東京大学と日本IBMは4月21日、同大で記者説明会を開き、127量子ビットのEagleプロセッサ搭載の量子コンピュータ「IBM Quantum System One with Eagleプロセッサ」を今秋をめどに「新川崎・創造のもり かわさき新産業創造センター」(KBIC)で稼働を開始することを発表した。なお、今回の取り組みは4月14日に経済産業省から量子コンピュータの安定供給確保やクラウド利用拡大に関する助成の大臣認定を受けており、同省から42億円の補助を受ける。

  • Eagleプロセッサ

    Eagleプロセッサ

北米以外では初の設置

両者は、2021年からクラウド経由で利用可能な日本初の量子コンピュータである27量子ビットのFalconを搭載したIBM Quantum System OneをKBICで稼働を開始し、占有使用権を有してアクセスを提供する東大は量子イノベーションイニシアティブ協議会(QII)に参画する、さまざまな企業、公的団体、大学などの研究機関とともに量子コンピュータの利活用に関する研究を進めており、多くの学術論文を発表するなどの成果をあげているという。

今回、両者は127量子ビットのEagleプロセッサ搭載のIBM Quantum System OneをKBICに設置することで合意し、東大はQIIに参画する組織とともに占有利用する予定だ。現在、同量子コンピュータは北米のみで稼働しており、それ以外の地域における稼働開始は日本初となる。

東京大学 理事・副学長の相原博昭氏は「新しいシステムは商用で利用し、世界最高性能を持つスパコンでもシミュレーションができない領域まで計算可能な範囲を拡げていくことができる。また、効率的なマシンタイムを活用した量子・古典・ハイブリッド計算方法や、実用的なアプリケーションを生み出すことが可能だ。そうした環境を最大限活用し、素粒子や宇宙、物性、創薬、AI、金融などの重点分野の研究を進展させ、量子によるイノベーションをもたらすことを目指す。大学としては人材育成にも注力する。利活用のためのアルゴリズム開発とともに、それを活用する次世代の人材育成は重要だ」と強調した。

  • 東京大学 理事・副学長の相原博昭氏

    東京大学 理事・副学長の相原博昭氏

既存の古典計算では解決が困難な問題を研究

一方、米IBM フェロー 兼 IBM Quantum バイス・プレジデントのジェイ・ガンベッタ氏は「東大は量子計算領域、産業界の研究開発ともにリードしており、QIIは成功した産学のコンソーシアムであり、既存のIBM Quantum System Oneを利用し、50以上の論文を発表している。Eagleプロセッサ搭載のシステムはIBMにおいて最先端の量子コンピュータであり、フラグシップでもある。既存の古典計算では解決が困難な問題を研究するために、大規模な回路を実行し、ノイズのない計算能力を提供する。これまでの量子コンピュータで実行されたものを超える複雑な量子回路の環境が可能となり、動的回路を活用して機能が拡張できる。Eagleプロセッサを使えば、100量子ビット、ゲートの深さが100の回路サイズが100×100での探求が可能となり、われわれの次の挑戦だ。ただ、スケールだけでなく、質も重要だ」と述べていた。

  • 米IBM フェロー 兼 IBM Quantum バイス・プレジデントのジェイ・ガンベッタ氏A@米IBM フェロー 兼 IBM Quantum バイス・プレジデントのジェイ・ガンベッタ氏

今後、日本における量子コンピュータの研究や産業革新が加速させ、古典コンピュータに量子コンピュータを組み合わせて利用することで、ビジネス、科学に関連する計算課題を効率的に費用対効果が高く、正確に実行できるようになる“Quantum Advantage(量子優位性)”の目標達成が近くなることが期待されるという。