Salesforceが発表したリアルタイムCRMを実現する新たなデータプラットフォーム「Salesforce Genie」が注目を集めている。日本では、従来から提供している「Salesforce CDP(Customer Data Platform)」の名称で提供され、マーケティング領域に留まらず、Salesforce Customer 360全体を網羅し、より幅広い領域でのデータ活用を促進することになる。Dreamforce 2022で発表されたSalesforce Genieの日本での展開と、同じくDreamforce 2022で発表された自動車産業向けのAutomotive Cloudについて、セールスフォース・ジャパンに聞いた。

Salesforce Genieは、2022年9月に、3年ぶりに米サンフランシスコでリアル開催されたDreamforce 2022で発表されて以降、その動向が注目されている新たなデータプラットフォームだ。

同社最大の年次イベントであるDreamforce 2022には、全世界から4万人以上が参加するとともに、オンラインからは100万人以上が参加。日本および韓国からは、ユーザーやパートナーなど、500人以上が現地参加したという。会期中には、1000以上のセッションが行われ、様々な製品やサービスが発表されるとともに、同社がコアバリューに新たに追加したサステナビリティに関する取り組みも大きなテーマとなった。そうしたなかでも、Salesforce Genieは、Dreamforce 2022の目玉のひとつとして発表され、最も注目された内容になった。

Salesforce Genieとは

Salesforce Genieは、Salesforce Customer 360を進化させる、世界初のリアルタイムCRMを実現するデータプラットフォームと位置づけている。

同社では、「顧客とリアルタイムにつながり続けるために必要なプラットフォームになる」と、Genieを位置づける。

「もし、すべての顧客データを、信頼できる唯一の情報源にまとめることができたらどうか、その情報源がリアルタイムであったらどうか、リアルタイムのデータを特別な顧客体験に変えることができたらどうか。そうした要望に応えることができるのがSalesforce Genieになる。GenieはCustomer 360全体に、リアルタイムのパワーをもたらすことができる」と、セールスフォース・ジャパン マーケティング本部プロダクトマーケティング シニアディレクターの松尾吏氏は語る。

これまでのCustomer 360では、Salesforce が展開している独自データセンターに加えて、AWSやAzure、GCPとの連携によって構築したHyperforceの上に、トランザクションデータベースを構築し、Einstein AIによる分析、フローの自動化を行い、営業、マーケティング、カスタマサポートなどの顧客との接点に向けたアプリケーションを提供してきた。 この環境を進化させ、Hyperforce上に追加する形で、Genieによるリアルタイムのハイパースケールデータプラットフォームを構築。リアルタイムのEinstein AIによる分析、リアルタイムによるFlowによる自動化を行うことになる。これによって、営業、マーケティング、カスタマサポートの現場では、リアルタイムの情報を見ながら顧客への対応ができるようになる。

  • GenieによるリアルタイムCustomer 360

「Web、モバイル、IoTから得たアルタイムデータや履歴データなど、無限ともいえる様々なデジタルデータを蓄積し、これを顧客軸に再統合。顧客接点の場でリアルタイムのエンゲージメントを実現し、顧客体験を変えていくことができる。Genieは、これを実現するための中核的なプラットフォームになる。これまでSalesforceが提供してきたFlowやEinsteinに、Genieの活用が加わることで、リアルタイム性を重視した特別な顧客体験を実現できるようになる。これらの機能を、業界別に最適化した形で展開していくことになる」とする。

ちなみに、これまでの製品やサービスと同様に、Genieにもキャラクターが用意され、魔法のステッキを持ったうさぎが採用されている。リアルタイムデータにより、魔法のように顧客体験を進化させるという意味が込められているようだ。

リアルタイムによる新たな顧客接点の実現に向けて、戦略的パートナーシップも発表している。

Snowflakeのオープンデータを、ゼロコピーで直接利用できるようになるほか、GoogleやAmazon、Metaの広告データをリアルタイムで収集。Einstein AIに加えて、AWSのSageMakerを活用したAIとの連携も行えるようにした。さらに、AppExchangeパートナーとの連携も強化。「リアルタイムデータを軸に、ビジネスを変えていくためのパートナー連携を強化しており、エコシステムを通じて、リアルタイムCRMの拡充を進めることになる」とした。

Genieによる先行事例

すでに、Genieによる先行事例も発表している。

フォードでは、EVの所有者に対するサポートにGenieを活用。EVのバッテリーの減少量が異常であった場合に、ドライバーがコールセンターに連絡をすると、コールセンターでは、自動車で起きていることをリアルタイムに把握し、サポートすることができるという。これは、Service CloudにGenieを活用したケースとなる。また、Sales Cloudにおいても、Genieとの連携により、見込み顧客のプロフィールをより詳細に把握でき、関心の変化などを捉えたリアルタイムデータに基づき、適切な提案を行ったり、キャンペーンを提示したりといったことができるという。

ロレアルでは、リップスティックのカスタムメイドサービスにおいて、Genieを活用。SNSで、リップスティックの興味を持った人を見つけ出し、リアルタイムでエンゲージメントをしていくといった取り組みを開始しているという。リアルタイムデータをもとに、顧客の興味を的確に捉えて、パーソナライズした情報提供が可能になるという。

