ヤンマーマルシェとNTTコミュニケーションズ(NTT Com)は8月2日、生産者の新たな収益源となるJ-クレジット創出に関する取り組みを開始すると発表した。
両社は、ヤンマーマルシェが契約する一部の生産者が栽培する多収・良食味米「にじのきらめき」を対象に中干し(水稲栽培の過程で水田より水を抜く)期間の延長を行い、J-クレジットの認証取得に取り組む。
また、営農支援や米の販売・流通支援を行って脱炭素と生産者の収益向上を両立する新たな農業モデルを構築することで、持続可能な農業に向けた支援を強化する。
ヤンマーマルシェ フードソリューション部 部長 菊池満氏は、J-クレジット創出とサステナブルな農業モデルの実証に取り組む理由について、生産者と実需者を支援するためと説明した。
温室効果ガスのなかでもメタンガスは気候変動に与える影響が大きく、メタンガスの温室効果はCO2の約25倍とされている。国内のメタンガス排出量の約45%は稲作に分類されており、その抑制によるインパクトは大きいといわれている。
菊池氏によると、水田から発生するメタンを減らすには 落水期間を長くすることが大事であり、従来の中干し期間から7日延長することで、メタンを3割削減できることが確認されているそうだ。
菊池氏は、「中干し期間延長によるメタンガスの削減策は、生産者が大きな投資を必要としないため、取り組みやすい。また、環境に配慮した農産物として市場で高く評価されれば、中干し延長による成果が経済的に報われることになる可能性がある」と述べた。
ただし、中干し期間を延長することで、品質・収量が低下して経済的損失を被る可能性もある。
実需者に対しては、今回の取り組みにより、環境にやさしい米の生産に対する要望に応えることが可能になる。
一方、NTTコミュニケーションズ ビジネスソリューション本部 ソリューションサービス部 イノベーションオフィサー 熊谷彰斉氏は、同社のカーボンクレジットビジネスについて、次のように説明した。
「当社は農業と脱炭素の掛け算で何かできないかについて模索していた。カーボンクレジットによるカーボンオフセットで環境に良い取り組みが後押しされる。2050年度における農林水産分野における温室効果ガス削減効果は約4,700万トン、約2.0兆円の経済波及効果を持つ。われわれは、共創企業との脱炭素の活動を通して、脱炭素社会の実現と社会課題の解決を目指している」
今回の取り組みでは、中干し期間を延長することでメタンガス排出量を削減するとともに、カーボンクレジット化を目指す。その背景には、今年3月にJ-クレジット制度で、クレジット生成の方法論として中干し期間の延長が承認されたことがある。
「水稲栽培における中干し期間延長」の方法論では、中干し期間をその水田における直近2年以上の実施日数の平均より7日以上延長することで、延長をしなかった場合に想定される温室効果ガス排出量をJ-クレジットとして申請できる。今回、中干し期間延長のエビデンスをとるため、NTT ComのIoTセンサー「MIHARAS」で必要なデータを取得して管理する。
取得したデータはNTT Comが提供するアプリに自動で連携され、アプリからJ-クレジットの申請まで一気通貫で完結する。NTT comの熊谷氏は、「クレジット申請に必要なデータが自動で登録されるため、複雑なJ-クレジット申請業務の煩雑さをなくす」と説明した。
さらに、ヤンマーマルシェは収穫量の確保および品質の向上にむけた営農支援も行う。ヤンマーマルシェの菊池氏は、「われわれは生産から販売までバリューチェーン全体にわたり支援する」と語った。
同社は契約している生産者に対し、J-クレジットの提案、アプリとセンサーの扱いやクレジットの申請に必要なデータの取得の支援などを行う。また、生産された米には、メタンガス抑制栽培の実施証明としてJ-クレジット申請/認証記録を添付し、環境に配慮した米のブランド化を図る。
NTT Comは、J-クレジットの市場へ流通するほか、生産された米の販売をdショッピングで行うことを検討している。
なお、環境配慮の経済的な価値だが、通常の米よりも2~3割高価な減農薬や有機米よりは手ごろな価格帯を想定しているという。生産者は手間をかけることなくJ-クレジットを申請できることから、米の販売額が上がった分だけ手取りが上がり、費用対効果が高いと見ているとのことだ。