12万人を超える従業員、世界複数に構える拠点、3.5兆円の売上高を誇る富士通。ITを生業とする同社にとってもDXは喫緊の課題だ。巨大な船の舵取りを支えるのが、全社DXプロジェクトト(Fujitsu Transformation:フジトラ)をリードしている、CIO兼CDXO補佐の福田譲氏。就任から2年を経た福田氏に、これまでの取り組みをデータドリブン経営への改革を中心に聞いた
全社でDXに挑むための体制は?
まずはフジトラについて簡単に教えてください。
福田氏:DXの定義はさまざまですが、私がDX委員を務める経済産業省のDX推進指標の定義が最も的を得ていると思っています。つまり、競争上の優位性確立を目的とし、手段としてデータとデジタル技術を活用し、製品、サービス、ビジネスモデルを変革することがDXであって、ITの話ではありません。
富士通のDXは、パーパスを中心に人・組織・カルチャーの変革(EX)、オペレーションの変革(OX)、マネジメントの変革(MX)、事業の変革(CX)と4つの柱を持ちます。改革を通じて目指す姿がパーパスで、富士通の場合は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていくこと」。その理想像と現在の富士通との間にはギャップがあり、それを変革しながら理想に近づいていくというイメージです。そこでITやデジタル、データを使いますが、IT/デジタル/データにも課題があり、これらも変えていく必要があるということでIT改革も進めています。変革のテーマは150ぐらいあり、3カ月ごとにテーマを見直しています。
どのような体制でフジトラを進めているのでしょうか?
福田氏:DXでは組織、事業、IT・・・と色々なものを同時に変えていくため、全社的な体制を作って取り組まなければなし得ません。そこで、フジトラを進めるために、4層の体制を敷いています。
一番上がステアリングコミッティで、CEOでありCDXOを兼務する時田(時田隆仁社長)をはじめ、15人いる経営会議メンバーの10人が入っています。これにより経営のリーダーシップを確実にしています。
その直下に、CEO室に属するDXデザイナーが15~30人。トランスフォーメーションマネジメントオフィスとして、さまざまな部署の出身者が専任または兼務で変革をリードする組織です。
下2つは現場で、一番下は変革コミュニティ。SNS上に8000人をこえるDXコミュニテイができており、そのうち約500人が”フジトラクルー”として業務時間の一部を割いて自らプロジェクトに入って活動してくれています。
その上が変革の肝になる層で、DXオフィサーとして47ある部門、グループ会社、海外リージョンからそれぞれ1人ずつDXの責任者をアポイントしています。部門を超えた変革を推進できる人に集まってもらい、この47人がつながってコミュニティ型で変革を進めています。それを、その上のDXデザイナーとペアリングすることで、トップダウンではDXデザイナー(DXD)、ボトムアップではDXオフィサー(DXO)と約100人がコアのチームとして推進しています。
最初は閑古鳥が鳴いていた社内SNS
12万人の社員がいるなかで、DXを浸透させていくのは大変だと思いますが・・・
福田氏:SNSを変革プラットフォームと位置付けています。
富士通に限った話ではなく、日本はエンプロイーエンゲージメントが世界的に見て低いと思います。フジトラのような取り組みは、エンゲージメントを高めて”会社が変わるぞ”と全員で進めなければうまくいきません。そこで、フジトラを立ち上げる数カ月前に社内SNSを開始しました。
とはいえ、「SNS始めます」と言えば使ってくれるわけではないので、私が入社した2カ月後の2020年6月は、日本の使用はほとんどゼロ、閑古鳥が鳴いていました。そこで、時田に投稿してもらって盛り上げるなどの工夫をしました。見たくなるコンテンツが1つのポイントになります。
現在は社員の8割以上がアクティブユーザーで、1万をこえるコミュニティがあります。社員が好き勝手に投稿し、コメントをつけるという場所になっています。時田が”ダボス会議に行ってこんなことをやっている”と投稿したり、新卒1年目の社員が突然チャットで時田に話しかけることもあります。入社2年目で課長になった横田(富士通デザインセンターのデザインアドボケート横田菜々氏)が出張でのVlogを挙げるなど、いろいろなことが起こっています。
社員はみんなプライベートではLINEなどのSNSを使っています。会社に来るとメールになるというのも変な話で、そのようなカルチャーや行動、コミュニケーションのあり方を変容するということにフォーカスして利用促進に成功しました。
SNSは、MicrosoftのYammerを使っていますが、富士通は日本ではダントツのナンバー1ユーザーで、世界でもトップ10に入ると聞いています。
データドリブンの肝「One Fujitsu」
データドリブン経営にはどのように取り組んでいるのでしょうか?
福田氏:データドリブンがなぜ重要なのか、前職のSAPでは常にお客様に話していたことがあります。車の運転に例えるなら、多くの企業は現在、バックミラーを見ながら運転している状態です。20年ぐらい前から”リアルタイム経営”と言われてきましたが、実際は手ぐみのシステムを中心に部門別の業務システムを導入し、連結経営なのに海外では別のシステムが動いています。日本では9割ぐらいがこの状態で、富士通もそこに含まれます。
データドリブンとは、フロントミラーを見ながら運転することです。少なくともバックミラーをリアルタイムに見えるようになろう、と取り組んでいます。
国別、グループ会社別、業務別に個別最適されたシステムが4000個ぐらいあり、バケツリレーを重ねて月次決算が終わるという状態を変えていきます。それを「One Fujitsu」というプログラムで展開しています。
2021年10月に新しい事業ブランド「Fujitsu Uvance」も立ち上げました。Universal(あらゆる)とAdvance(前進)を組み合わせた言葉で、社員投票で決めたブランド名です。社会課題を起点とし、「富士通がいてよかった」と思ってもらえる会社になるというパーパスに合う事業として、7の注力領域を定めました。7領域に入らない事業は段階的に止めます。10年ぐらいかかると見ていますが、ポートフォリオを入れ替えるポートフォリオ戦略本部を設けて進めています。
ビジネスモデルも変えていきます。例えば、ものづくりの顧客であれば、”カーボンフットプリントをゼロすることは経営課題として捉えるべきであり、Scope3に到達するには自社内だけでなく取引先を含めカーボンフットプリントを可視化する必要があるので、そのためのSaaSを生産システムに組み込みました”というようなモデルがFujitsu Uvanceです。お客様自身も答えを持っていない中で、ビジネスモデルを、お客様がやりたいことを実現するという従来型からオファリング型に変えていきます。
これを、世界標準でクラウドサービスとして提供していきます。その際に4つあるリージョンで受注方法が異なる、提供方法が異なるなどのことがあると非効率ですので、全リージョンでグループ会社を横断してFujitsu Uvance型で世界共通でお客様とお付き合いするために、OneERP、OneCRM、OneSupportと、1つのERP、1つのCRM、1つのサポートシステム、1つの人事システムとなるように組み直している最中です。
重要なことは、これはITのプロジェクトではなく、経営のプロジェクトであるということで、プロジェクトのオーナーは時田です。