日本IBMは4月6日、オンラインで記者説明会を開催し、オンチップAIアクセラレーターを搭載してパフォーマンスを最適化した推論を可能とする新たなメインフレーム「IBM z16」を発表した。出荷開始は5月31日を予定。なお、発表に合わせて日本ではIBM zSystemsを利用しているユーザーがアプリケーションやデータ、プロセスのモダナイゼーション(近代化)を加速できるよう、必要なツール、技術資料、研修などを一括して提供する「IBM Z and Cloudモダナイゼーション共創センター」を4月6日に開設している。

同メインフレームは、クレジットカードやヘルスケア、金融取引をはじめとしたミッションクリティカルなワークロードにおいて、大規模なトランザクションをリアルタイムに分析できるようになるほか、強固なセキュリティにより、現在使用されている暗号化技術を破る可能性のある近い将来の脅威から保護できるように設計されているという。

新メインフレーム「IBM z16」の3つの特徴

日本IBM テクノロジー事業本部 執行役員の渡辺卓也氏は、IBM z16の特徴について「意思決定の速度を高めるAI推論と自動化、サイバー攻撃に対応できるセキュアなシステム、ハイブリッドアプローチによるモダナイゼーションの推進を可能としている」と力を込める。

  • 日本IBM テクノロジー事業本部 執行役員の渡辺卓也氏

    日本IBM テクノロジー事業本部 執行役員の渡辺卓也氏

意思決定の速度を高めるAI推論と自動化では、メインフレーム上で発生するすべてのトランザクションに対してからリアルタイムにIBM TelumプロセッサによるAI推論を利用でき、1ミリ秒でAI推論処理を実行(第三者機関のアナリストによる評価)し、1日あたり最大3000億回/日のAI推論を処理できるという。これにより、不正の検知ではなく不正の予防を可能としており、自動化とAIOps(AIによるIT運用)で生産性の向上、運用コストの削減が図れるとしている。

サイバー攻撃に対応できるセキュアなシステムについては、業界初となる本格的な耐量子暗号(量子コンピュータの計算性能でも解読に時間を要する暗号)を提供し、現在から将来にわたり強固なセキュリティを実現しているという。

ハイブリッドアプローチによるモダナイゼーションの推進では、クラウドとオンプレミス、既存業務と新しいサービスなどを最適に活用できるIT環境を実現できるほか、IBM Cloudサービスの拡充やソフトウェアバンドル製品の提供で迅速な開発環境の提供、開発生産性の向上を可能としている。さらに、IBM Z and Cloudモダナイゼーション共創センターでは情報技術をオープンかつ迅速に提供する。

渡辺氏は「現在のITにおける重要なキーワードであるAI、セキュリティ、ハイブリッドクラウドそれぞれについて新しい価値を提供する」と意気込みを語っていた。

  • 「IBM z16」の特徴

    「IBM z16」の特徴

主な仕様と新機能

IBM z16は前世代である「IBM z15」と同じく、クラウドデータセンター標準の19インチラック(最大4ラック)とし、TelumプロセッサのCPUコアは前世代から半分に微細化された7nmチップを採用しており、動作速度は5.2GHzでCPUコアあたり11%のパフォーマンス改善を実現。

  • チップの外観

    チップの外観

  • 「IBM z16」の仕様と新機能(1)

    「IBM z16」の仕様と新機能(1)

また、CPUコアと同じチップ上にはAI推論を実行する専用ハードウェアである「AIU(オンチップAIアクセラレータ)」を搭載し、1~4つのCPCドロワーで構成され、最大400コア、同40TBのメモリの搭載が可能。RAIMメモリは暗号化されており、FICON Express 32Sは32Gbpsの高速データ転送を可能とし、耐量子暗号はCrypto Express 8Sでサポートしている。

  • 「IBM z16」の仕様と新機能(2)

    「IBM z16」の仕様と新機能(2)

日本IBM テクノロジー事業本部 技術理事の川口一政氏は、IBM z16の心臓部であるTelumプロセッサとAIUについて「基幹系処理を行うCPUコアは8つあり、AI推論を行うAIUは各コアとL3キャッシュを経由して緊密かつ高速に連携できるようになっている。AIUは1ミリ秒のレイテンシで基幹系から推論処理をできるように設計されており、AIUの数を増やすことで処理遅延なく、処理件数をスケールできる。AIUは32個まで搭載可能とし、1日あたり3000億の推論要求をパフォーマンス遅延なく実現でき、リアルタイムAI推論を基幹系に取り組めば不正取引を予防可能なため年間100億円単位の不正コストを節約することができる」と説く。

  • 日本IBM テクノロジー事業本部 技術理事の川口一政氏

    日本IBM テクノロジー事業本部 技術理事の川口一政氏

米国の銀行における不正検知のユースケースでは、不正検知を未然に防ぐために全取引にAI推論を適用することを望んでいた。まず、IAサーバでAI推論を実装したものの、基幹系を実装していたIBM zSystemsからAI推論を行うIAサーバを呼び出すと処理遅延が大きく、全トランザクションの20%未満しか適用できなかった。

そこで、AI推論にIBM zSystemsを採用したところ連携遅延が25倍改善するとともに、全トランザクションでスコアリングを可能とし、1秒当たり10処理を実現するなど、多くの取引にAI推論を適用できるようになったという。

今後はIBM z16により、さらなるAI推論処理の高速化を図り、全トランザクションに遅延なくAI推論並列処理を適用し、全件不正検知のチェックで取引リスクの回避を検討している。そのほか、銀行業務であればローン承認や利率の決定など、貿易業務では支払決済、保険業務では保険請求の適正検査をはじめ、AI推論を適用できるという。

  • 米国におけるユースケースの概要

    米国におけるユースケースの概要

インフラストラクチャのモダナイゼーションを支えるIBM

日本IBM 専務執行役員 テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏は、顧客における課題として「事業の成長と企業価値の向上」「DX推進のため共創とデジタル人財の育成」「サステナブル経営による社会への貢献」の3点を挙げている。

  • 日本IBM 専務執行役員 テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏

    日本IBM 専務執行役員 テクノロジー事業本部長の三浦美穂氏

こうした課題に対して、同社では最新テクノロジーの活用により、顧客変革を支援するため「AIと自動化」「ビジネスとインフラのモダナイズ」「セキュリティの高度化」「サステナビリティの実現」の4つを提供するという。

三浦氏は「メインフレームは多くのお客さまの基幹業務を支える重要な役割を担っている。当社ではメインフレームを、将来にわたるハイブリッドインフラとAIを支える1つの重要な要素技術だと考えている。なぜなら、基幹業務を支えるシステムに蓄積したデータはDXアプリケーションと言われる新しいUI(ユーザーインタフェース)を実現していくためのシステムと連携していく必要があるからだ。そのようなことから、基幹システムの中にデータをとどめて凍結化するのではなく、集めたデータを起点に基幹(信頼)アプリケーションとDX(スピード)アプリケーションを両立させていくことが肝要だ。これらを、どのように設計し、どのように棲み分けて全体を支えるインフラにしていくのかという観点で、当社は全体をインフラストラクチャのモダナイゼーションと捉えて、お客さまを支援していく」と述べていた。