大和ハウス工業は2014年にフルクラウド化を完了させた。それを実現したのが2021年まで同社に在籍し、現在NPO 法人 CIO Lounge理事の加藤恭滋氏だ。3月24日に開催された「TECH+セミナー クラウド移行 Day 2023 Mar. DX推進を加速させるクラウド移行」に同氏が登壇。「大和ハウス工業元情報システム責任者が教えるクラウド化の最適ルート」と題し、クラウドのメリットや、レガシーからの脱却でクラウド化する際の注意点などについて、自身の経験を基に解説した。
ベンダー都合の費用負担や過剰投資への懸念から、クラウド化に着手
加藤氏は講演冒頭で、自身が大和ハウス工業在籍時に主導してきたフルクラウド化の取り組みがどのように始まったかについて説明した。
フルクラウド化の取り組みは2006年にスタート。当時使っていたオンプレミス型のシステムにはさまざまな悩みがあったと同氏は振り返る。例えば、システムはベンダー側の都合によって保守期限が定められている場合があるが、せっかく安定稼働しているシステムをリプレイスするための費用をかけるのは無駄ではないかといった悩みもその1つだ。あるいは、5年後のリソースを考慮してインフラ構築をしていたが、その時にどうなっているか分からないので、過剰投資になっているのではないかといった悩みもあったという。
こういった悩みを解決する手段として、大和ハウス工業ではまず2008年にデータ保管用共有サーバをPaaS(Platform as a Service)として提供してもらうことにした。次いで社内ポータルサイトをハイブリッドクラウドに、電子メールをパブリッククラウドに移行し、業務推進システム、会計や工事予算システムなども保守期限が来る度に順次プライベートクラウドに移した。その結果、2014年にはフルクラウド化を完了している。
クラウドであれば、スピーディーにスモールスタートでビジネスを始めることができ、市場環境の変化にも柔軟に対応できる弾力的な基盤を構築可能だ。さらに運用や保守の負担も削減できる。このような点が既存事業の強化や新事業の立ち上げには大きなメリットになるため、「クラウド化を選んだ」と同氏は語った。
クラウド化のメリットと、トラブルから学んだこと
クラウド化で感じたメリットについて加藤氏はまず、運用コストや作業時間を約30%削減できたことを挙げた。その分の余力を企画業務に回すことができたほか、夜間対応や休日出勤の負荷を減らし、過重労働も削減できた。また、小さくつくって育てていくスモールスタートが可能になるため、必要なものを必要なときに拡張することができ、過剰投資も抑えられた。さらに、早期に環境の構築が可能になったため、システムを早く提供できたこと、セキュリティレベルを統一できたこと、そして従来フロアの1/3を占めていたサーバを撤去できたため、執務室が広がったこともメリットだったという。
「みんなで仕事をする部屋ができたのは、非常にうれしかったですね」(加藤氏)
クラウドのシステムが実際に稼働し始めてからは、トラブルもいくつか経験したという同氏。DBサーバのハングアップによりシステムを使用できなくなった際は、本来サーバを再起動すれば良いのだが、クラウドを提供する事業者ではその判断がつかなかったことでトラブルとなってしまったと、当時の状況を明かした。また、ソフトウエアの不具合により、システムが6時間停止したこともあったという。オンプレミス型であれば自分たちで修正バッチを適用するという対応が採れるが、クラウドの場合は提供側に任せることになるため、対応に遅れが生じたそうだ。これらの経験から加藤氏は「クラウド事業者と自社とで運用を切り分け、分担を明確にしておくことが必要」だと述べた。