クラウドへの移行にはさまざまなアプローチがある。約140年の歴史を持つ鴻池運輸の場合、スピード感を重視し、クラウドリフトで一気に進めた。7月13日、14日に開催した「TECH+フォーラム クラウドインフラ Days 2023 Jul. ビジネスを支えるクラウドの本質」に同社 ICT推進本部 デジタルトランスフォーメーション推進部 部長の佐藤雅哉氏が登壇。クラウドリフトに至った経緯や、そこから得た学び、課題について話した。
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変化に対応すべく、クラウドファースト戦略へ
鴻池運輸は1880年に運送業から始まり、現在は国内物流、製造請負、エンジニアリングサービスなどさまざまな事業を展開している。2022年の売上高は3014億円、拠点はグループ会社を含むと国内に193カ所あり、日本以外にも12カ国で展開している。
2030年のビジョンは「技術で、人が、高みを目指す」。併せて定めた2023年3月期から2025年3月期の中期経営計画では、「革新への挑戦」を重点事項の1つに定め、DX、技術の活用などを進めている。
鴻池運輸のICTは2010年代後半から、変化を迫られていたと佐藤氏は明かす。背景にあったのは、人材不足、長時間労働問題、サプライチェーンリスク、SDGs、ESGなどの外部環境の変化だ。加えて、クラウドの台頭によるサブスクモデルの増加などIT環境の変化もあった。
本来ならこのような変化に迅速かつ柔軟に対応すべきだが、当時の同社のシステムは、データセンターに設置することが基本となっており、個別のレガシーシステムの乱立でサイロ化している状態だった。ネットワークも、社内で働くことを前提とした境界防御型モデルの閉鎖型で、ITインフラシステムやセキュリティツールなども同じ用途のものが複数あるなど、「手間とコストがかかっている状況だった」と佐藤氏は振り返る。
そこで同社はIT戦略を根本から考え直し、2018年4月にICT組織を刷新。同年策定した「ICT中期3か年計画」ではクラウドファースト戦略を掲げ、全面クラウド化へ舵を切る決断をした。
クラウドリフトで一気にクラウド・デジタルへ
では実際、鴻池運輸はどのように全面クラウド化を進めたのか。同社がまず着手したのは、IT変革への土台づくりとなるICT基盤の再構築だ。
「クラウドファーストを戦略のトップラインにおき、パブリッククラウドの採用、業務システムはローコード・ノーコードの開発基盤、コミュニケーションツールなどはSaaSモデルを前提に全体を設計し直しました」(佐藤氏)
ここでのポイントの1つが、「クラウドリフトを前提に、一気にクラウド・デジタルへ転換する」ことだ。同社では、一旦あらゆるものをクラウドに上げてからクラウドに最適化するという方針を立て、ネットワークも柔軟な構成にすることを目指した。これについて佐藤氏は、「ハイブリッドクラウドを採用して少しずつ移行するやり方も考えたが、段階的なハイブリッドクラウドでは効果も限定的で、スピード感もないと判断した」と語る。結果として新型コロナウイルス感染症の影響により多少の計画変更はあったものの、2021年度までの4年間で、おおむねインフラ基盤の再構築は完了した。
「クラウドに移行できないレガシーシステム、通信機器類以外はほぼクラウドに移行が完了しました。一部閉域ネットワークは残っていますが、基本的にはインターネットをベースに、拠点ではローカルブレイクアウトなども活用したネットワーク構成にシフトし、いつでもどこでも働ける環境を整えています」(佐藤氏)