野村総合研究所(NRI)は7月25日、報道関係者への最新情報の提供と意見交換を目的とした「NRIメディアフォーラム」を開催した。第358回目となる今回のテーマは「中国生成AI業界の現在地」。
同フォーラムには、野村総合研究所 未来創発センター 戦略企画室 エキスパートの李智慧氏が登壇し、中国の生成AI業界の現状と特徴、政府の戦略、リスクへの対応など、7月上海で開催された2023世界人工知能大会の最新情報を交えて、中国現状と今後の展望を解説した。
本稿では、その一部始終を紹介する。
多くの企業が参入する「生成AI業界」
李氏は、最初に「急拡大している中国の生成AI業界」の現状について、次のように説明した。
「中国政府は、2021年に『十四次五ヵ年計画』にてデジタル中国戦略を打ち出しました。同戦略では、AIをはじめとしたデジタル技術の経済、社会などとの融合を促進します。その中で、AI産業は『次世代情報技術産業』として重点発展領域に指定されています」(李氏)
また、現在中国ではChatGPTブームを受けて、生成AI業界に企業が積極的に参入しており、以下のような大手プラットフォーマーや有力テック企業が次々と参入を発表しているという。
(2021年)智源研究院
(2023年)百度、アリババ、iFlytek、ファーウェイ、京東
(発表予定)ByteDance
また、2023年の2月以降は、多くの起業家たちも生成AI事業への参入意思を示しており、大きな盛り上がりを見せているそうだ。
2028年には2500億元を超える業界へ
このように生成AI業界は急速に拡大しているが、BATH(中国に拠点を置くハイテクIT企業4社の頭文字を組み合わせた言葉で、B:バイドゥ、A:アリババ、T:テンセント、H:ファーウェイを指す)のようなメガテック企業だけでなく、大学・研究機関、テック業界のリーダーが起業したベンチャー企業、および産業分野向けのサービス企業も重要な参加者となっていることに特徴があるという。
また、中国独自のAI技術をベースに金融・医療・教育・ECなど多くの分野での実装が進んでいることも特徴とのことだ。
「このように企業の参入とAI技術の利活用の活発化により、中国では生成AI市場の大幅な急成長が見込まれています」(李氏)
李氏の言葉の通り、2023年は前年と比べて6倍の成長を遂げると予想されており、2024年には2023年の5倍の成長率を記録するとの予想がなされているという。
また2028年には、2500億元を超える規模の市場になるということも想定されており、まさに急成長する業界であることが分かる。
なぜ、中国は生成AI分野で成長しているのか?
ここまで中国が「生成AI」に関して急速に成長していることを紹介してきたが、その背景には「人材」が大きく関わっているのだという。
「中国は、インターネット産業の急速な発展に伴い、AI開発に必要な基礎人材が豊富であるという背景があります。しかし、アメリカのデカップリングの影響で、今後の先端人材の育成が課題になっています」(李氏)
このようにAIに関わる人材の数が多い中国だが、最近では、「質の向上」も見られているそうだ。
世界各国のAIイノベーション指数ランキングでは、中国はアメリカに続いて2位を記録している。日本が8位であることを踏まえると、大きな差があることが分かる。
またAI関連の論文に関しては、他国を大きく引き離して1位という結果になっている。特にAI雑誌記事・論文の発表数に関しては、2位のEU+イギリスの15.1%にダブルスコア以上の差をつけ、39.8%という結果になっている。
今後、中国は米中ハイテク競争の背景の下、挙国体制で自主技術開発を強化していく構えだという。その際、以下4点が施策となるとのことだ。
・AI分野の技術の自主開発を奨励する ・国産半導体の調達を増やす ・国主導で演算能力などのデジタルインフラの整備を加速する ・業界のリーディング企業との連携を強化し、官民一体で推進する