大阪大学(阪大)は6月26日、レーザー金属3Dプリンティング(AM)技術と電気化学的表面処理を組み合わせ、ほぼ100%の選択性で、二酸化炭素(CO2)を有用なメタン(CH4)に変換できる金属製の自己触媒反応器(SCR)の作製に成功したことを発表した。

同成果は、阪大大学院 工学研究科の森浩亮准教授、同・KIM Hyojin大学院生、同・中野貴由教授、同・山下弘巳教授らの研究チームによるもの。詳細は、ナノテクノロジーを含む材料科学に関する学際的な分野を扱う学術誌「Advanced Functional Materials」に掲載された。

CO2のメタン化(サバティエ反応)は、高密度でエネルギーを貯蔵する方法として期待されている。さらに、大気中のCO2削減を指向したカーボンニュートラルサイクルを実現する手法としても有望視されている。

安定性の高いCO2のメタン化には、大量のエネルギー投入が必要で、一般的にその実現のためには、活性化エネルギーを下げて変換を促進できる信頼性の高い触媒が必要となる。現状では、粉末状の金属ナノ粒子担持触媒を充填した反応器が用いられているが、化学プラントの省エネルギー化に向けて新たな触媒形状を提案する必要があるという。

既存の粉末状金属ナノ粒子担持触媒の課題として、表面エネルギーが高いため、過酷な環境下では凝集や表面構造の変化が起こり、失活してしまう点が挙げられる。また、それとは別に工業的に利用されている触媒としてセラミックス製のハニカム触媒もあるが、それ自身は触媒機能をもたないため、金属ナノ粒子の担持は不可欠となっている。さらに、触媒層に温度分布が生じやすく、特に発熱反応ではホットスポットにより反応の熱暴走・触媒活性の低下が起こり、反応の制御が困難なことも課題だったとする。

それらを克服するために研究チームは今回、高温強度、耐酸化性、熱伝導性に優れたニッケル(Ni)、クロム、鉄、モリブデンなどを主成分とした固溶強化型合金「Hastelloy X」に着目。そしてレーザー金属AMプロセスでチャンネル構造を付与し、電気化学的表面処理により触媒機能を示す活性金属を表面に露出させることで、触媒機能と反応管としての機能を併せ持った金属製のSCRを作製したとする。

  • レーザービーム粉末床融合結合法(LB-PBF)の概略図と、作製された金属製SCR。

    レーザービーム粉末床融合結合法(LB-PBF)の概略図と、作製された金属製SCR。(出所:阪大Webサイト)

Hastelloy Xを用いて、レーザー金属AMプロセスで作製された反応管は触媒機能を示さないが、最適な印可電圧のもとで電気化学的表面処理を施すと、触媒作用を示すNi金属を表面に露出させることが可能だ。CO2の資源化反応をもって、その触媒性能を評価したところ、100%近い選択性でCH4が得られたという。

また、400℃で数日間利用しても活性が変化しないほど極めて高い耐久性を示しただけでなく、水酸化ナトリウム水溶液に浸すという簡便な処理で自己溶解メカニズムにより表面の再構築が起こり、触媒活性が向上するという極めて特殊な現象も見出されたとのことだ。

研究チームによると、今回の金属製SCRは、レーザー金属AMプロセスを利用することで多様な触媒プロセスに最適な構造を提案でき、過酷な環境下においても安定性が高く触媒の交換が容易なバルク状であるなど、実用化触媒に不可欠な基盤要素を兼ね備えているという。またCO2資源化反応において、実用触媒に資する優れた性能が示されたともする。

さらに今回の研究では、レーザー金属AMプロセスによる多結晶から単結晶へのマイクロオーダーでの結晶方位・組織制御を駆使することで、触媒性能のカスタム制御の可能性が示されており、カーボンニュートラルを指向した触媒分野のみならず、レーザー金属AM技術を基盤とした先進的なマテリアルサイエンス分野へも多大な波及効果をもたらすことが期待されるとしている。