プロセスマイニングのCelonisが、日本における成長戦略に乗り出した。プロセスマイニングエンジンを搭載した「Celonis Execution Management System (EMS)」により、データを連携させて業務オペレーションの効率を最大化。分析から戦略、計画、管理、アクション、自動化に至るまで、実行管理のあらゆる側面を支援するのが特徴だ。

ServiceNow Japanの社長を6年間務めていた村瀬将思氏が、2021年12月1日付けで社長に就任。日本におけるパートナー戦略の加速とともに、IT、通信、製造業や金融分野を中心に、プロセスマイニングによるデータを活用したビジネス変革を推進すると意気込む。「日本の社会や、企業の DX における最後のピースとして足りなかったのがプロセスマイニング。日本の企業のDXを促進し、持続可能な日本の社会の実現を目指す」と語る村瀬新社長に話を聞いた。

Celonis 代表取締役社長 村瀬将思(むらせ まさし)
幼少期をカナダケベックで過ごす。
新卒でTKC入社。
インドのiGATE Global Solution社のSales Leader 。
日本HPのソフトウェア事業統括の執行役員。
2016 年 1 月からは ServiceNow Japan の社長として国内の企業、社会のデジタル変革を6年間リード。
2021年12月より Celonisの社長に就任。

まず、Celonisについて教えてください。

村瀬氏: Celonisは、プロセスマイニングにおけるグローバルリーダーであり、この分野では全世界で約8割のシェアを持っています。2011年に、ドイツ・ミュンヘンで創業し、現在、ミュンヘンと米ニューヨークに本社を置き、世界16拠点を通じて、3000社以上への導入実績を持ちます。主な導入企業に、ABB(アセア・ブラウン・ボベリ)やアストラゼネカ、ボッシュ、デル・テクノロジーズ、シーメンス、Uber、ボーダフォン、ワールプールのほか、日本でもブラザー工業、日立システムズ、横河電機、ミスミ、ソフトバンク、豊田通商、富士通などがあります。

もともとは、プロセスマイニングの生みの親であるウィル・ファン・デル・アールスト博士のアイデアをもとに、ミュンヘン工科大学の学生たちが立ち上げた企業で、アールスト博士は、Celonisのチーフサイエンティストに就任しています。企業価値は1兆2000億円と評価されており、4年連続で100%以上の成長を続けています。

日本法人は、2019年2月に設立し、いよいよ本格的な成長フェーズへと入ってきたところです。まだビジネス規模は小さいですが、本社直轄のリージョンとなっており、そこからも本社が日本を重要な市場に捉えていることがわかってもらえるのではないでしょうか。日本への投資を優先することを本社は約束してくれています。また、本社が基本戦略として、パートナーモデルを採用している点も、日本においてパートナーモデルを推進しやすいことにつながると考えています。

プロセスマイニングとはどんなものですか。

村瀬氏: 従来型のモデルに基づくプロセス分析と、機械学習やデータマイニングなどのデータ分析技術の中間にあるのがプロセスマイニングだといえます。さまざまなシステムが連携し、複雑さを増しているITシステムにおいて、業務の実行状況をEnd to Endで可視化するのは困難なことです。Celonisが提供するプロセスマイニングは、あらゆるところに点在するイベントログを業務システムから抽出し、業務プロセスを可視化することで、仮説ではなく、事実に基づいて、問題を診断できるようにするものです。

Celonisはいまから10年前に、プロセスそのものをレントゲン撮影のように描写し、非効率性を発見する能力を開発し、それによって、プロセスマイニングという分野を開拓しました。つまり、プロセスのどこに問題があるのかといったことを可視化し、それに基づいた最適な処方箋を提供することができるようにしたのです。

人間でも年1回の健康診断で病気が見つかったときには、治療するために多くの時間と費用がかかってしまいます。しかし、仮に毎日レントゲンを撮影し、病気がすぐに発見できれば、大事には至らず、すぐに薬を処方して治療することができます。それと同じで、プロセスマイニングで、毎日レントゲン撮影すれば、悪いところがすぐにわかり、ビジネスが健康になる。悪いところがどこかということをダッシュボード上に可視化できるのです。

一方、DXによって破壊的なビジネスを創出するには、ペロシティ(速さ)、エクスペリエンス、インテリジェンスの3つが成熟し、モノ売りからコト売りに変わることが大切な要素です。いまあるサービスを、形態を変えることで新たなビジネスに変えることも可能です。Uberのビジネスはまさにそれで、出前をするという既存の仕組みに、ペロシティ、エクスペリエンス、インテリジェンスを組み合わせて破壊的な新たなビジネスを創出しました。そして、Uberの優れたところは、時間を管理しているという点です。早いことが価値ではなく、いつ届くのかがわかることこそが価値なのです。しかし、この部分を管理できるものがありません。言い換えれば、プロセス群を束ねる司令塔が欠如しているのです。

タイムスタンプをもとに、時間を制御できることがプロセスマイニングの重要な要素であり、Celonisは、タイムスタンプのデータをリアルタイムにAIで分析し、最適なビジネスプロセスの実行を行う環境をプラットフォームとして提供します。これにより、業務プロセスを全方位的に理解し、プロセス群を束ねる司令塔としての役割を果たし、ビジネス価値を最大化することができます。私は、これがDXを実現するために必要な最後のピースだと思っていますし、プロセスマイニングのダッシュボードこそが、DXを実現するための唯一のダッシュボードになると思っています。

