金融事業者ではない企業が自社サービスに金融機能を組み込む「組込型金融(エンベデッド・ファイナンス)」が、注目を集め始めている。まさに今、この組込型金融の取り組みを積極的に展開するのがGMOあおぞらネット銀行だ。同行にて執行役員を務める小野沢宏晋氏は、金融業界の現状を「かつてITの世界にクラウドやas a Serviceが入ってきたときに似ている」と語る。

1月20日に開催された「TECH+ セミナー 金融DX Day 2023 Jan. DX推進から金融業界を変革する」に小野沢氏が登壇。組込型金融とDXをテーマに話した。

組込型金融の可能性とは

そもそも組込型金融とはどういうものなのか。小野沢氏は、日本銀行総裁の黒田東彦氏の言葉を引用し、「非金融サービスを提供する事業者が、サービスに金融機能を組み込んで金融サービスを提供すること」だとその概念を説明する。

その組込型金融の加速を牽引しているのはデジタルだ。小野沢氏は、同じく黒田総裁の「消費者と事業者の新結合」という言葉を引用し、「デジタル世界の特性は、事業者と消費者の新しい組み合わせを生む。消費者はニーズに対して最適なサービスを受けることが容易になり、事業者は優れたサービスを開発しやすくなる」と期待を語った。

  • 組込型金融の概念

組込型金融は、DXの流れ、他業種動向から考えることができる。他業種の例として挙げたのは、スーパーからコンビニ、そして通販と顧客との接点が「玄関に近づいている」流通業だ。流通業のように、金融機関のサービスも消費者に近づいていくというのだ。

「ユーザーが普段使っていて、便利だと思っているサイトやアプリにアクセスすると、そこに銀行機能、金融機能が組み込まれており、取引が行われます。あくまでも主体は銀行ではなく事業者です。(事業者が金融機能を自社サービス等に組み込む際のハードルを銀行は伴走支援し)そこに向けて変わっていく、変わらなければいけないというのが、銀行から見た組込型金融の位置付けです」(小野沢氏)

そのような組込型金融の時代の本格的な到来に向け、金融機関は何をすべきか。

同氏は、「インターネットは比較の時代。金融機関は選ばれるために何をすべきかを考える必要がある」と説明する。金融は絶対的な必要性という力がある一方で、銀行間での差別化が難しい。そこで同行が出した答えが、「いかにして銀行、決済、融資などの機能を、お客さまに近い事業者に組み込んでいただきやすくするか」だと言う。

小野沢氏は「金融サービスは業務効率化やDXを実現するための部品として、事業者のサービスに溶け込む存在になる」と語り、「販売金融、クロスセル金融と金融の提供形態が進化してきた中で、組込型金融は進化の1つの形態だと言える」とまとめた。

全ての企業がフィンテック企業になる

では、事業者の目線から組込型金融を見るとどうなるのか。

小野沢氏はまず、シリコンバレーのベンチャーキャピタルである米Andreessen Horowitzのパートナー、アンジェラ・ストレンジ(Angela Strange)氏の「全ての企業がフィンテック企業になる」という言葉を紹介。その理由を「複数の金融インフラサービスの手を借りることで、低コストかつ高速に、独自の金融サービスが構築できるため」だと小野沢氏は説明する。

ストレンジ氏の発言は2019年のものだが、Andreessen Horowitzは2023年に新たにフィンテックで、今後何が起こるかを予想し公表している。そのポイントとして小野沢氏は、「ビジネスバンキングをデジタル時代に移行するためのインフラレイヤーに取り組む企業が増える」「フィンテックが銀行化し、安定した資本源へのアクセスに注目が集まる」という2点を挙げた。

たしかに日本でもそうした動きは出てきている。小野沢氏は「2023年にはBanking as a Serviceへの期待感が盛り上がっていくだろう」と述べた上で、金融サービス提供のためには資本力が重要であり、フィンテック企業にも安定した資本源がますます必要になることから「(フィンテック企業がライセンスを取得し)銀行になる、あるいは銀行と組む(提携する)といった流れが出てくるのではないか」と見解を示した。