新潟大学(新潟大)は3月9日、あるものを意味する「単語」が、いくつかの意味を持たない「文字」の組み合わせでできているという、ヒトの言語の普遍的な特徴の1つが、マカクザルの1種であるニホンザルにもあることを実証したと発表した。

同成果は、新潟大工学部 人間支援感性科学プログラム/医学部保健学科の飯島淳彦教授、同大学大学院 医歯学総合研究科 神経生理学教室の劉南希大学院生、同・長谷川功教授らの研究チームによるもの。詳細は、英オンライン総合学術誌「Scientific Reports」に掲載された。

ヒトの使う言語の普遍的な特徴の1つとして、「二重分節構造」がある。例えば、「ネコ」という単語は動物の一種を表すことが知られているが、この単語は「ネ」と「コ」という単体では意味を持たない(表音)文字からできている。(表音)文字の文字数は、どの言語でも有限であり、その有限の文字の中からいくつかを組み合わせることによって、多くの単語が表されることとなる。

これらの関係性の理解が言語的な理解を深め、言語を使うことにつながると考えられているが、ヒト以外の霊長類では、これまでにチンパンジー(進化的にはヒトに近いグループ)にのみ、その能力があることが確認されているだけであったという。

そこで研究チームは今回、ヒトやチンパンジーのグループとは、およそ2500万年前に分岐したと考えられている、マカクザルの一種であるニホンザルが二重分節構造を持つ記号を頭の中で組み立てられるか否かを、ヒトの言語を模擬した図形文字モデルを作成して検証することにしたという。

実験には、文字として単純な図形が用いられ、文字自体は単独では意味を持たず、そうした文字を2つ使った単語が作られた。この単語は、対象を表すように特定の意味を持たせるものとされたという。

  • サルによる言語理解

    今回の研究の図形文字モデル (出所:新潟大プレスリリースPDF)

実際の実験は、これらの図形文字モデルを用いて、「対象と単語の関係(単語の意味)をサルに教える」、「その単語は2つの文字から構成することを教える」、「(テスト)これらの2つの学習の後に、サルには対象だけを見せてそれを表す単語を、文字から構成させる」という3段階で実施されたという。サルの見る画面はタッチパネルになっており、選択すべき文字や単語をタッチして答えるという仕組みが採用された。

  • サルによる言語理解

    実験の手順 (出所:新潟大プレスリリースPDF)

テストの結果、サルは初めて行うこの操作において、偶然では起こり得ない確率で正解したという。これは、対象の名前を覚えるという第1段階と、その単語の成り立ちを覚えるという第2段階の2つの事前学習を活かし、対象を見て文字から単語を書き取ることができたと解釈できると研究チームでは説明する。

  • サルによる言語理解

    頭の中で単語を綴る過程 (出所:新潟大プレスリリースPDF)

またこの実験過程においては、図形文字モデルの単語を構成する2つの図形の入力順には制限を設けなかったが、実験が進んでいく中で、その文字選択の順番が毎回バラバラではなく、だんだんと固定化されていくことが確認されたという。これは、綴りの順番をサルが自身で作り出したことを意味すると考えらえるとする。

さらに、今回の図形文字モデルでは、1つの文字が2つの単語でシェアされるような工夫がなされたという。実際のヒトが用いる言語でも1つの文字が多くの単語に使われるのと同じ構造であり、それが単語を構成する際に紛らわしさを生み出す理由となっているが、今回の実験結果から、その紛らわしさを反映した選択のミスが確認されたとする。

このミスは、単語を1つの塊として意識している場合よりも、バラバラの文字の組み合わせで構成されていると意識した場合に発生すると考えられるため、サルは単語を丸暗記しているのではなく、1文字ずつ意識して単語を構成していることが示唆されたとしている。

なお、今回の結果は、ニホンザルには言語の特徴である「二重分節構造」を理解して頭の中で組み立てる能力があることを示すものであると研究チームでは説明するが、言語の特徴はこれ以外にもいくつもあることから、サルに言語があるか否かという点では、今回の結果のみで、あると解釈することはできないという。しかし、2500万年前に存在したと考えられている、ヒトやチンパンジーなどのグループと、マカクザル(ニホンザル)の共通祖先には、言語を理解し操るための素となる機能がすでに備わっていたことが示唆されるとする。

  • サルによる言語理解

    霊長類の進化 (出所:新潟大プレスリリースPDF)

また、今回の発見については、サルが記号を丸暗記することによってできた結果ではなく、学習によって知り得た言語的な知識を使って対象を表すという、「言葉を道具として使用した」ことによる結果と考えられるとしており、これはヒトの言語の進化の起源に迫る重要な発見であり、言語学分野への学術的な貢献が期待されるとしているほか、ヒトの言語発達や言語獲得のプロセスを理解する上でのヒントになるともしており、子供の言語発育に関する教育分野、言語障害などの臨床医学の分野などにも貢献することが期待されるとしている。