総務省が2022年7月に公開した「令和4年版情報通信白書」で、2030年には78兆円以上に拡大すると予想されているメタバースの世界市場。日本でも大手企業の参入の動きが目立ち始めている。そんな中、グリーが2023年3月、VTuber事業を展開するREALITY Studios社、法人向け事業を展開するREALITY XR cloud社を設立。先んじてプラットフォーム事業、Web3事業を手掛けていたREALITY社、BLRD社と共に、4社体制でメタバース事業を強化していくと発表したことは記憶に新しい。

グリーは今、メタバースにどのような可能性を見出しているのか。グリー 取締役上級執行役員でREALITY社 代表取締役社長を務めるDJ RIO氏(荒木英士氏)にお話を伺った。

  • 荒木英士氏ことDJ RIO氏。メタバースについては「ユーザーとして、クリエイターとしてやってみて分かることがたくさんあるし、純粋に楽しい」と話す

プラットフォーム運営の実績から事業を拡張し、体制を強化

グリーがメタバース事業に参入したのは2018年。バーチャルライブ配信プラットフォーム「REALITY」の運営を始めたことがきっかけだ。同プラットフォームは、今で言うメタバースプラットフォームである。REALITYはtoC(消費者)が中心のプラットフォームであるが、次第にtoB(法人)の需要もあることが明らかになってきたとDJ RIO氏は振り返る。

例えば、イオンシネマを手掛けるイオンエンターテイメントはメタバース映画館をオープン。他にもHISは観光地を体験できるバーチャル旅行支店を、三井不動産は東京ドームを再現したワールドをREALITY内につくった。

世界中での着実なユーザーコミュニティの拡大とメタバースの追い風を受け、REALITY内の3D仮想空間「REALITY Worlds」は、2022年には総来場者数4000万人を超える一大メタバースプラットフォームに成長。さらにグリーが自社でトライアルした複数の取り組みについても事業化できる段階になった。そこで2023年3月、同社はこれまで社内で行っていたいくつかの事業を再編・子会社を2社設立し、REALITY社、そしてWeb3事業を展開していたBLRD社と併せて4社体制とすることを決めた。

子会社化するメリットについてDJ RIO氏は、「担当事業に特化した組織になることで、組織カルチャーをより浸透させやすくなるし、機動性が上がる」と説明する。会社が分かれることにより連携不足に陥るリスクもあったというが、“各社の幹部が同じビジョンを描き発信する”、“定期的に顔を合わせる場をつくる”といった環境づくりにより、「連携を担保できる」と判断したそうだ。

ユーザー数と売上を両立するREALITYの強みとは

子会社の1つであるREALITY社の役割は、アプリ・REALITYの運営だ。REALITYは現在ダウンロード数1000万を超え、「モバイル向けメタバースとしては世界最大級になりつつある」(DJ RIO氏)という。同氏はREALITYの特長について「ユーザー数がいるだけではなく、きちんと売上がつくれている点にある」と話す。

「ユーザーが多くても売上がなかったり、売上があってもユーザーが少なかったりといったプラットフォームは多数あります。世界的に見てもこの両立ができている企業はほぼない状態です」(DJ RIO氏)

ではなぜ、REALITYは規模感を保ちながら売上を上げられるのか。大きな理由として挙げられるのが、親会社グリーの主軸であるゲーム事業で培った“体験設計”の技術力だ。プラットフォームとしての使いやすさに加えて、魅力的なアバターや、“ここで過ごしたい”と思える居心地の良い雰囲気といったコンテンツを用意できたことが大きいとDJ RIO氏は言う。

「プラットフォームとしてスケールさせることと、コンテンツのクオリティを両立するのは非常に難しいところです。当社には、その両方の“良いとこ取り”をするバランス感覚があるのです」(DJ RIO氏)

今回新たに設立した新子会社として、VTuberをプロデュース・サポートするのがREALITY Studios社だ。従来REALITY社で行っていたVTuber事業を土台に、急成長するVTuber市場での勝ちパターンを貪欲に吸収。先行する他社に迫れるだけの体制づくりを行っている。