今年も残すところ2カ月弱となった。振り返るにはまだまだ早いが、今年の国内IT業界でよく耳にした言葉が「リスキリング」だろう。これは、日本の少子高齢化に伴う労働人口の減少や、政府が進める「デジタル田園都市国家構想」などの文脈で語られる言葉だ。

要するに、社会状況が急速に変化していく中で、社内でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進めるためには、従業員のリスキリング=学びに目を向ける必要があるというわけだ。

今回、米Udemy CLO(最高学習責任者)のMelissa Daimler(メリッサ・ダイムラー)氏にCLOとしての役割や、日本のリスキリングへの支援に関する話を聞いた。

  • 米Udemy CLO(最高学習責任者)のMelissa Daimler(メリッサ・ダイムラー)氏

    米Udemy CLO(最高学習責任者)のMelissa Daimler(メリッサ・ダイムラー)氏

企業文化を再定義する=“Re-culturing”

Udemyは、米国のEdTechスタートアップでベネッセとは2015年に包括的業務提携を発表。個人(CtoC)同士で教えたい、学びたいをオンラインでつなぐ学習プラットフォーム「Udemy」のユーザーはグローバルで5400万人、法人向けのUdemy Businessは2019年に国内で提供開始し、2020年にベネッセと連携強化を目的に資本提携を締結した。

コンテンツは現役のエンジニアやビジネスパーソン、大学講師など実務家講師が現場実務で培ったノウハウを講座化し、基準をクリアしたUdemy Businessの講座群は8800(日本語1000以上)にのぼり、国内では800社以上が導入している。以下からダイムラー氏との一問一答だ。

--あまり耳慣れない言葉なので、まずはCLOの役割について教えてください。

ダイムラー氏(以下、敬称略):CLOとはChief Learning Officer、つまり最高学習責任者の略称です。UdemyのCLOに就任して1年以上経過していますが、基本的には学習などに加え、戦略につながるようなタレントマネジメントを担当しています。

特にUdemyという会社でのポジションは面白く、自分たちがモデルとしてベストプラクティスを実行・実践し、お客からから学び、逆に当社からお客さまにベストプラクティスを提案するなど、インタラクティブな関係性を構築しています。

--個人的には日本の企業文化は一足飛びに変化することが難しい企業が多い印象です。欧米において、こうした変化が難しい企業における先行事例があれば教えてください。

ダイムラー:グローバルにおいてもマインドセットの変化は難しいものです。そのため、グロースマインドセット(成長を促すマインドセット)を提案しています。世界が目覚ましく変化する中において、追随していくためにグロースマインドセットが重要となることから、多くの企業で取り入れています。

Udemyでは、グロースマインドを“Re-culturing(組織文化の醸成)”と定義しています。現在、Re-culturingは中小企業から大企業まで取り組んでおり、これは企業文化の再定義を意味します。コロナ禍で働き方が変わり、後戻りすることはないため多くの企業において見直しを進めています。

こうした状況の中で、なぜ学習が必要なのか、なぜRe-culturingが必要なのか、ということを理解している企業は成功しています。そのような考えを従業員、個人、また組織と共有する必要があるのです。

--上記の質問に付随して、変化が難しい企業に対する変革のためのリーダーシップ論、組織論を教えてください。

ダイムラー:Why、What、Howの3つが大事なことです。パーパス(存在意義)をはっきりさせ、会社の戦略や優先順位は変化に対応させるべきです。逆に従業員にパーパスを意識付けないと失敗します。

コミュニケーションをしない、各従業員の役割が何かまで落とし込めていないと失敗します。それを成功させるためには、マネジメントと従業員がともに走り、共創する必要があります。

従業員と多くのコミュニケーションを取り、役割を落とし込む必要があるのです。各従業員がどのようなスキルが必要なのかをハッキリさせる必要があり、企業として成功するのみならず、個人の成功にもつながるということを理解してもらうことが重要です。

仕事がうまくいくためにやるわけではなく、学習も仕事の一環として捉えれば成功につながるでしょう。

国内で急速に拡がるリスキリングの必要性

--日本では、この1年で急速にリスキリングが注目されています。Udemyでは、どのような支援ができますか?

