会津若松市、AiCT(アイクト)コンソーシアムは3月17日、内閣府のデジタル田園都市国家構想推進交付金(Type3)事業に採択された「複数分野のデータ連携による共助型スマートシティ推進事業」に関する記者説明会を現地会場とオンライン配信のハイブリットで開催した。
説明会では、2023年3月中に同市の市民向けに提供が始まる、決済、観光、食・農業、防災、ヘルスケア、行政の6分野で提供される新たなデジタルサービスが紹介された。
ライフログ情報の医療機関への共有も可能に
決済分野では、地域ウォレットの「会津財布」にデジタル地域通貨「会津コイン」を実装した。同コインを利用できる店舗のアプリへの情報掲載や、銀行口座からのコインチャージは2023年4月から本格開始する。同分野ではデジタル決済で数カ月かかっている現金化のリードタイムを短縮し、リアルタイム精算処理の実現を目指すという。また、同コインは利用者が支払いに使用するほど、事業者の手数料が下がる仕組みを導入する予定だ。
観光分野では、2022年10月に飲食店向けに先行リリースした観光支援サービス「Visitory(ビジトリー)」を拡充する。飲食店のリアルタイムな営業状況などの情報発信機能に加えて、2023年3月22日からは、市内の土産物産店・観光施設・コワーキング施設・交通など、来訪者の観光や市民の日常生活に関連する情報発信も開始する。
食・農業分野では、2022年10月から提供開始している農産物の生産者と飲食店などのマッチングサービス「ジモノミッケ!」で、「会津コイン」による精算機能やダッシュボード機能を拡充する。ダッシュボードでは、ユーザーの取引状況や市況価格をベースに算出した参考売買価格を表示したり、将来の価格を予測したりできるという。
防災分野では、平時から発災時までの防災行動をサポートするデジタル防災サービスを、地域情報ポータル「会津若松+」のアプリ上で、2023年3月下旬より本格提供を開始する。同サービスでは、災害時に現在地から避難所などを案内する機能のほか、家族間での安否情報・位置情報の共有機能を追加した。また、在宅ケア支援アプリ「ケアエール」と連携することで、ケアが必要な人の安否回答や災害情報を家族や関係者と共有できる。
ヘルスケア分野では、IoTデバイスで取得した市民のバイタルデータ管理と、総合病院の一部医師へのデータ連携を実現する「ヘルスケアパスポート」を拡充する。2023年3月22日からは、市民が普段の生活で取得したライフログ情報を医療機関に共有できる仕組みが拡大されるほか、一部の医療機関の受診履歴(処方内容)もスマートフォン上で閲覧できるようになる。
このほか、オンライン服薬指導や健康相談に対応できるサービス「HELPO(ヘルポ)」と、高血圧、慢性循環器疾患に特化したオンライン健康相談サービスである「テレメディーズBP」を組み合わせて、医師へのオンライン相談やスマートフォンアプリを使った遠隔診療なども提供していく。
行政分野では、2022年10月3日から提供開始している各種手続きのデジタル申請サービスを拡充する。2023年3月22日からはマイナンバーカードの本人確認機能を活用し、本人同意を行ったうえで、行政が保有している情報を利用したサービスを開始する予定だ。
地域・市民・企業にメリットがある「三方良し」を重視
会津若松市は2013年から、会津大学やAiCTコンソーシアムに参加する90以上の企業・団体とともに、生活を取り巻くさまざまな分野でICTを活用する「スマートシティ会津若松」に取り組んでいる。
2015年から運用している同市の都市OSには3つのデータアセットが接続し、6つのスマートシティサービスが提供されていた。2023年3月17日からは店舗の購買履歴やハザードマップ情報など17のデータアセットと、会津若松市の基幹系システムや電子カルテなど3つの外部システムが新たに接続。新たに6分野から16のスマートシティサービスが提供される。
加えて、2023年3月20日からはデータ提供者によるAPIが公開され、APIをサービス創出に活かしていくための「APIポータル」も構築される予定だ。
地域のDX(デジタルトランスフォーメーション)を目指す中、同市では「データは市民個人のものである」という考え方の下、市民のオプトイン(事前承諾)に基づいたデータ活用を進めている。そのため、市民の属性情報やヘルスケア情報などを活用した各種スマートシティサービスでは、市民が自らの意思で情報を提供するか否かを選択できる。
会津若松市 市長 室井照平氏は、「10年間の取り組みで、デジタル基盤の整備や企業誘致などスマートシティ実現のための基礎作りができた。当市が目指すスマートシティでは、地域にデータとお金を残せる仕組みづくりを念頭に置いており、地域・市民・企業にメリット・納得感がある『三方良し』の考え方を基本としている」と語った。
各種のスマートシティサービスを市民に普段使いしてもらえるよう、今後同市ではサービス体験会やタウンミーティングのほか、生活空間において研究開発を実施するリビングラボなどを実施していく予定だ。
また、2024年度にはマイナンバーカードをデジタルサービスの基盤の1つとして活用していく計画だ。IDやパスワードを入力せずに、マイナンバーカードでスマートシティサービスにログインできるようにする構想を室井氏は掲げる。
AiCTコンソーシアム 代表理事 兼 アクセンチュア イノベーションセンター福島 センター共同統括の海老原城一氏は、「農業従事者がより高く農産物を販売したり、地域商店が予約・決済アプリを手数料ゼロで利用できたりといったスマートシティサービスの提供を通じて、地域の事業者が継続的に稼ぐ力を向上させる。その先に、他地域にはない市民にとって便利なサービスの誕生があり、地域・市民・企業による共助型分散社会を実現していけると考える」と説明した。