日本電信電話(NTT)、NTTドコモ、NTTコミュニケーションズ(NTT Com)の3社は11月1日、海中での高速無線通信の実現を目指して海中音響通信技術を用いた共同実験を行い、海中音響通信による浅海域(水深30m程度)での伝送速度1Mbps/300mを達成する伝送実験に成功したと発表した。3社によると、同様の実験の成功は世界初とのこと。

今回の実験では、送信機は海中に固定した共振周波数の異なる5素子の送波器アレーと海上の音響通信装置で構成し、広帯域の変調信号を合計10素子の送波器から海中に送信した。受信機は16個の受波器アレーと海上の音響通信装置で構成し、受波器アレーで受信した変調信号を音響通信装置で信号処理を行い復調した。

  • 伝送実験の構成

新技術は受信機の音響通信装置の受信回路において、陸上と比較して20万倍の低速になるという遅延波の影響を除去する時空間等化技術と、環境雑音耐性向上技術を組み合わせることで、伝送速度1Mbpsの300m無線伝送実験実験に成功したという。

今回達成した伝送速度は従来の10倍以上の高速といい、SD画質の映像のストリーミング再生に必要な伝送速度に相当するとのこと。海中の設備や岸壁を撮影した映像を伝送することで、リアルタイム劣化診断などへの適用が考えられるとしている。

  • 実験成果の位置付け

またNTTは、同技術を搭載した海中音響通信による完全遠隔無線制御型水中ドローンを実現したという。

この水中ドローンは、海上から水中の映像を確認しながら操作が可能とのこと。海上にある音響通信装置が、水中ドローンに対して制御信号を送信する。水中ドローンは制御信号に従い移動・撮影し、映像ストリーミング・データを海上にある音響通信装置に送信する。

  • 水中ドローンのシステム構成

無線制御の実現により、有線制御型の水中ドローンでは航走が困難だった、岩礁や構造物が入り組んだ狭いエリアでも、海上から映像を確認しながら水中ドローンの遠隔操作が可能といい、海中設備点検などの作業性向上や効率化が期待できるとしている。

また3社は、水中ドローンを使用して海中設備点検を想定した岸壁の劣化状況をリアルタイムに確認するための実証実験を、静岡市の海洋実証フィールドで実施する。

今回の実験で、NTTは海中音響通信技術を搭載した完全遠隔無線制御型水中ドローンの実現と実証実験における水中ドローンの運用を担当した。ドコモは、NTN(非地上ネットワーク)技術における海中音響通信技術の適用性を検討した。NTT Comは、実証フィールドにおける実験実施に向けた環境整備および海中通信の事業化を見据えたサービス性の評価を担当した。

今後NTTとドコモは、各種条件に応じたデータの取得を進め、多様な条件に対応可能な通信方式などの技術を高度化させることで、さらなる高速化、長距離化の達成を目指す。

NTT Comは、同技術の水産分野における実用化を目指すと共に、港湾施設点検やダイビングを始めとするエンターテイメント業界など、水中ドローンの導入が進んでいる他分野への拡大に向けて幅広い活用を目指すとのことだ。