SAPは5月10日から3日間、米フロリダ州オーランドで年次カンファレンス「SAP Sapphire」を開催した。オフサイトでの開催は2019年以来となり、その間にCEOに就任したChristian Klein氏は、これからのSAPの方向性として、ビジネス変革、サプライチェーン、サステナビリティの3つを打ち出した。これらをプラットフォームとして支えるのが、同社の主力製品であるERP「SAP S/4 HANA」だ。

今回、カンファレンス会場で、シニア・バイス・プレジデント S/4 HANA担当COO&ヘッド・オブ・プロダクト・サクセスを務めるSven Denecken(スベン・デネケン)氏に、S/4 HANAについて聞いた。

  • SAP シニア・バイス・プレジデント S/4 HANA担当COO&ヘッド・オブ・プロダクト・サクセス Sven Denecken氏

--Sapphireで行われたS/4 HANAに関連した発表について教えてください--

Denecken氏: SAPはかつてのようにSapphireで大型の発表をするのではなく、継続的に開発したものをどんどんリリースするというクラウドベースの開発とリリースモデルをとっている。Sapphireでは、S/4 HANAに関してサプライチェーン、プロダクション、マニュファクチャリング、ファイナンスの4分野を大きく取り上げた。

サプライチェーンでは、スエズ運河封鎖事故や新型コロナウイルス感染拡大によって世界が実感したように、サプライチェーンの相互依存が強くなったことの脆さが露呈している。これまでサプライチェーンは需要が主導していたが、これからは制約理論に基づくサプライチェーンへのシフトが進むだろう。

企業は自社製品の配送を滞らせるのは何かといった(制約)を把握し、サプライチェーンを柔軟に変える「回復力」のあるサプライチェーンの仕組みを構築しなければならない。

そこで、SAPはS/4 HANAとSAP Business Networkの統合を進め、サプライヤーがさらに高速にデータをやり取りできるようにしたり、生産とサプライチェーン全体にデジタルツインの機能を加えたりしている。例えば、スイスのある自動車部品メーカーでは、パブリッククラウド上に工場全体のデジタルツインを作り、シミュレーションをしている。これにより、サプライチェーンの変化に迅速に対応し、回復力を強めている。

また、SapphireではAppleと提携して、倉庫や配送スタッフ向けのアプリ(「SAP Warehouse Operator」「SAP Direct Distribution」)も発表した。

--2019年にCEOが交代し、共同CEO体制を経て2020年春にChristian Klein氏が単独CEOに就任しました。新体制の下、ERPの方向性やSAPのポジショニングに変更はありますか--

Denecken氏: CEOに就任する前、ChristianはCOOとしてテクノロジーによってSAPの変革を進めてきた。それ以前は、S/4 HANAを統括していたこともある。よって、SAPという企業を理解しており、製品への理解も深い。

われわれは、ERPが次に向かう先はネットワークされたERPと考えている。2021年にSAP Business Networkを発表したが、重要なデータは企業の外にもあり、これが今後ますます重要になっていく。

そして、SAPがこれまで得意としてきた生産性および効率性の改善に加えて、回復力のあるサプライチェーン、サステナビリティを目指していく。サステナビリティについては、いかにして製品に組み込むかの検討に時間を費やしている。

--まだ、「SAP ERP Central Component」を使っているユーザーも少なくありません。「RISE with SAP」はどのように顧客のS/4 HANAへのマイグレーションを支援しているのでしょうか--

Denecken氏: 「RISE with SAP」はコンシェルジェサービスだ。ビジネスプロセス・アズ・ア・サービスとも言える。

まずは、プロセスマイニングの「SAP Signavio」によって現状を見てから、S/4 HANAに向けた道のりを一緒に考え、Business Networkと結びつける。これまでのように、SAPが製品を発表して、顧客がそれをどう使うのかを見出すというモデルではない。顧客が進むべき方向に進むためにSAPの技術がどう支援できるのか、これをサブスクリプションで提供する。

提供開始以来、「RISE with SAP」の契約社数は2000社を超えている。われわれのアプローチが受け入れられている証拠と言える。

日本の顧客を含め、一部の顧客は長年積み重ねてきたコンフィギュレーション、カスタマイズを持っている。現在地の把握は重要なステップだ。データの移行はこれまでSAPが多くを投資してきた分野であり、これもRISEに含まれる。統合に役立つソリューションとしては、「SAP Business Technology Platform」がある。

製品の提供に加え、顧客と話したり、ショーケースを見せたりすることも大切にしている。東京には、製造業のデジタル化を支援するグローバル組織「SAP Industry 4.Now Hub TOKYO」がある。同組織は、具体的なショーケースを含むワークショップ、製品を学習する機会、パートナーによる製品・サービスなどを提供する。日本とドイツの製造業では、大規模なシステムが動いており、何ができるのかを見てもらうようにしている。

--会期中、Googleとの提携を通じて「Google Workspace」と「SAP S/4HANA Cloud」のネイティブ統合を発表しました。他の生産性向上に寄与するクラウドサービスとの提携の状況はいかがでしょうか--

Denecken氏: Google Workspaceとの統合により、作業の文脈の中でS/4 HANAのデータを使えるようにした。以前から連携はできたが、認証を含めスムーズにお互いのソフトウェアを行き来できる。

第1弾として、2021年に「Microsoft Teams」との統合を発表した。これにより、例えばサプライヤーに問題が生じた時、社内・外の関係者を集めてルームを作ってコラボレーションができる。Microsoft Teamsは、われわれがコロナ禍においてリモートで開発を行うようになった時に使っていたことから、提携の検討がスタートした。

Google Workspaceはこれに続くものとなり、今後も他のツールとの統合を進めていく。深いレベルでの統合には共同作業が必要となるため、お互いのロードマップを見ながら進めていく。目指すのは、S/4 HANAの拡張のように利用できるようにすることだ。