ここ数年、メタバースを活用した取り組みの輪が広がっている。リアルな空間を再現するものからエンタメ分野での利用まで、幅広い活用が見られる中、今回注目したのは本田技研工業が扱うパワープロダクツが、オンラインゲーミングプラットフォーム「Roblox(ロブロックス)」上にオリジナルのメタバース空間を公開したグローバルブランディングだ。
今回のグローバルブランディングでは、全世界で2億人以上が利用するRoblox上にモジュール化された耕うん機や除雪機など、8種類のパワープロダクツ製品を使って自由に遊んだり、オリジナルゲームを制作したりできる環境が提供された。施策の一環として、3月16日~31日まで、Honda ウエルカムプラザ青山にて「“Honda Rewired” Touch & Try Experience(以下、Honda Rewired)」イベントが開催された。
メタバース活用のヒントを探るため、企画を担当したCHERRY社 クリエイティブディレクター の贄田翔太郎氏にプロモーションにメタバースを採用した経緯やプラットフォームの選定理由、手応えについてお話を伺った。
プロモーションにおけるメタバース活用の今
――昨今、メタバースを活用したイベントやキャンペーンをよく見かけますが、御社での取り組みも増えているのでしょうか。
贄田氏:弊社はブランドと生活者の関係づくりのためのクリエイティブエージェンシーです。TVCMや統合型のインタラクティブキャンペーンなど、ブランドの核となるクリエイティブをクライアントさまと共につくっています。これまではあまりメタバースを活用することはなかったのですが、ここ1年でバーチャルやメタバースに興味を持たれるクライアントが増えていますね。また、こちらからメタバースを活用したキャンペーンを提案するケースも増えています。
――メタバース関連の取り組みが増えている理由はどこにあると思われますか。
贄田氏:新しいブランドコミュニケーションのかたちを探る中では、「世間の注目が高まっている中で話題を呼びやすい」とか、「メタバース空間の利用者が増加している」といったことが関係してきます。マスマーケティングやWEBムービーなどの施策とは異なり、よりユーザーとの共創性が高く、ブランドの体験深度が深まることから、クライアントに興味を持っていただきやすいのです。
また(メタバース活用を推す)個人的な理由としては、昨年、カンヌライオンズ 国際クリエイティビティ・フェスティバルの審査員をした際、世界中からメタバース関係の作品が多く エントリーしていたことも影響しています。エントリー作品からメタバースを上手く活用すれば、より体験深度を増したブランドコミュニケーションが可能になることを体感しました。
「メタバース空間」と「ゲーム形式」を選んだ狙い
――「Honda Rewired」はどのような経緯でメタバースを活用することになったのでしょうか。
贄田氏:今回の取り組みは、パワープロダクツを通じて、若年層のHondaブランドへの親近感を高めたいというご要望から始まりました。Hondaと言えば、車やバイク、あるいはジェットやASIMOのイメージが強いブランドかと思います。一方で、耕うん機 や除雪機といったパワープロダクツは縁がなければ触れることがない商品群です。このような製品にどう愛着を持ってもらうかという課題に向き合う中で、これまでのプロモーションとは見せ方も製品の置き方も変えていくのが必然なのではないかと考えました。その最もドラスティックな変え方が、パワープロダクツブランドをバーチャルワールドに持っていって展開することだったのです。
――メタバース空間でのゲーム方式を選ばれた理由は?
贄田氏:Hondaのパワープロダクツは長い歴史があり、困っている人のために役立つ製品づくりをしようという思いが強いブランドだと考えています。また、製品を使って周りの人の力になることで、それがまた別の人の社会貢献の原動力につながっていく、そんなペイフォワード的な価値観も大切にしていると感じていました。そのため、製品を見てもらうことをゴールにするのではなく、使ってもらい、楽しんでもらい、さらに周りの役にも立てると感じてもらえるような体験ができることを重視しました。そのかたちにはゲーム方式が良いだろうと。
また、バーチャル上でのブランドコミュニケーションの流れを見ていると、外資のメガブランドなどでは、自分たちの世界をテーマパークのようにつくり上げ、ブランドの伝えたいことを提供する、ユーザーはその空間でアイテム購入などの消費をするという、一方通行なコミュニケーションが多いように感じていました。せっかくメタバースを活用するのであれば、ブランドとユーザーが双方向のコミュニケーションで何かをつくり上げる、コミュニティが生まれていくようなかたちの方がHondaらしいコミュニケーションになるのではと考えました。製品をモジュール化し、ゲーム制作ができる、さらに機能のアップデートも可能な自由度の高い状態でキャンペーンを展開したのはそんな思いからです。