消費者は現在、エシカル(地球環境/人/社会に対して配慮された)な商品やサービスを適正な価格で手に入れることを望んでいます。

購買行動の指針として、環境、社会、ガバナンス(ESG)への取り組みを理解し、積極的に行動する消費者が増加しています。われわれが行った最近の調査では、消費者の93%は、社会や環境の問題がこれまで以上に重要であると考えており、その88%は購入する前に、商品を販売する企業とその物流パートナー(つまりサプライチェーン)双方のESGへの対応を調べているという結果が出ています。

しかし、このような考えが広まっていますが、ほとんどの企業はまだティア1(直接取引のある)サプライヤーしか可視化できていません。サプライヤーの先のサプライヤーとなると、漠然としか把握できていないのが実情です。

ティア1、ティア2、ティア3のサプライヤー(サプライヤーのサプライヤーのサプライヤー)にまたがる複雑なサプライチェーンを綿密に調査するのは非常に困難なことですが、今や米国の企業にとっては法的な要件となりました。特定の地域から米国の港へ持ち込まれる商品に対して、その製品がどのように、どんな材料で、誰によって製造されたかについて、正確に証明できない場合は取引を停止される可能性があります。

エシカルな調達戦略にはサプライヤーの透明性が要求される

自社のサプライヤーを見直すことで、サステナビリティと環境に対するポリシーや姿勢を示すことができます。多くのサプライヤーは、四半期報告書や年次報告書を通じて自社の取り組み関する声明を公表しているはずです。企業はまずサプライヤーの取り組みがどれだけ進んでいるかを確認し、どれを見直すべきかを判断するところから始める必要があります。

テクノロジーの活用により、製造業者のスクリーニングや、自社が収集した情報、公開されている情報、ニュース記事などに基づいて収集された、企業のプロファイル情報が自動的にアップデートされて更新フラグが付きます。

これにより、サプライヤーについて最新情報を得ることができます。SRM(サプライヤー・リレーションシップ・マネジメント)のソフトウェアは、多くの場合、サプライヤー・サーベイの仕組みを持ち、社内スタッフや外部パートナーから、当該サプライヤーに関する資格や認定などの情報を収集します。その結果、企業は潜在的なリスクを簡単に検出し、サプライヤーのコンプライアンスを監視することができます。

問題のあるサプライヤーへの対応

多くの企業はサプライヤーと長期的に戦略的な関係を結んでおり、両社がより有益で効率的な関係を保てるように、サプライチェーン・プロセスの連携や製品規格や納品精度など、常に相互のフィードバックを行える密な繋がりを持つことが必要です。

問題が発生した場合は、すぐにコミュニケーションを取ることが重要です。企業は問題のある戦略的サプライヤーに対し、自社製品のブランドやエシカルな立場を非公式に申し入れるだけでなく、正式な調達文書やサプライヤー協定書に明示し依頼する必要があります。

とはいえ、エシカルに則っていないサプライヤーとの関係を絶つだけを目標にすべきではありません。サプライヤーを選択するには、品質、コスト、パフォーマンスなど、正当な理由があります。逆説的にいえば購買組織にとっては、サプライヤーを取り込み自社のブランド価値に合せて成熟させていくことが望ましいケースもあります。

そのためには、サプライヤーの現状を把握し、目標と優先事項を説明した上で、継続的な改善を促すようなサプライヤーと関係を構築していく必要があります。

リスクを軽減し適切に支出を管理するために統合を

サプライヤーとの関係を見直すプロセスを行うと、時間の経過とともに蓄積された重要度の低いロングテールのサプライヤーが浮かび上がることがあります。そこで、サプライヤーを集約することにより、サプライチェーンにおけるアンチ・エシカルの可能性を低減できるとともに、サプライヤーに対するビジネス影響力を高めることができます。

極端にサプライヤーの集約を進めすぎるとサプライチェーンの柔軟性が失われ、商品が不足する事態につながる可能性はあります。しかし、ロングテール・サプライヤーを整理することで、企業は支出を最適化しリスクを軽減できます。サプライチェーンのパートナーの数は、多すぎず少なすぎずの適切なレベルにしておく必要があります。

トランスペアレントな(透明性の高い)テクノロジーの採用

AIなどのデジタル・テクノロジーは、最適なサプライヤーの推奨、売買取引の管理、およびグローバルな貿易コンプライアンスの維持に貢献します。こうしたテクノロジーは何年も前から存在していました。しかし、企業とサプライヤー間の透明性を高めるために設計された、ブロックチェーンを利用した最新のサービスもあります。

ブロックチェーンは改ざんの恐れがない分散型台帳管理のテクノロジーを特徴としています。ブロックチェーンによってサプライヤーを管理することで、企業は製品のロット・系統・出所を検証し、製品のライフサイクルにおけるすべてのステップを信頼できる台帳で把握できます。

また、Internet of Things(IoT)センサーとブロックチェーンのトラック・アンド・トレース・ソリューション(原材料から完成品まで)を使用すると、取引される原料が問題のある地域からのものであるかを確認でき、原料の出所についての情報を得ることができます。コンプライアンスという点でも、それぞれの原料が完成品になるまでのプロセスを不変の記録として残します。これにより原産地証明の要求を満たせるので、不測の出荷停止を防ぐことにつながります。

そして、サプライチェーンのリスクを未然に防ぐソフトウェアの需要が高まっています。これらのソフトウェアはAIや機械学習を使用してサプライチェーン上のパートナーを監視し、脆弱性を検出します。

こうしたソフトウェアの例として、既存のサプライチェーン・システムとインテグレーションする必要があるトッピング型のソフトウェアがあります。また、オラクルのように、主要なサプライチェーン・システムと事前統合され、かつ潜在的なリスク事象が公開されている外部データ・ソースを利用してリスク評価を行う機能が内蔵されているソフトウェアもあります。

サプライチェーンもブランドにする

消費者からのエシカルへのプレッシャーは高まっており、リスクへの対応を怠れば企業の評判を損ねたり、コンプライアンスに反することにもなりかねません。一部のスタートアップはESGを優先事項に掲げ、成熟し複雑なサプライチェーンを持つ大手の競合他社に対する重要な差別化要因として、エシカルな調達を推進しています。

つまり、企業は製品やサービスを販売するのと同様に、サプライチェーンもブランドとして販売するようになったのです。

企業は新しい規制への準拠を急いでおり、消費者はサステナビリティの実践をより意識し、エシカルで環境に配慮した調達を求めるようになりました。企業はサプライヤーの労働条件や環境への影響についてより透明性を高め、発信していく必要があります。今後はサプライチェーンに存在する悪しき慣習を決して見逃すことはできないということです。

著者プロフィール

ジョン・チョーリー(Jon Chorley)

オラクル・コーポレーション チーフ・サステナビリティ・オフィサー兼グループ・バイスプレジデント サプライチェーン・マネジメント製品戦略担当

オラクルのサプライチェーン管理(SCM)アプリケーションの製品戦略担当グループ・バイスプレジデントであり、これらのアプリケーションのビジネス要件と製品ロードマップの推進を担当するチームを率いている。
加えて、オラクルの最高サステナビリティ責任者でもあり、環境サステナビリティに関連する社内外のすべての取り組みの推進と調整を行っている。