デル・テクノロジーズ(以下、デル)は現在、同社のインフラソリューションをas a Serviceモデルで展開する「Dell APEX(以下、APEX)」を拡大中だ。このほど、米国本社でAPEXのポートフォリオ管理を担当するChad Dunn(チャド ダン)氏の来日に伴い、その市場動向や戦略、顧客の要望について話を聞いた。

  • デル・テクノロジーズ 「Dell APEX」製品管理担当バイスプレジデント Chad Dunn氏

    デル・テクノロジーズ 「Dell APEX」製品管理担当バイスプレジデント Chad Dunn氏

見えてきたマルチクラウド利用の課題

まず、現代はマルチクラウドの利用が進みつつあるのは言うまでもないだろう。開発者は企業のイノベーションを推進する起点となる重要な存在であり、クラウドの柔軟さとスピード感は非常に有用だ。

実際に、83%の企業・組織が「マルチクラウド戦略が優先順位の高いトップ5に入る」と回答し、約80%の開発者が「4つから5つのクラウドを使用している」と回答した調査もある。

  • クラウド利用のトレンド

    クラウド利用のトレンド

その一方で、一度クラウドに移行したもののクラウドに適していないことが判明してオンプレミスへと戻したワークロードが、25~35%も存在するとの調査結果も出ている。また、「複数のクラウドを利用すると非常に高額になる」あるいは「マルチクラウドは高額になると思っている」とする声も多いようだ。

そうした状況に陥る背景について、Chad Dunn氏は次のように指摘する。

「組織の開発者らが複数のパブリッククラウドを利用したいと思ったときに、企業としての明確なクラウド戦略を立てる前にクラウドを使い始めてしまったのが要因の一つ。本来はクラウドに適していないワークロードが含まれているにもかかわらず、CIOなど上層部の"鶴の一声"でとにかくクラウドに移行してしまった」

多くの企業で、パブリッククラウドをデータストレージとして使いたいという要望があるだろう。しかし、データグラビティの問題や、コンプライアンスおよび法規制への対応、ガバナンスの観点などから、実際にはパブリッククラウドでの運用が難しい場合がある。

「今後のクラウド戦略のあるべき姿は、パブリッククラウドとオンプレミスのバランスを取ること。それぞれの環境に適しているデータやワークロードの違いを理解して、適切に使い分けていくことが求められる」(Chad Dunn氏)

「APEX」でユーザーが意図した通りに複数のクラウドが連携して動く世界を実現

そこで、デルが打ち出しているのが「APEX」である。同社がこれまで提供してきたストレージやクラウドプラットフォーム、コンピューティング、PCデバイスまでをも、従量課金型のas a Serviceモデルで提供しようという戦略だ。

同社がオンプレミスで提供してきた技術やIP(知的財産)を、クラウド上でソフトウェアライクに使える"グラウンド・ツー・クラウド"と、オンプレミスやエッジ環境でもクラウドライクな体験を享受できる"クラウド・ツー・グラウンド"によって、顧客の柔軟なワークロード配置を支える。

同社はこれを「マルチクラウド・バイ・デザイン」と称している。ユーザーが意図した通りに複数のクラウドが連携して動く世界観を実現するのだという。

  • 「マルチクラウド・バイ・デザイン」戦略の概要

    「マルチクラウド・バイ・デザイン」戦略の概要

一度クラウドの利用が進みすぎてしまったというワークロードだが、オンプレミスでの利用へと戻すのは難しいのだろうか。そう聞いてみると、Chad Dunn氏は「そう簡単にうまく戻せるものではない」と笑いながら答えた。

しかし同時に、「"Cloud Repatriation"(クラウドからの回帰)という言葉が使われているように、業界でも議論されている内容ではある。ただし、私はそこまで大きなトレンドになっているとは思っていない。一度クラウドに移行したものの、実はクラウドに適していないことが判明したワークロードをオンプレミスに戻すだけなので、ワークロードの適正を判定するようなツールや当社がAPEXで提供する柔軟性を活用してもらえれば、誤った配置は減らせる」とも語っていた。

