンドでユーザーのデジタル行動をチェックすることもできます」(市川氏)
例えば、ユーザーの体験データと、ユーザーがアプリでどういう操作をしていたのか、といった操作データを結び付けたデータを活用し、「ユーザーがその瞬間にどう感じていたのかを的確に把握する」と言った具合だ。
また、ユーザーが生成する膨大なデータを自動的に分析・結合・匿名化し、過去のアンケート調査などと組み合わせ、重要な情報とそうでない情報を振り分け、最も重要なドライバー(アクションをとるべき要因)は何なのかに自動的にフォーカスすることも可能だという。
こうした仕組みは、顧客体験に限ったものではない。市川氏は「XMプラットフォームは非常に幅広い範囲で利用することが可能だ」と説明する。例えば、人事部門では、従業員から得た情報をベースに、課題を発見することができる。製品部門は、大量のユーザーレビューから、どのような改善が必要かを把握することができるといった具合だ。マーケティング部門であれば、SNS上で交わされているやり取りからキャンペーンの効果をモニタリングするといったことにも使えるだろう。
「例えば、従業員の能力や、やる気を引き出す目的でデータを使うこともできますし、顧客接点を持つ現場の改善のためにツールを使うこともできます。つまり、ビジネスのあちこちで起きているいろんな体験を結んでいくことができる、これが弊社の強みになります」(市川氏)
実際、同社のエンジニアリングチームは数年にわたり、同一のプラットフォーム上で、共通のフィールドや属性を持たないさまざまなタイプのデータを扱えるようにするには、どのようにつなぎ合わせたらよいのかという観点でシステム開発を行ってきたのだという。これにより生まれたのが「Cross XM」だ。
Cross XMは、従業員エンゲージメントの調査結果やブランドトラッカーのデータ、CSAT(顧客満足度スコア)といったさまざまな体験データを集約・分析することで、最重要ドライバーを洗い出すというもの。データの集約作業は全て自動実行され、結果は行動計画ツールに直接表示される。
集約により、例えば、NPS(Net Promoter Score:顧客ロイヤルティの指標)が下がっていて、収益トレンドも下がっていれば、顧客の体験に問題があるのではないかと推測できる。顧客データを分析して、どこに要因があったのかを見る必要性を感じるかもしれない。もしくは、カスタマージャーニーをチェックして、どこのプロセスに問題があったのか、それを解消するにはどうすればよいのかを考えるだろう。
「しかし、もしかしたら根本にあるのはCXの問題ではないという可能性もあります。つまり顧客に接する現場である従業員側の体験に何か問題があって、最終的に業績の低下に繋がっているということも十分考えられるわけです」(市川氏)
EXとCXの統合管理 - 米大手銀行の事例
講演では、Cross XMを活用する企業として、2万2000人以上の従業員を抱え、1000以上の支店を展開する米M&T銀行が紹介された。同行では、Cross XMによってEXとCXを両方管理しているという。
市川氏は、Cross XMによって出力されたチャート例を示し、NPSに対する影響度が高いEX項目、低いEX項目が見て取れることを説明。「この銀行では、EXに関して検討すべき課題がいろいろあるわけだが、まずは顧客体験につながるこの2つについて考えてはどうか、ということが言える」と説明する。
さらに、支店別に比較した場合、EXが15%低下している支店がNPSも24%低く、月間の新規口座開設件数も全支店の平均に対して18件低いという結果が出たことを示し、「このように、従業員の頑張りが十分に評価されていないことが、顧客サービスの低下にも繋がっているのではないか、ということが浮き彫りになる。これが、統合されたプラットフォームの力だ」と述べた。
「これからこのようなAIのイノベーションを提供していくことで、どんな効果的な取り組みが実現できるようになるのか、非常に期待しています」(市川氏)