ダイムラー:Udemyとしては、豊富なコンテンツで支援します。日本では、ベネッセと2015年に業務提携契約を締結し、2019年からUdemy Businessでローカルのコンテンツを提供しています。日本語のコースは7000超、インストラクターは約2000人、現状で必要なスキルと将来的に必要なスキルを把握し、関連性が高いコンテンツを提供しています。

Udemy Businessのダッシュボードでは、利用率や利用時間のみならず、リアルタイムで細かい分析もできるインサイトを提供し、ユーザーアクティビティレポートをはじめ、さまざなまレポートもダウンロードできます。

カスタマーサクセスチームは、ただ数字を見るだけでなく、その裏側にあるストーリーを分析し、お客さまに新しいコースの提案などを行います。

当社はアクティブラーニングにフォーカスしており、プラットフォーム上にトップ講師が考案する実践的なハンズオンアクティビティに取り組むことで、学習者が高度なスキルや知識を身につけられる仮想の技術環境として、ワークスペース機能などを持っています。

例えば、エンジニアがテクニカルスキルの学習後にコーディングをテストすることができますし、自己評価も行えます。加えて、コース修了後にビジネスの成果との相関性を分析することも可能です。

コンテンツのバランスはITと非ITでバランスがとれています。ITスキルに関しては、開発やプログラミングをはじめとしたスキルベースのコンテンツに強みがあります。

一例として、ブロックチェーンのコース受講後にすぐに関連した仕事に就けたりするなど、明らかな効果があることに加え、企業でブロックチェーンの利用を検討しているのであれば、Udemy Businessで学べばスキルが身に付くため、即時性が高いものになっています。

学習を維持するために必要なこととは

学習をするか、しないかは個人によるかと思います。モチベーションを保つために何かアドバイスはありますか?

ダイムラー:個人で学ぶことは、世界的にも難しい問題です。仕事と並行するため、時間の制約などで学ぶことが難しいものです。そのため、ある種の“強制的な自主学習”を勧めています。繰り返しとなりますが、自分がどのようなスキルを学ばなければいけないのかをハッキリさせることがやはり重要です。

そのうえで、パーソナライズされたコースを構築するべきです。Udemy Businessは、パーソナライズされたコースを構築できる機能として、ラーニングパス(Learning paths)というものを備えています。

これは、Udemy Businessの数あるコンテンツの中から任意で複数のコンテンツを選択してリスト化し、1つのコースとしてまとめることができるもので、課題や目的に合致したコースの作成が可能です。

  • ラーニングパスは課題や目的に沿う形でコースの作成が可能だ

    ラーニングパスは課題や目的に沿う形でコースの作成が可能だ(出展:Udemy Webサイト)

一方で、カスタマーサクセスチームがお客さまのマネジャーやリーダーと話す際は、会話の中で問題意識を見出し、解決に向けた支援を提案しています。よくプラットフォームビジネスでは、購入したライセンスを従業員に渡して、サポートがないままの状態ということがありがちです。

このような状況は自主的に学ぶことを難しくさせるため、モチベーションを従業員に頼るのではなく、マネジメント層がサポートする必要があります。サポートの中でマネジメント層がどのような結果を出したいのか、ということをハッキリさせることで、会社・従業員ともに方向性がハッキリしていきます。

さらに、従業員に効果を示す機会も重要であり、例えばラーニングパスのクリア数に応じた資格などです。こうしたことがモチベーションの維持につながるのです。

最後にUdemyのCLOとして、今後の優先事項、また展望について教えてください。

ダイムラー:今後、取り組みたいことは、どのようにして最新のトレンドを取り込んでいくのか、ということです。

  • ダイムラー氏

    ダイムラー氏

現在、当社内部ではグループで学ぶコーホートベースモデルと呼ばれるものに取り組んでいます。これは、例えばリーダーシッププログラムでは1~6週間の期間、グループでプロフェッショナルからスキルセットを学ぶというものがあります。

グループで学習し、実行・実践してグループ内でディスカッションを行うというものになります。これにより、さまざまな観点から学ぶことができます。

また、企業のスキルギャップをどのように埋めるのかということにも取り組みます。お客さまとの対話を通じ、企業独特のシステムの中でどのようなスキルギャップがあるのかを把握して、最短・最速でギャップを埋めるためのアルゴリズムを構築・発展させていきたいですね。