ブロックチェーンの出現によって注目されるWeb3について識者が語り合うイベント「Web3 Conference Tokyo」が1月28日に開催された。
本稿では、Web3時代のコミュニティのあり方として期待されるDAO(Decentralized Autonomous Organization:分散型自立組織)について、OSS(オープンソース・ソフトウェア)の歴史の観点から語った猫井夕菜氏の講演の様子をお届けしたい。
DAOとは同じ志を持つコミュニティで形成される組織であり、企業のように指揮者やリーダーのいない自立的な新しい組織の形と言われる。ブロックチェーン上にDAOのルールなどが刻まれており、特定の条件が満たされたときにあらかじめ定められた機能が実行されるスマートコントラクトが使用される。オープンソースで管理されるため、透明性が高い点が特徴とされる。
OSSとは、「The Open Source Definition」の定義に従ったライセンスを掲げているソフトを指す。自由な再頒布が可能であること、ソースコードを公開していること、特定の人物や集団に対する差別をしないことといった定義がある。
コンピュータの歴史をさかのぼると、1950年代はお互いにソースコードをパブリックドメインで共有していた時代だ。盛んに意見を交換しており、「ソースコードを隠すという概念がそもそもない時代だった」と猫井氏は語った。
コンピュータの発展に伴ってコンピュータを商業的に利用できるようになると、1970年代にはライセンスビジネスが勃興した。企業はソフトウェアの再頒布を禁じてソースコードを隠すようになり、使用料を払った人にだけ実行ファイルを渡す仕組みが出来上がっていったとのことだ。
1980年代に入ると再度オープンソースを求める声も出始めたようだ。1990年代には「Netscape」がソースコードを公開するなど、商業ソフトがOSS化した例もある。なお、1992年は日本国内で商用のISP(インターネット・サービスプロバイダー)が創業した年でもある。その後インターネットの発達に伴って、現代ではソースコードをGitHub上で容易に公開できる環境もありOSSの利用は当たり前の時代になっている。
「今、OSSが明確に定義されている背景には、歴史的にソースコードを隠していた時代があり、それに対するアンチテーゼも含まれているだろう」と猫井氏は振り返った。
よくある誤解だそうだが、OSSはあくまでソースコードを公開している必要があるのであって、開発がオープンである必要はないとのことだ。必ずしも大勢で開発することがOSSである条件ではないという。
さて現在、Web3の文脈で注目されるDAOは既存のバザール形式のOSSプロジェクトと大差がないように見える。猫井氏はスマートコントラクトがソースコードの公開が前提であることに触れて、OSSライセンスとDAOは相性が良いと話した。
「DAOの開発初期段階で大きな企業に真似されてしまわないように、ある程度の規模になるまではクローズドに開発する場面が多いと思われる」と、同氏は補足する。
DAOで見られるように、OSS開発に金銭を持ち込むことは難しい。開発者が1人であれば資産の分配は単純だが、DAOのような組織では貢献度に応じた金銭の分配が困難だからである。同氏は「非常に挑戦的だが」と前置きした上で、「DAOの金銭の分配の上手な方法があれば、資本主義的に強いインセンティブを生み出せるだろう」と述べた。そのためには、合意形成に基づくコミュニティガバナンスが重要だ。
「DAOの革新性は、国家にとらわれない資本主義のシステムをWeb上にネイティブに実装できたことにある」として公演を結んだ。