東日本電信電話(以下、NTT東日本)、プランティオ、タニタは7月26日、都市型農園「アーバンファーミング」領域での新事業に向けて食農事業で協業を開始することを発表し、記者説明会を開いた。3社は都市型スマート農園の開発や新規就農につなげる機会の創出など、都市部における「食」と「農」と「健康」の各観点から取り組みに参画する。

協業の第1弾として、タニタ本社(東京都 板橋区)の敷地内に設置したテストフィールド「タニタふれあい農園」を用いた実証実験を開始する。まずは3社の社員らが試験的に野菜の栽培を開始するが、今秋をめどに近隣住民にも農園を解放する予定だ。

  • 「タニタふれあい農園」での説明会

    「タニタふれあい農園」での説明会

都市部の農耕地における課題

近年は就農人口の減少や生産緑地の減少により、都市部においても農業に接する機会は減少している。特に都市部においては耕作地が分散し狭小化している課題がある。駐車場やマンション、住宅を作るために農耕地を手放す例も少なくないようだ。こうした課題は日本に限らず世界的に見られているという。

そのような状況の中で、世界各地で都市型の農業「アーバンファーミング」に取り組む例が増えている。アーバンファーミングは特定の農業の手法を表す言葉ではなく、都市部における農業的な活動の総称だ。屋上菜園などが主な例である。

  • 世界各地でのアーバンファーミングの例

    世界各地でのアーバンファーミングの例

アーバンファーミングは消費地の近くで農産物を生産できるため、一般的な野菜と比較して輸送に使うエネルギーを減らしながら地産地消に貢献できる。その他、地域住民のコミュニティの創出や景観形成、生物多様性の維持にもつながる。被災時の避難場所や防災食といった防災機能も期待できるという。

そこで今回3社は、プランターなどを活用してビル屋上や舗装地などさまざまな形態の遊休地に開設でき、IoT(Internet of Things:モノのインターネット)機器を活用して誰もが気軽に参加できる都市型スマート農園の構築と検証に取り組む。

  • アーバンファーミングに期待できる価値

    アーバンファーミングに期待できる価値

3社の役割と今後の展開

3社が手掛ける農園は一般的な区画貸しではなく、農園全体を参加者らのコミュニティが交流しながら共同で野菜を育てる「シェア型」という特徴を持つ。SNS(Social Networking Service)のような参加者向けのアプリケーションを用いて複数人で農場を管理する。

  • 3社の役割

    3社の役割

NTT東日本はICT(Information and Communication Technology:情報通信技術)を用いた営農支援実績やノウハウ、通信環境の構築で培ったエンジニアリング力を提供する。プランティオは独自開発のIoTセンサー「grow CONNECT」を活用し、天候データや土壌の温度などのデータに基づく水やりや間引きのタイミングを農園利用者に通知する。同社のアプリ「grow GO」では参加者同士のコミュニケーションや、水やりなどを実施した参加者への「いいね」などができ、農園のコミュニティ運営を支援する。

  • 「grow CONNECT」を持つプランティオCEO芹澤孝悦氏

    「grow CONNECT」を持つプランティオCEO芹澤孝悦氏

タニタは実証の場として「タニタふれあい農園」を提供するだけでなく、「タニタ食堂」で培った健康作りや健康的な食のノウハウを組み合わせることで、新たな農体験を通じた地域活性化、健康寿命の増進、農の関心人口増加を目指す。同社によると、農作業の運動強度は4.5メッツ(運動量が安静時の何倍なのかで表す単位)に相当するそうで、これはバドミントンや水中での歩行と同程度だ。

農園で収穫した野菜は参加者同士が持ち帰って自宅で食べるだけではなく、近隣の飲食店と共同でイベントを実施するなど、地域コミュニティのさらなる活性化のためにも活用できる余地があるという。

  • ケールの生育状況をセンシングする「grow CONNECT」

    ケールの生育状況をセンシングする「grow CONNECT」

NTT東日本はこのアーバンファーミング事業について、2024年度中の事業化を目指している。都市部の農耕地について同じような悩みを抱える企業や自治体向けに展開し、将来的には農園の設計開発なども含めてオールインワンで提供できる体制とする方針だ。間引きや水やりなど栽培に貢献した人に対して近隣の飲食店のクーポンを配布するような、参加者向けのインセンティブについても今後検討する予定としている。