  • デル・テクノロジーズ 「Dell APEX」製品管理担当バイスプレジデント Chad Dunn氏

進化を続ける「Dell APEX」

APEXのグラウンド・ツー・クラウドにおいては、これまでオンプレミスで利用していたソフトウェアをクラウド上で稼働させることができる。各ハイパースケーラーに対応し、オンプレミスからクラウドへ、そしてパブリッククラウド間でのデータの可搬性を担保するという。

5月に実施したDell Technologies Worldでも発表されたように、「Dell APEX Protection Storage for Public Cloud」「Dell APEX Block Storage for AWS」「Dell APEX File Storage for AWS」「Dell APEX Block Storage for Microsoft Azure」など大型の拡張が実施された。

  • グラウンド・ツー・クラウド戦略

    グラウンド・ツー・クラウド戦略

ブロックストレージ向けには「Dell PowerFlex」と同じ技術が、また、ファイルストレージ向けには「Dell PowerScale」と同じ技術がベースとなっているとのことだ。なお、「Dell PowerScale」はクラウド・ツー・グラウンドにも共通して使われているそうだ。

APEXのブロックストレージサービスは、各クラウドベンダーがネイティブに提供しているストレージサービスに依存しない点が特徴だ。クラウド上ではデルが提供するソフトウェアが稼働しており、同社の調査によると、ネイティブのクラウドストレージと比較してドル単価当たりの性能が300%向上しているのだという。

特に、大規模なデータベースやアナリティクスなど、高いパフォーマンスが求められるワークロードに適しているとのことだ。必要なタイミングで必要な場所にデータを移せる柔軟性をメリットとしている。

  • APEXブロックストレージサービスの特徴

    APEXブロックストレージサービスの特徴

一方ファイルストレージサービスは、エンタープライズクラスのセキュリティ性とデータサービスを提供する。1つのネームスペースで1ペタバイトまで対応可能な容量を持つ。メディアやエンターテインメント領域の他、ライフサイエンス、AIのモデリングなど、非構造化データを大量に扱うようなワークロードに向いているそうだ。

  • APEXファイルストレージサービスの特徴

    APEXファイルストレージサービスの特徴

これらAPEXの各サービスを一元管理するサービスが「APEX Navigator for Multicloud Storage」だ。APEX コンソールから利用を開始できる。同サービスを利用することで、複数のクラウドストレージを容易にデプロイ可能となる。

管理画面から目的のストレージの種類とクラウドプロバイダー、アベイラビリティゾーンをそれぞれ選択し、使用中のパブリッククラウドのアクセストークンを入力するだけで利用を開始できる。

デプロイ後にはモニタリングやクラウドの管理が可能だ。利用状況やデータ容量、データモビリティのオーケストレーションにも対応する。

  • 「APEX Navigator for Multicloud Storage」の管理画面の例

    「APEX Navigator for Multicloud Storage」の管理画面の例

いま一度マルチクラウドの利用状況の見直しを

Chad Dunn氏によると、日本のマルチクラウドの利用状況は他国と比較しても同程度で、特に進んでいるわけでも遅れているわけでもないという。

そうした中で、日本市場については「日本はSIerのコミュニティが活発で、as a Serviceモデルのソフトウェアを利用したいという意向が強い」と、同氏は見ている。

だからこそ、デルが展開するAPEXのようなクラウドライクなサービスにSIerが独自の付加価値を上乗せして売るという販売モデルが適しているのだろう。同社はAPIアクセスも提供し、エンドユーザーがよりシームレスに利用しやすいよう支援している。日本に適した販売手法でさらなるエンハンスを図る模様だ。

Chad Dunn氏は「まずは既存のワークロードの配置が本当に最適かどうか、改めて見直してほしい。すでにマルチクラウドを利用しているユーザーだとしても、オンプレミスも含めてもっと柔軟にデータを扱う余地があるはず。APEXで最適化のお手伝いをしたい」と日本市場に向けてメッセージを送った。

  • デル・テクノロジーズ 「Dell APEX」製品管理担当バイスプレジデント Chad Dunn氏