日本が抱えるAI人材の現状を教えてください。

社会や企業のAI導入率はアメリカでは40%~50%なのに対して、日本では20%前後と2倍以上の大きな差があります。また、経済産業省によると、日本では2030年にはAIやデータサイエンスを含むIT人材の不足が最大で約79万人に達すると予測されており、特に、「AI等を使いこなして第4次産業革命に対応した新しいビジネスの担い手となる高度IT人材の育成が急務」ということ。

実際の現場でも、データサイエンティストやAIビジネスデザイナーなどが社内にいないために、意思決定が速く進まず導入に至らないケースが多いです。より早い段階からAI教育を実施していく事が大事です。

  • パロアルトインサイトCEOの石角氏

パロアルトインサイト
CEO/ AIビジネスデザイナー 石角友愛(いしずみ・ともえ)氏
2010年にハーバードビジネススクールでMBAを取得したのち、シリコンバレーのグーグル本社で多数のAI関連プロジェクトをシニアストラテジストとしてリード。その後 HRテック・流通系 AI ベンチャーを経て、2017 年にパロアルトインサイトをシリコンバレーで起業。データサイエンティストのネットワークを構築し、日本企業に対して最新のAI戦略提案からAI開発まで一貫したAI支援を提供。AI人材育成のためのコンテンツ開発なども手掛け、順天堂大学大学院医学研究科データサイエンス学科客員教授AI企業戦略及び東京大学工学部アドバイザリー・ボードを務める。

女子高でAI講座を開始した理由は?

日本に根付いているジェンダーギャップの一つ、女性が大学でSTEAMを学んだり、IT業界の技術職で働く比率が低いこと、もっと言えば、ビジネスの現場に女性の割合が低いといった課題を感じていました。

これから未来へ羽ばたいていく女子高生が、自主性を持って大学進学やその後のキャリア、ライフプラニングができるような個人になってほしいという思いから、このプロジェクトを始動しました。

高校生はこれから大学に進学したり、進学せずに就職したりと、いろんな選択肢があると思うのですが、社会に刷り込まれたジェンダーバイアスで選択肢を狭めるのではなく、本当に自分がやりたいことや興味があることに自信をもって挑戦できるように、背中を押したいと思っています。

授業では、高校生の段階で「なんでAIを学ぶ必要があるんだろう」と自分事として考えてもられるような内容を意識しています。例えば、単純にプログラミングを教えるのではなく、AIの仕組みを一から学習することで、それが自分の人生やキャリアにおいて、どのように役に立つのかを一番に理解してもらう。そうすることで、「いつか自分の仕事がAIに奪われてしまうのではないか」といった漠然としたAIに対する不安から解放され、より具体的な人生のプランを設計できるようになってもらえたら良いなといった願いを込めて開始しました。

毎回授業をするたびに、学生の発想の柔軟さに感心します。今後は女子高に限らず、いろんな高校で展開していきたいですし、ニーズがあれば小中学生にも対応していきたいと積極的に考えています。

そもそもAI人材とはどのような人材を指すのでしょうか。

AIを開発する人、AIを現場に実装して課題解決に導く人、ニーズを抱えているステークホルダーとAI開発者をマッチングさせる人、データを集め綺麗に揃えてそれをエンジニアに渡す人、インターフェースを作る・デザインする人など、AI人材と一言でいっても幅広い人材がカバーされています。

私は、AI人材になるためには「π型の人間」になることが大事だとよく言っています。「π」という文字は足が2本に横軸が1本ありますよね。片方の軸足は「ドメインの知識」、対となる片方の軸足は、データサイエンスやデータアナリティクスといった「データ活用に必要な知識」を表します。そしてこの2本の足を横で一本でまとめ上げる「社会貢献やヒューマニティに対する知識」を持っている人材のことを指しています。

「技術的に可能だから作ろう」ではなく、「それが社会で必要とされているから作ろう」と思えることが大事。社会貢献をしたいという倫理性や道義の心を理解した上でAIを開発する人材が今後必要になってくる人材だと思います。

文系でもAI人材になれますか?

もちろんなれます。そもそも理系・文系という分け方が今の時代に合っていません。アメリカでは哲学を専攻しながらコンピュータサイエンスを学んでいる学生や、データアナリティクスを学習しながら歴史も学んでいる人もいます。

私は文系、僕は理系といったバイナリーな分け方をする時代ではありません。学問の垣根を超えて、そこにある共通項目を見つけながら相乗効果を生み出し、シンセサイズを起こしていくといった統合能力をもつ人がAI人材に向いているのです。

日本がAI先進国になるためには?

AI人材の開発に注力するのはもちろん、研究開発費に国が企業がより多くの予算を割いて現場の土壌を作るということが大事です。それと同時に、「日本独自」や「日本人による」といった小さい枠組みにこだわらないことが重要だと思います。

世界に目を向けると、今、非常に伸びている会社は、アメリカや中国発だったり巨大なIT企業が多いです。彼らはグローバルな視点を持ってAIの開発に挑んでいます。AIに国境はありません。世界のどんなところでも使ってもらえるような、幅広い汎用性の高いAIやプロダクトを作れるような、グローバルでダイバーシティのある視点を持っている人を育てることが大切です。

「AIとは無縁な部署・仕事だから」と思っている会社員の方には、自分の今いる場所をレバレッジしてAI人材になる方法を見つけて欲しいです。エンジニアやデータサイエンティストだけがAI人材ではありません。理系文系関係なく、今自分がいるビジネスの場所、知見、業務フローなどを生かしながらどうやってAI人材になるのか考えて欲しいと思います。

オンラインでいろんなことが学習できる世の中になりました。働きながら今いる場所を変えずにAI人材になることは可能です、是非、0から1の第一歩を踏み出してみてください。