東京理科大学(理科大)、国立感染症研究所(感染研)、麻布大学、お茶の水女子大学の4者は2月9日、真菌から単離された、抗ウイルス活性を有する天然由来の化合物「ネオエキヌリンB」と、16種の誘導体(うち15種は新規化合物)の合成および合成法の確立に成功し、これらの化合物の多くが、C型肝炎ウイルス(HCV)または新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に対して抗ウイルス活性を示すことを実証したと発表した。

同成果は、理科大大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻の西内宏太大学院生(研究当時)、感染研 治療薬・ワクチン開発研究センターの大橋啓史研究員、理科大大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻の西岡華実大学院生(研究当時)、同・山崎雅子大学院生、同・古田将照大学院生、同・増子巧大学院生(研究当時)、同・友重秀介助教(現・東北大学 大学院 生命科学研究科)、理科大 理工学部 応用生物科学科の大金賢司助教(現・お茶の水女子大 基幹研究院 自然科学系/理学部化学科)、麻布大 獣医学部/ヒトと動物共生科学センターの紙透伸治准教授、感染研 治療薬・ワクチン開発研究センターの渡士幸一治療薬開発総括研究官(理科大大学院 理工学研究科 応用生物科学専攻 客員教授兼任)、理科大 理工学部 応用生物科学科の倉持幸司教授らの共同研究チームによるもの。詳細は、天然由来の化合物の化学・生化学および関連する生物学を扱う学術誌「Journal of Natural Products」に掲載された。

ネオエキヌリンBは、真菌「Eurotium rubrum」から単離された天然物であり、「肝臓X受容体」(LXR)の働きを抑制することで、HCVやポリオウイルスなど、一部のRNAウイルスが複製する際に共通して必要な「二重膜小胞」(DMVs)の形成を阻止できるため、複数のウイルスに対する抗ウイルス活性が期待されており、その誘導体も抗ウイルス活性が期待できるリード化合物として注目されてきた。

しかし、その合成例は少なく、広く使用可能な合成法が確立されていないことが課題となっていたほか、これまで構造と性質に関する系統的な研究も行われてこなかったという。そこで研究チームは、ネオエキヌリンBおよびその誘導体の合成法の確立と抗ウイルス活性の評価を目的とした研究をこれまで行ってきたとする。

そうしたこれまでの研究データからネオエキヌリンBと同様の分子骨格を有する化合物は、ネオエキヌリンBと同等、もしくはそれ以上の優れた抗ウイルス活性を示す可能性があると推測されたほか、ネオエキヌリンBにはLXRの働きを抑制する性質があることから、その誘導体を評価することで抗ウイルス活性のメカニズムの解明にもつながるのではないかと考えられたことから、今回の研究は、ネオエキヌリンBだけでなくその誘導体にも焦点を当て、それらの合成法の確立と、合成した化合物の抗ウイルス活性の評価による作用機序の解明を目指して進められた。

新規合成法の確立に向け、出発原料であるアルデヒドとジケトピペラジン化合物を2段階の反応を経る事で目的化合物の合成を達成したほか、出発原料のアルデヒドの置換基を系統的に変化させることにより、ネオエキヌリンBおよび16種類の誘導体を得ることに成功。しかもそのうち、15種は新規化合物であることを確認したとする。

また誘導体の収率については、導入した置換基の種類により異なるが、およそ51~94%であることを確認したが、ネオエキヌリンBの収率については、第1段階の反応を4回繰り返すと合計14%と低くなり、今後、改善が必要であると判断されるとするほか、ネオエキヌリンBについては、抽出や精製の過程でバリエコロリンHに構造変化していることも確認されたとする。

さらに、ネオエキヌリンB、16種の誘導体、バリエコロリンH、ネオエキヌリンA、プレエキヌリンの計20種の化合物に関して、HCVとSARS-CoV-2に対する抗ウイルス活性の評価を実施。抗HCV活性に関しては、ネオエキヌリンBと16種の誘導体すべてが有していることが判明したほか、16種すべての誘導体がネオエキヌリンBよりも優れた活性を示すこと、ならびに分子構造の比較により、エキソメチレン部位や芳香環の電子密度が抗HCV活性に重要な役割を果たしていることが示唆されたとする。

一方の抗SARS-CoV-2活性に関しては、ネオエキヌリンBと6種の誘導体が有していることが判明したほか、そのうちの5種はネオエキヌリンBよりも強力な抗SARS-CoV-2活性が示されたとした。分子の構造的特徴と抗SARS-CoV-2活性との明確な関係は未解明のままながら、現時点では複数の異なる作用機序によってSARS-CoV-2の複製が抑制されていると考えられるとしている。

なお、研究チームでは、基本的に、ネオエキヌリンBはLXRを標的とすることでHCVの増殖を抑制するが、抗HCV活性が示された化合物の中でもLXRに対して不活性なものもあることから、この化合物が異なる作用機序によって、抗HCV活性が示された可能性が考えられるとしており、今後、抗ウイルス活性を改善するための構造最適化と、作用機序を解明するための研究を進めていく必要があるとしている。

  • 新型コロナ

    今回の研究成果の概要 (出所:理科大Webサイト)