近年、ビジネスを取り巻く環境が大きく変化していることは多くの人が感じているだろう。それは盤石なビジネス基盤を持つ保険会社であっても例外ではない。デジタル技術の発展により、これまでは考えられなかったような競合が生まれたり、コロナ禍のような未曾有の事態によりビジネスを根本的に見直す必要が出てきたりしているのだ。
そうした変革の肝となるのが、データを活用したDXである。では具体的に、どのようにデータを活用し、DXを進めればいいのか。12月9日、10日に開催された「TECH+EXPO 2021 Winter for データ活用 データが裏づける変革の礎」に、アフラック生命保険 取締役上席常務執行役員 兼 CDIO(チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー)である二見通氏が登壇※。アフラックが取り組むDXについて説明した。
※2022年1月より、取締役専務執行役員 兼 CTO(チーフ・トランスフォーメーション・オフィサー)兼CDIO(チーフ・デジタル・インフォメーション・オフィサー)
なぜ保険会社がDXに取り組むのか
二見氏はこれまでさまざまな企業でシステム開発部門に従事してきた。2015年にアフラックに入社し、登壇当時は取締役上席常務執行役員兼CDIOとしてIT・デジタル部門を担当。30年にわたり保険会社のシステム改革や業務改革に取り組んできた経験を基に、デジタル技術を駆使した新たなサービスの創出や業務改革、エコシステムの構築などのDXに注力している。
そんな二見氏がデジタル改革の指揮を執るアフラックは、日本初のがん保険を発売した保険会社として知られている。保有契約件数は2413万件に上り、ヘルスケアに関連する膨大なデータを持つ企業という一面もある。
では、なぜアフラックのような保険会社がDXに取り組むのか。この点について二見氏は、「保険会社を取り巻く環境が変化したことが要因」だと説明する。環境の変化とは、例えば競合の拡大だ。これまで保険会社の競合は同業である保険会社だった。しかし近年ではさまざまなビジネスモデルを持つ企業が参入し、保険会社にとって新たな競合となっているのだという。
また、コロナ禍による影響も大きい。保険金の支払いはエッセンシャルワーク(人々が生活する上で不可欠な仕事)であるため、コロナ禍であっても止めることはできない。しかし、従来の保険金支払業務は紙ベースのものが多く、アナログな作業が大部分を占めていたため、政府からの在宅勤務の要請に応えられないという課題が浮き彫りになったのだ。
こうした環境の変化に加えて、AIやIoT、ロボティクスといったデジタル技術の進化も無視できない要因になっている。これまでシステム類は自社開発を基本としてきたアフラックだったが、スピード感を持って最先端のデジタル技術を取り入れていくためには、異業種との協業によるDXを検討していかなければならない。
「これまでもデジタルを活用した企業経営は行ってきましたが、今後はさらに一歩進み、“デジタルを前提とした企業経営”が求められているのです」(二見氏)
アフラックのDX戦略
アフラックはどのように具体的なDX戦略を進めていったのか。二見氏がまず徹底したのは、DXに取り組む目的を全役職員に理解してもらうことだった。DXはあくまでも手段であり、目的ではない。
「アフラックがDXに取り組む目的は、5大ステークホルダー(お客さま、ビジネスパートナー、社員、株主、社会)へ新たな価値を提供することです。このゴールに向けて、各部門がDXをどう使うのかを考えて取り組んでいます」(二見氏)
アフラックのDX戦略は、3つの要素で構成される。まず、アフラックのコアビジネスとなる生命保険事業の領域におけるDXである。具体的にはフィンテックやインシュアテック、データの利活用などによって、顧客のニーズをとらえた新たな商品やサービスを開発することが挙げられる。特にがんに関するデータの保有量は、アフラックは日本でもトップレベル。これらのデータを活かさない手はない。
2つ目が、新たな事業領域におけるDXである。データ活用により、データエコシステムを構築。ヘルスケアなどニーズの高まる分野におけるサービスを生み出していく狙いだ。具体的には、キャンサーエコシステムの構築が最大のテーマになっているという。
そして3つ目の要素であり、前述の2つの領域におけるDXを支える基盤である。アフラックでは、インフラ、組織、人財、管理といったさまざまな側面において基盤を構築し、骨太なDXに取り組んでいる。
「DXと言っても、それを行うのは人です。人財の育成はDXにおいて重要なテーマだと考えています」(二見氏)
DXは何も、デジタル一辺倒というわけではない。アフラックがDXで目指すのは、リアルとデジタルの融合だ。「デジタル技術はフル活用するが、一方でアフラックには多くの販売代理店がいる。販売代理店はお客さまと接してくださる大切な存在」と、二見氏はリアルの重要性を強調する。
「お客さまを中心に考えてみると、あるときは募集人(保険を販売する人)や販売代理店と対面で接したいこともありますし、あるときはデジタルで情報を得たいこともあるでしょう。大切なのはお客さまとの全ての接点において、一貫した体験価値を提供することです」(二見氏)