富士通は10月4日に、オンライン・イベント「Fujitsu ActivateNow 2022」を開催した。本記事ではその基調講演から、時田隆仁社長と執行役員でSEVP/CTOのヴィヴェック・マハジャン氏の講演内容を紹介する。

  • 富士通 代表取締役社長 時田隆仁氏

不安定な情勢の中でサステナビリティの優先度が高まる

時田氏はまず、新型コロナウイルス(COVID-19)感染症の拡大(コロナ禍)は落ち着きを見せ始めたが、世界では依然として見通しがつかない不安定な状況が続いていると、現状を語る。

現在SDGsなどサステナビリティの重要度が増しているといい、同社が世界9カ国のビジネス・リーダー1800人を対象にした調査では、60%が2年前と比べて経営におけるサステナビリティの優先度が高まったと回答したとのことだ。

同社は「イノベーションによって社会に信頼をもたらし、世界をより持続可能にしていく」というパーパス(目的)を掲げ、サステナブル(持続可能)な世界の実現への主体的な貢献に向けて動き出しているという。

  • 富士通のパーパス

時田氏は、そのためには「ビジネスを通じてのサステナビリティ・トランスフォーメーション(SX)の実現」が必要であり、「その実現には、デジタル・イノベーションが大きな役割を果たします」と述べた。

時田氏は、2021年の同イベントで打ち出した「Fujitsu Uvance」は、2030年の社会のあるべき姿の実現に向け起こりうる社会課題を、クロス・インダストリーで解決する取り組みだと説明する。

  • 「Fujitsu Uvance」を構成する7分野

これは、クロス・インダンストリーの4分野とそれを支えるテクノロジー基盤の3分野、計7分野で構成するという。

「業種の垣根を超えて企業を繋ぎ、それぞれの強みを大きな力に変え、地球や社会をより良いものにしていく。これが、私たちが目指すSXです」(時田氏)

具体的な取り組みとして時田氏は、帝人とのサーキュラー・エコノミーの実現に向けた取り組みと、スウェーデンHexagonと共洞でのスマート・シティに関するモデルの構築を紹介した。

次世代が力を発揮する場は社会課題解決に取り組む企業にある

同社は、コンピューティング、ネットワーク、AI(人工知能)、データ&セキュリティ(D&S)、そしてコンバーティング・テクノロジーの5つに重点的に取り組むべきと定めていると、時田氏は語る。

  • 重点的に取り組む5つのデジタル・テクノロジー

スーパーコンピュータや量子コンピュータなどの高度なコンピューティング技術をクラウド・サービスで提供する「CaaS」(Computing as a Service)は、その一環だ。

  • テクノロジーでサステナビリティを支えていく

時田氏は「次の世代が力を発揮して行く場は、社会課題解決に取り組む企業にこそあります」と企業があるべき姿を示し、「強いテクノロジーを追求しながら、世界のSXに、皆様と共に取り組んで参ります」と、自身の講演を結んだ。

注力する技術開発分野をテクノロジー・リーダー自身が解説

続くマハジャン氏は時田氏の講演を受け、「テクノロジーはSXを成功に導く、重要なカギです」と切り出した。

  • 富士通 執行役員 SEVP CTO ヴィヴェック マハジャン氏

時田氏も挙げた、2021年に同社が注力すると発表した5つの技術開発については、「グローバルにR&Dを展開している私たちのテクノロジー・リーダー」(マハジャン氏)が紹介していく。

量子コンピュータを2023年に市場へ投入

コンピューティングは、英ロンドンから同社Quantum Computingコンサルタントのエレン・デヴァルー氏が解説する。

「コンピューティングは、次世代技術とハイブリッド化することで、初めて真価が発揮されるのです」とデヴァルー氏は語り、「本当の意味での量子コンピュータが、2023年または数年以内に市場に提供されます」と見通しを述べる。

  • コンピューティングについて語るデヴァルー氏

同領域における同社の特徴を、デヴァルー氏は「HPCの性能は最近まで世界一でしたし、39量子ビットのシミュレータは世界トップクラスの速度です」と胸を張る。

「2023年、ついに量子コンピュータを市場に提供します。とても楽しみです」と、デヴァルー氏は目を輝かせた。

ネットワーク技術の効率化でサステナビリティを実現

ネットワーク技術は、米テキサス州ダラスから、富士通ネットワークスコミュニケーションズのフェミー・アデイエミ博士が紹介する。

同社の技術が他社と異なる点は、専門知識の活用方法だとアデイエミ氏は語る。

「通信ネットワークにデジタル変化の知識を合わせ、オープン・ネットワークやAI(人工知能)、そして機械学習の力を最大限に活用し、世界中の通信事業者を支えます」(アデイエミ氏)

  • ネットワーク技術について語るアデイエミ博士

またアデイエミ氏は「サステナビリティは、当社の最優先事項です」と語り、通信事業者のカーボン・ニュートラル推進への支援やスマート・グリッド、RAN(無線アクセス・ネットワーク)の仮想化などの取り組みに触れた上で、「どれも通信ネットワークを効率化し、サステナブルにする取り組みです」と結んだ。

AIのリスクも考慮しつつ社会や他社と協調して開発を進める

マハジャン氏はAIに関して、同社と東京医科歯科大学との共同研究に触れ、「ガンの医薬剤耐性に関する未知の因果メカニズムの発見に成功しました」と説明する。

その他の取り組みは、同社フェローで富士通研究所 研究本部長の岡本青史氏が東京から解説する。

岡本氏は、「AIは今や、私たちの生活や仕事に欠かせない役割を担っており、当社の5つのキー・テクノロジーにわたってイノベーションを推進しています」と語る。 また、「デジタル・トランスフォーメーション(DX)やSXの中核となる技術でもあります」(岡本氏)という。

  • AIについて語る岡本氏

「AIには、意図せずに社会や人々に深刻な影響を与えるリスクが潜んでいることも見逃せません」と、岡本氏は指摘する。

岡本氏は「リスクを最小限に抑えるために、AIセキュリティやAi倫理に積極的に取り組んでいます」と説明した後、「社会や人々との協調により、エキサイティングな未来を切り拓き、より持続可能な世界の実現に貢献していきます」と展望を示し、自身の解説を締めくくった。

デジタル・イノベーションを継続的に生み出していく

残る2分野のうちD&Sについては、ブロックチェーン、バイオメトリクス、AIサイバー・セキュリティなど多様な分野での研究を進めていると、マハジャン氏は語る。

コンバージング・テクノロジーについては、米カーネギーメロン大学や川崎市との取り組みに触れた。

そして最後にマハジャン氏は、「私たちは、デジタル・イノベーションを継続的に生み出し、SXを支え続けます」と力説した。