「エンドユーザーが期待しているのは、リアルタイムなフィードバックや企業からの反応である。たとえば、メタバースをはじめとするデジタル空間では、どの看板を、どれぐらいの時間を見ているのかといったことも、簡単にデータとして収集できる。それらのリアルタイムデータをもとに、個人に最適な広告が表示され、パーソナライズされた情報が提供できるようになる。これは技術進化の話だけでなく、個人が求めているサービスそのものであり、企業はそれに迅速に反応しなくてはならない。そうした時代の変化がリアルタイムCRMが求められる背景にある。さらに、デジタル空間での体験は、実店舗での接客の変化にもつながる。そして、これが特別な一部店舗での体験だけでなく、今後は、一般的な体験になってくる。それを支えるのがGenieとなる」と松尾氏は語る。

グローバルでは、Salesforce Genieのブランドで展開するが、日本では、Salesforce CDPの名称で展開することになる。

セールスフォース・ジャパンでは、これまでにもSalesforce CDPの名称で、日本市場向けにデータプラットフォームを提供しているが、これまではMarketing Cloudのなかで提供し、マーケティング領域において、よりパーソナライズしたサービスを提供する環境の実現を支援するに留まっていた。

「これまでのSalesforce CDPの考え方を、Salesforce Customer 360全体に適用できるようにしたのが、新たなSalesforce CDPとなる」と説明する。

グローバルでは、Sales Cloud Genie、Service Cloud Genieといった呼び方が使われるが、日本では、従来通り、Sales CloudやService Cloudの名称で展開しながらも、Genieによるデータプラットフォームを用い、リアルタイムCRMを実現することになる。

「Genie によってリアルタイムに顧客とつながり、Einstein AIでインサイトを与え、Flowによって自動化で効率化するといったことが、Sales CloudやService Cloudのなかでも実現できるようになる」というわけだ。

Genieの機能がSales CloudやService Cloud向けに正式に提供される時期については、現時点では未定となっているが、Salesforceの各製品における年3回のアップデートのなかで、順次、Genieの機能の一部といえるものが提供される可能性がありそうだ。

Automotive Cloud

一方、Dreamforce 2022では、Industry Cloudの新たな提案として、自動車業界向けのAutomotive Cloudを発表している。国内では来春以降に提供を開始することになりそうだ。

セールスフォース・ジャパン マーケティング本部プロダクトマーケティング マネージャーの前野秀彰氏は、「自動車業界は、研究開発費の増加、世界的な競争激化、環境規制の強化によって、収益を維持するのが難しくなってきている。Automotive Cloudは、険しく、不透明な状況に直面している自動車業界を支援することを目的に開発したものである。Industry Cloudにおける様々な業界向けの機能も取り組みながら、自動車業界に最適化した提案を行い、いち早くイノベーションを実現できる」と語る。

自動車業界は、100年に一度と言われる大転換期を迎えており、産業構造も大きく変わろうとしている。生産者である自動車メーカー、販売を行う自動車ディーラー、メンテナンスを行う工場など、それぞれが独立した業態だったものが、コネクテッドカーの時代になり、新たな販売モデルやサービスモデルの構築などにより、それらの壁が無くなり、異業種からの参入も加速している。顧客との接点が変化し、データが重要性を増し、同時に、サステナビリティへの対応が最も求められる業界のひとつにもなっている。

同社の調査でも、自動車メーカーによるパーソナライズされた体験に期待しているとの回答は73%に達し、ファーストパーティーデータが顧客体験を向上させるとの回答は93%を占めている。

「ステークホールダー同士がつながっていないと、顧客への体験も分断してしまう。顧客対応するチームに、共通の情報源を提供し、エコシステムの強化に貢献し、すべての顧客に新たな体験を与える必要がある。ドライバー360といえる状況を作らなくてはらない」とする。

Automotive Cloudでは、車両データと販売データ、ファイナンスデータを統合し、それらを可視化することで、エンゲージメントの強化につなげることができる。

具体的には、車両と顧客のデータを統合し、重要な情報の管理と迅速なアクセスを実現する「車両コンソール」、ドライバーとのすべてのやり取りを可視化し、ルールに基づいたアラートをもとに、新たな提案を行う「ドライバーコンソール」、家族の情報と車両の情報を結びつけて、パーソナライズ化したエンゲージメントを推進する「世帯情報の管理」、標準化されたデータ基盤を利用して、エコシステムにおけるデータ共有を実現する「自動車業界のデータ基盤」を組み合わせて、意味のあるエンゲージメントを実現することになるという。

  • ドライバー360

Automotive Cloudは、他のIndustry Cloudの製品群と同様の構成となっており、Sales CloudやService Cloud、Salesforce Platformの上に、自動車業界のデータ基盤を構成し、自動化を推進するFlow for Automotiveを提供。その上で、自動車業界のアプリケーションとプロセスを構築し、Customer 360によって拡張を図ることになる。

 まずは自動車メーカーを対象にした機能が実装されるが、自動車ディーラー向け、自動車向け金融および保険業向けの機能も追加されていくことになるという。し自動車業界向けに様々な機能を追加することで、順次、ターゲットを広げていくことになる。

セールスフォース・ジャパンでは、製造、自動車、エネルギー業界向けビジネスをひとつ組織で統合しており、Automotive Cloudも、この組織を通じて展開されることになりそうだ。2023年には、日本において、正式な発表が行われることになるだろう。

  • GAutomotive Cloud + Customer 360