富士通と東海大学は12月21日、冷凍マグロの品質指標である鮮度を評価するシステムに関して、超音波とAI(Artificial Intelligence:人工知能)技術を活用して非破壊的に冷凍状態のままで鮮度評価を実現する仕組みを開発したことを発表し、記者会見を開いた。

  • 記者会見の様子

    記者会見の様子

昨今のマグロ産業は成長を見せており、日本だけでなく国外での漁獲量も増加している。これに伴って、国際的にマグロに求められる品質も向上しているという。従来の冷凍マグロの品質判別は、マグロの尾の断面を熟練者が目視で確認する、通称「尾切り」と呼ばれる選別が主流であり、破壊的な検査が必要な上、検査可能なタイミングや場所、検査できる熟練者が限定されていた。

  • 尾切りによる鮮度評価の例

    尾切りによる鮮度評価の例

また、これまでにもマグロの身を切ることなく非破壊的に鮮度を検査する手法も考えられていたものの、冷凍マグロは電気抵抗が大きいため電流を用いる検査が困難であり、通常の周波数の超音波を用いた検査では肉質による減衰の影響が大きい課題があった。なお、尾を切らずに非破壊的に鮮度を評価できるようになれば、可食部の増加にもつながる。

  • 今回の研究の意義

    今回の研究の意義

この課題を解決するため、両者の共同研究グループはまず冷凍マグロの超音波検査が可能な超音波の周波数帯を検討した。生のマグロの鮮度評価に用いられる1.0メガヘルツ以上の周波数では冷凍物の場合はすぐに減衰してしまうことが知られていたが、今回、500キロヘルツ程度の低周波超音波であれば冷凍マグロの検査が可能であることを明らかにした。

  • 冷凍マグロにも有用な超音波を発見した

    冷凍マグロにも有用な超音波を発見した

一方で、超音波の周波数が低くなるほど検査で得られる波形の解像度も低くなることも知られていたという。そこで、富士通はAIを活用して低周波超音波でも鮮度を評価可能なシステムの開発に挑戦した。

研究グループは、中骨からの反射波であれば振幅が大きくなるためノイズの影響を受けづらく、身の情報も含んでいることから、中骨とプローブ(マグロに接触して波形信号を受信する機器)の間にある身の評価が可能であると考えたそうだ。

正常な検体と比較して鮮度不良の検体は死後硬直が進んでしまい、中骨からの反射波が大きくなる現象を利用して、機械学習を用いることでマグロの尾を切らないまま鮮度を試み、これに成功したとのことだ。

  • 中骨からの反射波に着目したそうだ

    中骨からの反射波に着目したそうだ

研究では、長さ15センチメートルほどの冷凍マグロの検体を収集し、検体のさまざまな角度から皮越しに超音波波形を取得した。中骨からの反射波が見られる区間を抽出し、AIの構築に用いたという。正常と鮮度不良の計10検体から得られた222波形を学習に用いて、6検体から得られた126波形を使って検証している。

AIが正常と判定した場合は「0」、鮮度不良と判定した場合は「1」と算出する鮮度不良度スコアを設定した。

実験の結果、鮮度不良度スコアは正常波形と異常波形で統計学的有意差が見られた。さらに、鮮度不良を判定する閾値を変化させたときに得られる曲線であるROC曲線(Receiver Operatorating Characteristic curve:受信者動作特性曲線)を描出したところ、曲線下面積は0.791であり、これは正解率がおよそ70%から80%程度であることを示している。この正解率は従来の尾切りによる熟練者の精度と同程度のようだ。

  • AIの実験結果

    AIの実験結果

会見中にはこのAIを用いて正常な冷凍マグロと鮮度不良な冷凍マグロを比較するデモンストレーションも行われた。

正常な冷凍マグロではもちろん異常波形が検出されず、正常であることを示すスコアが表示されていたが、鮮度不良な冷凍マグロでは異常値を示すスコアとともに波形が赤く変化し、鮮度不良であることを示していた。

  • 正常な冷凍マグロを識別した結果

    正常な冷凍マグロを識別した結果

  • 鮮度不良な冷凍マグロを識別した結果

    鮮度不良な冷凍マグロを識別した結果

研究グループは今後の展望について、学習データの数を増やすとともにアルゴリズムを改善し、さらなる精度向上を図るとしている。また、身の硬さ以外の品質異常や、脂ののりといったおいしさの判定も可能な技術の開発にも着手する予定だ。

さらには、畜産業や医療、バイオ分野など、水産業以外でも冷凍物を扱う業界への横展開を見据えているという。

富士通 人工知能研究所の酒井彬氏は「特に東南アジアなどではせっかく鮮度の良いマグロであっても、評価する手法がないため鮮度に関わらずツナ缶として加工されるような場面が多かった。AIを活用して迅速に誰もがマグロの鮮度を評価できるようになると、水産物の高付加価値化や適正な流通にも貢献できるだろう」とコメントしていた。

  • 富士通 研究本部 人工知能研究所 自律学習プロジェクト 酒井彬氏

    富士通 研究本部 人工知能研究所 自律学習プロジェクト 酒井彬氏