グーグル・クラウド・ジャパンは3月2日、東京都渋谷区のGoogle 渋谷ストリームオフィスで金融業界やBaaS(Banking as a Service)事業者に向けて、国内外の金融機関におけるデジタル改革成功事例やGoogle Cloudの金融向けソリューションを紹介する「Google Cloud 金融サミット」を開催した。本稿では、キーノートの内容を紹介する。
金融機関の内製化を支援できるクラウドを提供するGoogle Cloud
はじめに登壇したのは、Google Cloud フィナンシャルサービス事業本部 執行役員 事業本部長の綱田和功氏だ。
同氏によると、昨今では金融機関におけるGoogle Cloudの採用が拡大していると話しており、その背景として金融機関の課題に対して同社が真摯に向き合い、ソリューションを提供できているからだという。
綱田氏は「クラウドの利用法はさまざまであり、多くのワークロードが存在し、各社で利用度合いは違うものの、Google Cloudはマネジードサービス、PaaS(Platform as a Service)など、ネイティブにクラウドを利用しているお客さまが多いことが特筆すべきところだ」と胸を張る。
そのうえで、同氏は「世界で数十億人が利用しているサービスで培われたテクノロジーをベースとし、ハイパフォーマンスな環境で堅牢かつ安定であることが特徴となっており、評価されていると認識している。そのような意味でITコストの削減だけでなく、アジリティやベンダーロックインしないオープンなテクノロジーにより、金融機関における内製化を支援できるクラウドを提供している」と述べた。
金融業界にインパクトを与える5つの要素
続いて、Google Cloud Financial Services Industry Solutions, Managing DirectorのZac Maufe氏が登場し、キーノートを行った。
まず、同氏は金融業界にインパクトを与えるデータと分析に関する変化として、以下の5つを示した。
(1) 新たなデータが爆発的に生成されつつある
(2) 非効率なデータサプライチェーン
(3) スピードとリアルタイム分析へのニーズ
(4) 非構造化データを解き放つ可能性
(5) AI/ML(機械学習)インサイトの大規模化
(1)については、複数の分析ソースによれば今後10年間でアクティブな人工衛星は2万5000(2022年時点で1万未満)を超えるほか、世界中の膨大なデータトラフィックを伝送する海底ケーブルは、例えばGoogleでは米国議会図書館全体を毎秒3回分に匹敵する毎秒250Tbpsの伝送容量を提供している。
(2)では、データを抽出して価値あるものにするためには、細分化・サイロ化されていることから、大規模に運用していくことは難しいという。一例として、規制データのサプライチェーンの場合、ソースデータからレポートまでたどり着くためには100程度のプロセスを経なければならないという。
(3)に関しては、従来は月次だったレポートなどが週次、日次と要求が年々高まっており、グローバル市場系のデータ分析においてはリアルタイム&トレーディングは引き続きデータ支出の最大セグメントであるとともに、投資リサーチ&ポートフォリオマネジメントも成長を遂げている。
(4)は、最近では大規模災害時に損害査定担当者が手薄になることから、AIを活用して航空写真を分析することで、被害の大きかった地域を粒度の細かいレベルで特定することが可能になっている。
(5)については、近年はAIシステムの学習に使用される計算量が指数関数的に増加し、金融サービス業においてAI/MLに言及した決算説明会が年々増加し、ジェネレーティブAIによりチャットボットの精度向上などが見込まれている。
金融機関がDXで直面する課題
一方で、金融サービスのトレンドとしてMaufe氏は「業界固有の経済的条件の変化」「複雑な規制要件」「競合のダイナミクスと破壊」「デジタルへの期待の高まり」の4点を挙げている。
具体的には、競争圧力や資本要件の増加、手数料収入の減少により収益性が重視されるようなったほか、コンプライアンスにかかる運用コストは金融危機以前と比較して60%増加したという。
また、2021年に世界のFinTechスタートアップは2018年比1万4000社増の2万6000社に増加したことに加え、銀行アプリや取引アプリに関するGoogle検索は2019年~2022年にかけてグローバルで2倍以上に増加したとしている。
Maufe氏は「こうしたトレンドにより、DX(デジタルトランスフォーメーション)の必要性が高まっているものの、金融機関が直面している課題は多くある。特に、技術的負債/レガシーIT、サイロ化した組織構造、リスク/規制要件の3つがいまだに大きな課題となっている」と指摘。
2021年時点で世界の上位50行のうち44行、上位10行がメインフレームを使用し、大規模な金融間では数戦のアプリケーションと数百のデータストアが製品サイロを中心に構成され、同年に7時間ごとに規制変更に相当する変更があったという。
そのため、Google Cloudではこれらデータの課題を解決すると同氏は強調する。Maufe氏は「Google Cloudは完全で統一されたデータプラットフォームであり、スピード・スケール・セキュリティ・信頼性のリーダーだ。さらに、組込み型のAIと機械学習を搭載し、オープンでありつつスタンダードベースの技術を有しており、差別化が図れる」と、そのメリットを説明する。
業界特化型ソリューションを提供するGoogle Cloudの強み
Google Cloudでは、金融機関がスピード感を持ってビジネスを進めるられるように「成長と収益の加速」「オペレーションとコストの効率化」「リスクと規制要件の管理」を実現するために、3つの領域ごとにサービスを提供している。
成長と収益の加速では、顧客の全体像を把握してインサイトを活性化させるカスタマーデータプラットフォームに加え、API管理の「Apigee」によりAPIサイクル管理を実現するエンベデッドファイナンスで市場投入までの時間を短縮できるという。
オペレーションとコストの効率化では、ドキュメントから構造化データを抽出・分類・強化する「Document AI」、自然な会話で日常的なやり取りを自動化して人間のエージェントにリアルタイムの支援を提供する「Contact Center」が担う。
リスクと規制要件の管理では、Google Cloudによる金融規制報告で煩雑で非効率なプロセス(ストレステスト、IFRS9、信用リスクなど)を、自動化するとともにマネージドサービスでコストを最小化し、合理化できるという。また、サーバを構築せずにHPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)ソースを起動し、バリュー・アット・リスク(保有資産の予想最大損失額を統計的に測定したもの)の計算とシミュレーションなどの高速化を可能としている。
最後に、Maufe氏は「こうした、Google Cloudの金融機関向けの業界特化型ソリューションが各ユースケースへの対応を支援しており、グローバルではHSBCなどの金融機関で採用されている」と力を込めていた。