オフィス用品などを扱う通販サイト「たのめーる」の運営をはじめ、企業へのオフィス機器やITソリューションの導入などをサポートする大塚商会。幅広い商材を扱う同社は、営業活動の均一化や効率化を図るため、いち早くAIを活用した仕組みを導入し、大きな成果を上げているという。そのノウハウは集約・サービス化され、現在はAIビジネスとして外部に展開するまでに確立された。
他社に先駆けて実施した営業活動へのAI導入や、確かな成果を得るまでの道のりはどのようなものだったのか。大塚商会 上席執行役員 マーケティングオートメーションセンター長の地主隆宏氏と、同 執行役員 AIビジネス推進プロジェクト担当の山口大樹氏にお話を伺った。
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(左から)大塚商会 上席執行役員 マーケティングオートメーションセンター長の地主隆宏氏と、同 執行役員 AIビジネス推進プロジェクト担当の山口大樹氏
商品数の増加で、属人的な営業では限界に
大塚商会では、多様なオフィス機器やITソリューションの提案営業を行っている。取り扱う商材は500万点以上あり、従来は顧客の業種やニーズに合わせてそれらから適した商品・サービスを提案するという複雑な営業スタイルを実践していた。「売上や利益は右肩上がり」だったものの、社員数はそれほど増えておらず、結果として「1人の営業が担当する顧客数が増える」という状況に陥っていたと地主氏は振り返る。1人の営業担当者が数100社の顧客を担当するケースもあり、各社に適した商材を提案するため、eラーニングなどで商材の勉強会を行うといった対策も採られたが、やはり大きな変革にはつながらなかった。
「属人的な営業では無理が来ていました。そこでAIなどのデジタルツールを使った営業DXの取り組みを始めたのです」(地主氏)
営業DXの第一歩は組織づくりから
同社がAIによる 営業DXの取り組みを始めたのは、今から約10年も前だというから驚きだ。当時は統計解析ツールの利用が中心で、まだビッグデータやマシンラーニングを本格導入する企業はほとんどない時代になぜ、このような判断ができたのか。
地主氏は、当時米国でビッグデータを使って予測・分析する企業があると聞き、「これは今後絶対に伸びる」と思ったと明かす。ちょうど、大塚商会としても蓄積してきた大量のクライアントデータをどのように活用するかを研究していた時期だった。そこで同社はまず、AI活用を念頭に置き、営業DXに向けた組織づくりから着手した。
「元々自前でやろうと考えていたので、時間はかかりますが、人材育成からスタートしました」(地主氏)
営業やエンジニアを対象にデータサイエンティスト志望者を社内公募し、チームを作成。まずは統計解析の教育から地道に行い、DX人材を育てていった。まさに今、多くの企業が取り組んでいるプロセスを、大塚商会は一足早く、先見の明を持って実践していたのだ。
また、クライアントデータの活用についても、大塚商会は他社に一歩先んじていた。営業DXの取り組みを始めた当時は、データ解析と言っても構造化された数値データに特化したものが多い時代だった。しかし同社は、営業日報や入電内容といった非構造データを含めた活用ができなければ意味がないと考え、早い段階から自然言語処理にも取り組んでいたという。
これだけ先進的な企業文化を持つのであれば、新しい技術の導入もスムーズに進みそうだ。だが、必ずしもそうではない局面もあったと地主氏は言う。
「チャットボットを社内導入した際は、多くの質問と回答のバリエーションを用意する必要がありました。学習に時間と手間がかかり、社内からは『こんな面倒なことをするなら、技術がもっと進化してからの導入でも良いのではないか』『時期尚早なのではないか』といった声もありました」(地主氏)
しかし、「しっかりと技術に取り組んでいかないと、その良さも悪さも判断できない」という信念の下、地主氏らは新しい技術にも目を向けながら営業DXを推進していった。
均一化、効率化を目指すためのAI営業
営業活動へのAIの導入もその一環である。山口氏はそのきっかけを「AIを活用することで、営業の能力の差を埋められるのではないか」と期待したことだと語る。AIを導入をする上で欠かせない存在となったのが、大塚商会で使われているセールスガイダンスというノウハウ集だ。同社ではこのドキュメントに記載された情報をデータベース化し、実際の商談をマッチングする仕組みを検討。まずは顧客ニーズを予測し、営業に「どの顧客に何を提案すれば良いか」をアドバイスするところからAIの導入を進めた。
次に取り組んだのは、新人営業に対し、成功確度の高い提案の内容やタイミングをAIで予測する仕組みづくりである。これは商談におけるヒアリング、提案、見積提出といった各プロセス単位で考えられるアクションごとに、AIがセールスガイダンスのデータベースと照らし合わせ、適切な次のアクションを提示してくれるというものだ。見積もりの作成もAIが支援し、「(見積もりの)クロスセルもアドバイスしてくれる」(地主氏)という。
「新人営業や若手営業にはこのようなアドバイスがうれしいものですので、少し過剰なくらいにアドバイスを出すようにしています。一方、成長が見えてきた段階ではアドバイスを減らすなど、各人のレベルによって、アドバイスの出し方はチューニングしています」(地主氏)
ここで1つ、疑問が生じる。営業のプロセス全てでAIによるアドバイスがあれば、指導をするマネジャーは不要なのではないか。この点について地主氏ははっきりと否定する。大塚商会が目指すのは、あくまでも人とAIの協業による「二人三脚型」なのだ。
「ロジカルな部分はAIの方が得意です。人は褒める、落ち込んだ時に励ますといったエモーショナルな部分に長けています。人間の得意分野をいかに業務で活かせるかがマネジャーの力量になります」(地主氏)