テキストで質問や指示を入力することで、AIが自然な文章を返答してくれるChatGPTに注目が集まる。ChatGPTは、LLM(Large Language Model、大規模言語モデル)で学習した生成AI(ジェネレーティブAI)を用いたチャットボットだ。2022年11月30日のリリースから、わずか2カ月でユーザー数は1億人に達した。
そうした中で、ビジネスパーソンが気になるのは現場での活用法だろう。データ人材育成サービスを提供するSIGNATEは3月7日、「ChatGPTのビジネスにおける活用法と限界」というテーマでオンラインセミナーを開催した。
同セミナーでは、ビジネスでの活用例や利用にあたって想定されるリスクのほか、ChatGPTの登場で求められるスキルや職業などが紹介された。
メールや文章作成、アイデア提案などオフィス業務を効率化
ChatGPTのビジネスにおける活用シーンは、「現状業務の効率化」「既存事業におけるサービスなどへの埋め込み」「新規事業での活用(新サービスの開発)」の3つに分けられる。
米Salesforceが発表しているように、一部の企業は既存サービスに対して、ChatGPTを活用した機能の実装を進めている。セミナーでは、主に現状業務での活用例に焦点が当てられた。
同セミナーに登壇したSIGNATE 代表取締役社長CEO/Founderの齊藤秀氏は、「文章のドラフトや書類のテンプレート作成、アイデア提案、文章の要約・翻訳、データ収集、プログラミングとChatGPTでできることは多岐にわたる。だが、現状では人による作業を代替するレベルにまでは至っておらず、あくまで補助としての利用が現実的だ」と述べた。
例えば、「丁寧なメールの文面のテンプレートを作成してください」と指示を出すことで、ChatGPTはメールのドラフトを返答することができる。文章作成の応用として、マーケティング・PR領域ではブログやメルマガ、SNSコンテンツなどの作成にも活用できるだろう。
だが、齊藤氏によれば、「ChatGPTは固有名詞が伴う質問が苦手」だという。例えば、「●●の社長は誰ですか?」と特定の企業の社長について尋ねると、高い確率で関係ない名前を回答するそうだ。そのため、厳密性を伴う業務においては利用自体を検討したほうがよく、出力内容の精査が欠かせない。
データ分析に応用し、思考の深掘り・整理に生かす
このほか、ソフトウェア開発においては、一部修正が必要なものの業務に利用可能なコードを提示するという。
データサイエンティストである齊藤氏は、データ分析やデータサイエンス領域での活用に注目する。同氏が「株式会社●●の株価データを表で出力してください」と指示したところ、ChatGPTは表を作成し、属性の追加などにも対応した。
齊藤氏は機械学習のコンペティションであるKaggleで出題された、データ分析の課題にもChatGPTを利用してみたそうだ。データセットやタスク、機械学習の予測モデルを指定してPythonのコードを提供するよう指示したところ、ChatGPTはコードを提示するだけでなく、追加で指示することで分析結果に寄与したデータ項目も示した。
「プロから見ても驚きの結果だった。初心者のデータサイエンティストがやるような基礎的な分析は一定程度できてしまうだろう。ChatGPTは対話システムなので、解のないものに役立つのではないかと考える。例えば、質問と返答を繰り返して思考を整理し、探索を深め、そこから新しいインスピレーションを得るといった創発的な使い方も有用だろう」と齊藤氏は語った。
AIを使いこなすためのプロンプトエンジニアリングが重要に
齊藤氏によれば、ChatGPTでは質問内容が同じでも、ユーザーのテキストの書き方によって出力結果が異なるという。そのため、今後はChatGPTで得たい結果に合うように入力テキストを調整するプロンプトエンジニアリングが重要なスキルになる。
「人格やロールを与えるような聞き方をしたり、事前に盛り込む情報を指定したりと、プロンプトエンジニアリングにはさまざまなテクニックがある。『5歳児でもわかるようなやさしい説明で』と書くと平易な回答が示されることもあるし、特定の対話を続けることで回答にクセがついてくることもある」(齊藤氏)
すでに世の中では、AIを使いこなすための新しい仕事が誕生している。画像生成AI「Midjourney」を利用して漫画が出版されたニュースは記憶に新しいところだ。
フリーランスサービスのオンラインマーケットプレイスであるFiverrでは、AIのチューニングや、AIによる回答内容を専門家の視点で確認するファクトチェックなどのほか、プロンプトエンジニアリング専門のエンジニアという新たな職種も登場しているそうだ。
他方で、企業での利用においては、社内の重要情報やデータの流出が懸念される。この点に対応するため、入出力データの所有権をユーザーに帰属し、データ保持期間を30日間とするなど、OpenAIはユーザーを保護する方向に規約を変更した。
最後に齊藤氏は、「本来なら巨額の投資をしないと得られないAI技術を、簡便に利用できる点が最大のメリットとなる。企業での利用やChatGPTを組み込んだサービスの社会実装においては、自社独自のデータを蓄積・利用することで差別化し、自社のサービスに合うようにAIを調整するアライメントが重要になる」と指摘した。