電車やバスなどの乗り物の自動運転化、無人化が進んでいる。船舶の世界も他人事ではない。国土交通省海事局の「自動運航船の実用化に向けたロードマップ」では、2025年の自動運航船の実用化目標が示されている。では、船舶に関わる業務はやがてAIやロボットに取って代わられてしまうのだろうか。

そんな疑問を発端に、AIを活用した授業を行うのが、東京都立大島海洋国際高等学校(以下、大島海洋国際高校)の海洋国際科船舶運航系に通う生徒たちだ。同校のある離島での生活に欠かせない定期船の就航予測にAIを導入し、予測結果をSNSで公開、地域貢献にも役立てているという。今回はその取り組みを指導する同校 海洋科主任の網谷宗彦氏に話を伺った。

  • 東京都立大島海洋国際高等学校 海洋科主任の網谷宗彦氏

20年後に失業しないため、生徒たちが学ぶべきことは何か

大島海洋国際高校は、その名称からも分かるように海洋に関する事柄を学ぶ学校である。中でも船舶運航系の学科を学習する生徒は、将来、海技資格・免許を取得し、船員になることを希望するケースが多い。そうした中、国土交通省海事局が策定した「自動運航船の実用化に向けたロードマップ」で2025年の自動運航船実用化を目指す動きが挙げられたことに、網谷氏自身も大きな衝撃を受けたという。

「船員に必要な知識や技術を生徒に教育したところで、彼らが30歳、40歳になったときには、一部の船は自動運航されるようになり、失業してしまうかもしれないという危機感を持ちました」(網谷氏)

生徒たちも同様に、授業で取り上げられた自動運航船の実用化のトピックに対し、「AIやロボットに取って代られてしまう」という驚きと危機感を持ったという。今後生徒たちが船員として活躍するためには「AIと共存していく必要がある」と強く感じた同氏は、まずAIとはどのようなものかを知るため、自分たちでAIをつくってみることを思いついた。

「実際に自分たちでやってみることで、AIが得意な分野とそうでない分野が分かります。AIが不得意な分野は今後も人が必要とされるため、その分野が得意な人材を育てることができます。あるいは、AIが得意な分野をさらに伸ばすサポートができるような人材になれば、失業しないのではと考えたのです」(網谷氏)

実生活に基づくアイデアから、就航予測に着手

AIをどのように活用するかのヒントは、2019年に在籍していた八丈島出身の生徒の意見から得た。当時、学校のある大島には気象予報士が発信する定期船の就航予測があったが、八丈島にはなかった。定期船はおおよそ10日に1回ほど欠航し、欠航が続けば、島には物資が届かない。まさにライフラインが断たれてしまうわけだ。また生徒自身が受験などで島を出なければいけないときに、「船が来るか来ないか分からなくて困った」という実体験を基に、定期船の就航予測を行いたいと申し出たという。

「船舶の勉強になる、離島という立地を生かした学習ができる、地域や社会にも貢献できるという3点から、定期船の就航予測にAIを導入することを決めました」(網谷氏)

網谷氏は有志の生徒とともに、2019年からプログラミングを学習し、2021年1月から必要なデータの収集を開始、2021年6月にPythonとGoogle Colaboratoryを活用したAIプログラムを組み始めたが、すぐに挫折を味わった。1つのデータを調整し、チューニングをする場合でも、毎回プログラミングしなければならず、手間がかかりすぎたのだ。関わった生徒も「これは無理だ!」と諦めモードが広がったという。パソコンが苦手な生徒でもできる仕組みをさらに探しつづけた結果、より使いやすいAIツールを探し、ソニービズネットワークスが提供するAI予測分析ツール「Prediction One Biz」に出会った。無料体験で実際に使用してみて、「プログラム無しで細かいチューニングができるので、初めて使う生徒でも使いやすい」と感じた同氏は早速、学校に予算計上を申請。定期船の就航予測は地域貢献につながるという点が支持され、2022年4月、ついにAIの活用に向けたプログラミングを行う授業がスタートした。