近年、人手不足などを背景に、外国籍労働者を雇う企業は増えている一方で、特に飲食業界では、外国人の不法就労で摘発されるケースが相次いでいる。記憶に新しいのは、フードデリバリーサービスを提供するUber Eats(ウーバーイーツ)の事例だろう。同社の日本法人は2021年6月、不法滞在している外国人を配達員として雇い、不法就労を助長したとして東京地検に書類送検された。

「知らなかったでは済まされません」ーーそう語るのは、SmartHRの子会社で外国籍従業員のビザ管理・申請をサポートするサービスを手掛けるAIRVISA 代表取締役のジャファー アフメット氏。外国人雇用に潜んでいる企業のリスクとはどのようなものだろうか。また、外国籍労働者自身の課題とは何か。ジャファー氏に詳しく話を聞いた。

株式会社AIRVISA
代表取締役 ジャファー アフメット 氏
スーダン人の両親の間にスーダン国籍として生まれ、2015年に日本国籍に帰化。サウジアラビアやアラブ首長国連邦などで事業開発や新規事業開発の経験を積む。JapanTaxiではPMとして、タクシー業界のDXに尽力。その後当事者として感じていたビザの問題を解決するためにone visaに入社し、事業責任者としてプロダクト開発をリード。2021年5月にSmartHRに入社。

外国人雇用において押さえておきたいリスク対応

--企業の外国人雇用にはどのようなリスクがあるのでしょうか

ジャファー氏:外国籍人材の雇用主は、労働基準法や雇用対策法といった日本人を雇用する際に守るべき一般的な労働関係法令に加え、入管法(出入国管理及び難民認定法)も守ることが求められます。

ただ、この入管法は内容がとても複雑で、専門家でも法解釈に迷うくらいボリュームがあります。外国籍の方を雇用したことがない企業にとっては、理解に時間がかかる難しい法律となっています。

しかし、この入管法は懲役刑・罰金刑があるほど厳しい法律です。不法就労外国人を雇用させ、働かせた場合、不法就労助長罪で3年以下の懲役・300万円以下の罰金が科せられます。外国人個人だけではなく、企業も罰せられるのです。

そして、外国人雇用に関して「知らなかった」という言い訳は一切通じません。書類送検されニュースに取り上げられば、企業のコンプライアンス体制を疑われ、長年培ってきたブランドイメージに傷がついてしまいます。

--企業はどのように外国籍人材の管理をしているのでしょうか

ジャファー氏:外国人を雇用する企業は、一般的にExcelなどで情報を管理しているのが現状です。また、ここ数年で外国籍労働者が急激に増えたこともあり、昨今のほとんどの労務管理システムは外国籍労働者に特化したサービスに対応していません。

人的作業で情報管理していると、思わぬ事態に直面するリスクがあります。例えば、全国にチェーン展開する飲食店は、店舗の判断で外国人を雇用する場合があります。一般的にその従業員データが本部まで上がってくるのに平均2週間~1カ月ほどかかります。そこで雇用した外国人の不正が発覚した場合、その間は不法就労を行ったことになり罪に問われてしまいます。

--具体的にはどのような不法就労のケースが考えられますか?

ジャファー氏:在留期間を超過した外国籍人材を働かせたケースや、在留資格外の活動をさせたケースなどが考えられます。

他にも、留学生にまつわる不法就労も考えられます。日本に来た留学生は「資格外活動許可」を出入国在留管理庁に申請し承認されていれば、直近7日間28時間以内のアルバイトをしても問題ありません。なので、企業は資格外活動許可を持っていない留学生を雇用したり、許可されている労働時間を上回る労働をさせたりすると、不法就労助長になってしまいます。

在留者ごとのルールをしっかりと理解しておかないと、知らない間に法を犯してしまうかもしれません。

ハードルの高い申請手続き

--「知らなかった」は通用しないということですね。外国籍労働者自身の課題はありますか?

ジャファー氏:数え切れないほどあると思います。まず在留資格の申請の難しさが挙げられます。

そもそも在留資格とは「外国籍の人が日本に在留するために一般的に必要となる法的地位」のことです。簡単に言うと「あなたは、この期間、このような活動をするためであれば、日本に在留してもいいですよ」という、法務大臣が与える許認可の一つです。

基本的に在留資格は本人申請が原則なのですが、申請書類は日本語と英語の記載しかなく、外国籍の方からすると難解です。さらに、就労系の在留資格の場合は、就労予定の企業が手配する書類などもあります。

私の周りにも外国籍の方がたくさんいるので、彼らから「何を書かれているのかさっぱりわからない。申請を手伝ってほしい」と言われることが多いです。彼らは、申請をするだけのために翻訳アプリを使ったり、知り合いに電話したりしなければなりません。これはものすごくペインだなと思いました。

外国人の方が日本国籍を取得する手続き「帰化申請」のハードルも高いです。私は生まれも育ちも日本ですが、両親共にスーダン人で、社会人になってから日本国籍に帰化しました。帰化申請は本当に大変でした。家族の同意書や出生の証明書、渡航歴証明のための過去全てのパスポートのコピーなど、たくさんの書類を提出しなくてはいけません。

最終的に集めた書類は69枚にも上り、行政書士の先生とやり取りしたメールは数十往復にもなりました。準備だけで約6カ月かかり、審査期間は9カ月かかりました。もう二度とやりたくない、トラウマとも言えるほどの経験です。

日本国内すべての産業で外国籍の雇用は増加傾向にある一方で、社会の整備や企業の対応は十分ではない。この現状を変えたくて、AIRVISAというプロダクトを開発しました。

外国籍の方のインフラになりたい

--AIRVISAの事業内容について教えてください。

ジャファー氏:企業向けに外国籍従業員のビザ管理、申請をサポートするクラウド型ソフトウェアを提供しています。情報収集から管理、手続きまでを一気通貫でサポートし、企業のコンプライアンス遵守、企業担当者の業務負荷軽減を実現します。

  • AIRVISA サービス画面イメージ 提供:AIRVISA

    AIRVISA サービス画面イメージ 提供:AIRVISA

何十種類もある在留資格を自動的に管理できるようになります。他にも昨今増えている偽造の在留カードのチェック機能も搭載する予定です。労務管理クラウドのSmartHRの年末調整機能のように、フォームに情報を入力するだけで在留資格の申請などができます。

--今後の目標を聞かせてください

ジャファー氏:AIRVISAは、すべての外国籍の方を支えるプラットフォームになることを目指しています。

まずは、外国籍人材を雇用する企業が抱える課題を解決します。その後に、外国籍の方が強いられているさまざまな非合理を一つずつ解消していきたいです。外国籍の方が日本で生活するうえで必要な与信がない、もしくは与信が不足していることも解決すべき大きな非合理です。

外国の名前であるということだけで不動産の契約ができない。役所の書類が日本語にしか対応していない。外国籍の方が感じているこのような非合理は少なくないです。

外国籍の方にまつわる非合理を一つずつ解消し、多様な人が活躍する日本をつくっていきたいです。外国籍の方のインフラになることを目指していきます。