ITアナリストとして30年以上の経歴を持つアイ・ティ・アール(以下、ITR) 会長/エグゼクティブ・アナリストの内山悟志氏は、旧来のIT環境がDXの推進を阻害することがあるため、IT環境を再整備し、ITの企画、開発、運用の手法やプロセスを含むライフサイクル全般を見直すことが必要だと言う。
3月24日に開催された「TECH+セミナー クラウド移行 Day 2023 Mar. DX推進を加速させるクラウド移行」に登壇した同氏。「DXに向けて求められるIT環境の再整備」と題し、IT環境の再整備が必要な理由や、今後に向けて求められるITインフラやIT運営の要件について解説した。
IT部門の役割は変わっていく傾向に
内山氏はまず、ITRが行ったいくつかの調査の結果を示しながら、DXに向けて企業のIT運営がどのように変わろうとしているのかを説明した。DXを推進するプロジェクトをどの部門が取り組んでいるのかを調査すると、ほとんどの企業でIT部門が最も多い割合で担っていることが分かった。ただしIT部門が主導するのは全体の3割程度にとどまっていて、各業務部門やDX推進室のようなデジタル推進部門が担う場合も増えてきているという。
そんな中、IT部門の役割も変わっていく傾向にあると同氏は指摘する。現在、多くの企業でIT部門が担っているのはシステムの改善やセキュリティといった従来型の業務だが、数年後にはこれらの業務はかなり減少すると内山氏は見ている。こうした業務には時間や手間をかけない方向にシフトし、それによって生まれた人的余力を、業務改革やビジネス戦略に直接結び付く部分に割り振っていくことが求められるためだ。とは言え、そうした動きは現在のところ微増にとどまっているという。
DXの本質的なメリットの理解が不足
アプリケーション開発の基本方針については、全て内製、または可能な限り内製する方針の企業が全体の2/3となっていて、内製化の重要性が理解され始めていることは見えるが、まだ十分ではないと内山氏は言う。また内製化の際にどのようなテクノロジーを使うかについては、意外にもオンプレミスのサーバと答えた企業が最も多かったが、PaaSやIaaSと答えた企業もそれに次いで多いため、クラウドへのシフトは進んでいると言っていい。しかしコンテナやサーバレスといったクラウドネイティブのアプリケーションによく使われる技術の選択率はまだ低い。
「クラウドの活用はしているものの、丸ごとクラウドを前提としてゼロからアプリケーションをつくるというところまでは進んでいないのです」(内山氏)
このことは、内製化の目的を調査した結果にも表れている。開発コストの低減、運用保守コストの低減がそれぞれ1位と2位となっていて、環境の変化への対応や、新たなテクノロジーへの迅速な対応といった項目は下位に甘んじているのだ。
これらの調査結果からは、現状の実態と課題が見えてくる。IT部門は従来型業務の負荷を軽減してDXをはじめとするビジネスに直接貢献したいと考えているが、すぐにそれができる状況にないこと、そして企業は内製化を志向しているが目的はコスト低減に偏っていて、DXの推進において本質的なメリットであるスピードやアジリティの重要性が十分に認識されていないといったことだ。内山氏はさらに、既存システムの開発や運用の負荷軽減、DXにおける新規開発や展開のどちらにもクラウドの活用が有効であるにも関わらず、「それがあまり理解されていない」と見解を述べた。