不動産関連のあらゆる分野にアセットを持つ三菱地所グループは、まちの価値を向上させるためのDXに取り組んでいる。2月22日に開催された「ビジネス・フォーラム事務局×TECH+ EXPO 2023 DX Frontline for Leaders 変革の道標」に同社 DX推進部 統括の春日慶一氏が登壇。「三菱地所のまちづくりDXの全体像と取り組み」と題し、オフラインのリアルな存在であるまちとオンラインをつなぐという同社の「まちづくりDX」について解説した。
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まちの価値を向上させるために何から始めるか?
春日氏は「現在は不動産業界にもデジタル化による大きな変革期が訪れている」と述べた上で、それに対応すべく、三菱地所では100名を超える人員を配置して、全事業領域において横断的にDXを推進する体制を採っていると説明した。その大きな取り組みの1つが「まちづくりDX」だ。
まちの価値を向上させるには、テナントや店舗以外の企業に使ってもらうことが重要になるのだが、現在は、まちを活性化させる顧客などのステークホルダーとの接点が分かりにくいため、彼らのニーズの想定も難しくなっているという。
「ステークホルダー目線でまちの提供価値を再定義、再構成する必要に迫られています」(春日氏)
ステークホルダーとの接点を広げるには、Webでの集客やポイントアプリなどのオンラインの取り組みも必要になる。しかし、ポイントアプリは以前からあるが、商業施設の販促のためにしか使われておらず、その先に体験が広がっていくようなつくりになっていないのが実情だ。まちでの体験がオンラインにつながるように一体化すれば、「その先に新しい体験、新しい産業が生まれてくる」と春日氏は言う。だが、床貸し、場所提供といった従来型のまちづくりだけでは、オンラインとオフラインの融合が難しい。そこで同社のまちづくりDXは、まずデジタルインフラ環境を整備するところから始められている。
オフライン、オンラインのサービスをデジタル連携する「MELON」構想
まちづくりDXにあたり、三菱地所が掲げているのが「MELON(Mitsubishi Estate Local Open Network)」という構想だ。これは、まちの中にあるオフライン、オンラインのさまざまなサービスをデジタルで連携させていこうというものである。同社の持つ不動産から顧客データやログデータを取得できるようにするだけでなく、オンラインサービスのプラットフォームも用意するなど、まちに関するあらゆる接点をデジタル化することを目指している。
MELONでは、オフラインとオンラインの両方の体験について、4段階でインフラを整備していく。まず①リアルに特化したサービスをデザインし、②散在するサービスをまとめてスマートに提供する場をつくる。そして③複数のサービスについて同一顧客を識別する仕組みの共通IDをつくり、④データを一元化して分析、その結果をサービス提供者にフィードバックする。
「多様なサービスを縦横無尽に連携させるために、この仕組みをまちが標準化したインフラとして備えていくことが求められるようになると考えています」(春日氏)
まちをデータベース化することを目指し、商業施設の売上や契約状況をはじめ、住宅やビル、基幹システム、位置情報やカメラ画像といったIoTシステムなどから集まるあらゆるデータの統合管理を推進している。また、オフラインのサービスだけでなく、アプリの利用ログやイベントのチケット販売、来場ログなど、オンラインのデータも連携。「全てをまとめて受け入れる大きなバケツを用意した」(春日氏)状態だ。従来は1つのサービスだけで完結していたため十分にデータを活用できなかったが、全てのデータを同じバケツに入れることで詳細な分析が可能になるという。