AIブームは雇用にも影響を与えているようだ。米国のソフトウェアエンジニアの中には、次に身につけるべきスキルとしてAIに関心が高まっているという。米国のIT企業に勤めるエンジニアといえば、高い報酬、クールなオフィスや社食で知られる。
しかし、シリコンバレーを中心にここ1年を中心に吹き荒れている解雇の嵐を受けて、エンジニアの立場も変わりつつあるようだ。AIスタートアップ、NonprofitsHQの設立者、Zac Brown氏(28歳)は昨年、求職活動中に履歴書にこれまで自分が取り組んだAIについて書いていなかった。それまでなら、経験のあるソフトウェアエンジニアというだけで引くてあまただったが、潮目が変わったことを感じたという。
Brown氏は「AIを強調しなければならないと気がついた。われわれが取り組むすべての製品、目にするすべての製品は、AIを活用したオペレーションにシフトしつつある。普通のソフトウェアエンジニアにとっては厳しい時代になった」と語っている。
ITエンジニアはポジショニングを変えようとしている
テック業界は以前ほど簡単に投資が受けられなくなったが、AIには投資マネーが流れ込んでいる。AIは産業界にとって次の“Big thing”であり、需要増を受けて投資、雇用も高まっている。
これは、この1年ほどの間に職を失った人にとって魅力的な場所になっているという。新しく学び直しをして、学位を取得するのは時間がかかるため、ソフトウェアエンジニアなどITエンジニアは自分のキャリアを調整して、ジョブ市場においてポジショニングを変えようとしているとのこと。幸いAIは急速に広がっており、人手不足だ。
テックスキルのある人をリクルートするEddiana Rosen氏は「募集中のポジションの多くが、AIのバックグラウンドのあるソフトウェアエンジニアだ」という。求人・報酬情報についてのサイトSalary.comのデータから、2023年5月末までの1年間で、AI関連スキルのある人の募集は110万、これは前年の2倍以上の数値だ。
実際に、報酬は魅力的に見える。Payscaleの調べによると、AIスキルのある人は典型的なテック従事者より平均して27%も多いことが判明している。また、Leveles.fryによると、AIエンジニアの平均報酬は24万3500ドル、これはAIが関連しないエンジニアの平均報酬である16万5740ドルを上回る。
さらに、AI関連の雇用の報酬は増加傾向にある。3000社以上のハイテク企業の給与情報を追跡するComprehensive.ioによると、シニアソフトウェアエンジニアの報酬は2023年1月からほとんど上昇していないが、AIと機械学習のスキルのあるシニアソフトウェアエンジニアになると、2023年1月からすでに4%上昇しているという。
リスキリングの必要性
ある顧客データ製品のマネージャーが、将来必要になるからとAIガバナンスについての知識を獲得しようとする動きを紹介する。この人物は、国際プライバシー専門家協会(IAPP)が公開するドキュメントを見て学習しているという。
Microsoftに勤務するデータサイエンティストは、バークレーで機械学習とAIの6カ月のコースを受けた。自分の業績のためになると考えたからだ。その人物は「機械学習とAIのコンセプトを学ぶことは助けになった。それぞれの事業の状況に応じて、どのモデルを使うと良いのかがわかるようになった」とコメントしている。
Brown氏は前職で機械学習とAIに携わることができたが、これからAIスキルを身につけようとするエンジニアに対し、オンラインコースなどに参加するよりも実際に触ってみることを勧めている。「実際にやってみること、システム上で動かしてみること、やってみて失敗してそこから学ぶこと。そして前進することだ」とコメントしている。
ただ、AIの知識を積めば必ずキャリアが広がるというわけではないという。Voxが「Scared tech workers are scrambling to reinvent themselves as AI experts」としてレポートしている。