コロナ対策が長期化する中で、リモートから出社に戻す動きが世界的に見られる。従業員の多くはリモートを望んでいるが、経営層は対面の方が生産性などでメリットがあると考えているという差異を指摘するのは、世界経済フォーラムの記事。ライターのSimon Read氏がMicrosoftの11カ国2万人を対象に働き方について調べた「Work Trend Index Pulse Report」から、5つのポイントを指摘している。
1.仕事への価値観が変化
最初にあげるポイントは、価値観だ。コロナ前と比較すると、健康とウェルビーイングを仕事よりも優先させるようになったという人は53%。世代別に見ると、ベビーブーマー世代(現在50代後半~70代)、Gen X(40代~50代)は53%、ミレニアル世代(20代後半~40代)は55%、Gen Z(10代~20代)は51%となっている。
カナダの公共機関勤務者は、「仕事はいつでも見つけられるが、家族は見つけられない」と、家族を優先するようになった理由を記入している。
このような価値観の変化に対して、管理職はウェルビーイングを優先させる柔軟な職場のカルチャー育成に努めるべきだとアドバイスしている。
2.経営層と部下の異なる期待の間にいる管理職
在宅での仕事のメリットや有用性について、従業員と経営層では意見が異なる。経営層の半分が、今後12カ月以内にフル出社に戻す計画があると回答したが、従業員のうちハイブリッドやリモートへのシフトを検討するという人は52%だった。
このように両者の間で今後の働き方について違いがあることから、「リーダーは不確実な経済と労働市場における新たなそして喫緊の課題に直面している」とレポートでは指摘している。
その間にいる管理職は、フル出社を求めるトップと部分的でも在宅を続けたい部下の調整をしなければならない。
3.トップは出社する価値があるオフィスを
社員に出社を望むのであれば、オフィスも再考すべきだ。調査では、出社をする日の位置づけについて明確に合意しているという経営陣は28%にとどまった。トップの曖昧さに呼応するように、ハイブリッドの働き方をしている人の38%が、最大の課題は出社するタイミングとなぜ出社が必要なのかを理解することと述べている。
また、リモートで働いている人の43%が、ミーティングの中に入れていないと感じている一方で、ミーティングをハイブリッドで行うときに全員が参加していると思えるようなルールづくりをしている企業は27%にとどまった。
レポートでは、対面でのコラボレーションの目的を明確に定義する必要があると助言、それができない場合は「ハイブリッドワークの真のメリットを得られない可能性がある」としている。
4.フレキシブルワーク=常時オン、ではない
レポートは、場所も時間も柔軟に働くことができるフレキシブルワークが「デジタル疲れ」を招いていると指摘する。
Microsoftがデータを匿名化した形で「Microsoft 365」の使用データを調べたところ、コロナ直後と(2020年3月)比較すると1人あたりのミーティングの数は急増、2022年3月は2年前の150%増加している。労働時間は46分増えているという。就業時間を超えた作業(残業)は28%増加、週末の仕事も14%増えていることがわかった。
長時間労働が続くと心身の健康に影響する。そこで、企業は「持続性のあるハイブリッドワーク」の実践が必要だ、とレポートは記している。
5.ハイブリッドの世界のソーシャルキャピタル(社会関係資本)
リモートになったことで、仕事上のつながりも変化しているようだ。自分が所属するチームと強い関係を構築できていると感じている人は半分にとどまった。チームとの関係に問題を感じている人は良い関係を構築できているという人と比べて、ウェルビーイング、生産性に課題を感じていることもわかった。そして、あと一年は現在の企業で働くという人も、関係が良好な人が61%であるのに対し、関係に問題を感じている人は39%となった。
管理職は、チームの関係に配慮しておく必要があると助言している。
WEFによると、先のダボス会議でも、フレキシブルな働き方により、より多くの女性が労働できるようになる可能性があるものの、教育、医療、介護への投資が不足しているため不平等が拡大していることも浮き彫りになったという。WEFの調査では、教育、医療、介護の3分野に投資を増やすことで、社会の流動性が改善し、成長につながることがわかった。具体的には、米国経済をベースにすると1ドル投資することで、2.3倍の効果があるという試算が出ていると報告している。