プロセスマイニングによって、どんな価値が提供されるのでしょうか。

村瀬氏: プロセスマイニングという最後のピースが埋まることで、こんなことが想定されます。

商品Aの状況をSAPのデータを使って機械学習で分析すると、仕入先Bから入荷する際には遅延が多いことがわかりました。そこで、商品が入荷した時点で、次の発注に向けて納期遅れが無いように警告を出し、そのプロセスを管理することで、在庫を極小化しながら、需要に対応するといったことができます。さらに、サステナビリティにおいても価値を提供できます。ルフトハンザでは、航空機の搭載燃料の最適化と、無駄な消費の抑制ための燃料発注プロセスの評価を行い、その結果、CO2排出量の削減につなげることができました。ただ、サステナビリティで大切なのは、最適化しただけでなく、その後の効果を測定することです。測定することはプロセスマイニングの得意分野であり、そこで重要な役割を果たせます。

Celonisが提供するプロセスマイニングの特徴を教えてください。

村瀬氏: Celonisが提供している主力製品が、Execution Management System(EMS)です。Celonis Execution Instruments、Celonis Execution Apps、Celonis Studio、プラットフォーム機能をセットで提供し、分析から戦略、計画、管理、アクション、自動化に至るまで、実行管理のあらゆる側面を支援します。リアルタイムデータの取り込みにおいては、100種類以上のオンプレミスとクラウドのコネクターを提供し、160TBの日次データの抽出が可能であり、プロセス&タスクマイニングでは、マルチイベントログに対応し、2000以上のプロセスの展開が可能です。また、プランニング&シミュレーションでは独自の機械学習モデルによって、50万の機械学習スクリプトを実行し、ビジュアル化&日常業務管理においてはギャップの自動検出などを提供。アクションフローでは、SAPやオラクル、Salesforce、Office 365、Snowlakeなど、700以上の統合機能を持ち、1500万の日次自動処理を行います。

従来は、解析し、可視化する部分までを担っていたのですが、2020年に自動化の領域にまで機能を広げました。

SoRやExcelで作ったデータ、IoTで収集したデータを取り込んで、Celonisが持つ機械学習のアルゴリズムと、業種別データモデルを活用してデータを正規化し、Celonisが特許を持つプロセスデータエンジンやワークフローを活用して、プロセスアナリティクスやプロセスモデリング、プロセスシミュレーションを行い、リアルタイムモニタリング、適合性分析、予兆なども行います。それによって可視化されたものから課題を発見し、課題に対して、自動処理をすることになります。そして、Celonisは、既存システムに手を加えることなく、データを連携させることも特徴です。

EMSでは、可視化、自動化を行い、これをプロセスマイニングの範囲と位置づけ、それ以外の部分はエコシステムによってカバーすることになります。プロセスマイニングはあくまでもDXを実現するためのひとつのピースですが、DXを実現する上で頭脳の役割を担うものであり、極めて重要なピースとなります。

先ごろ、ServiceNowとの提携を発表しました。私は6年間、ServiceNowにいたからわかるのですが、必要なものは買収して、Now Platformに取り込む傾向があります(笑)。しかし、Celonis とは提携し、一緒に製品を作っていく決断をしました。実は、ServiceNowでも、ここ数年、ハイパーオートメーションという言葉を使い、それを司る部分にプロセスマイニングという言葉を表記していました。ServiceNowでプロセスを自動化しているお客様に対して、Celonisのプロセスマイニングを活用してもらい、プロセスの最適化を行うことが可能になるのです。ここでは、Celonisが提供するワークフローを活用せずに、ServiceNowのワークフローを活用してもらうことができます。それぞれの製品が相互に作用して、DXの最後の課題を埋め、本当の意味でのDXを実現することができるのです。

日本において、プロセスマイニングは普及しますか。

村瀬氏: その点については強い確信があります。経済産業省のDXレポート2で示されたように、日本の企業の95%がDXに未着手であり、その多くが、デジタイゼーションやデジタライゼーションに留まり、DXに必要なデータを活用したビジネスモデル変革には到達していません。大量のデータを活用し、課題を特定し、リアルタイムに価値を創出したり、環境の変化に伴って、迅速にアップデートしたり、世界規模でサービスをスケールするためには、データによるビジネスモデルの変革と、その実行を迅速に行うためのプラットフォームが必要なのですが、日本の企業の多くは、大量のデータを持っていても、データ分析やプロセス分析ができず、デジタル変革に乗り出せていないのが実態です。こうした日本の企業が持つ課題を解決できるのがCelonisであるといえます。

またCelonisでは、業界ごとに最適化したベストプラクティスを用意しています。もともとドイツでスタートした企業ですから、製造業に関する実績やノウハウを数多く蓄積しており、その点でも、製造業が多い日本の市場には最適な提案ができると考えています。 私は12月1日に、Celonisの社長に就任したのですが、お客様にご挨拶にお伺いしたいという話をしましたら、「ぜひ、プロセスマイニングの話を聞かせてほしい」という声をたくさんいただき、この1カ月で、40人のCXOの方々にお会いすることになりました。今後、DXをリードする国内大手企業のCXOを対象にしたCelonis CXO Clubを設置し、2022年1月21日には、第1回目のオンラインセミナーを開催したいと思っています。日本では、プロセスマイニングに対する認知がまだまだ低いですし、どんなメリットがあるのかも広く理解されていません。失敗事例を含めながら、プロセスマイニングに関する情報を交換できる場にしたいと考えています。

なぜ、Celonisの社長に就任したのですか。

村瀬氏: 私は6年間に渡って、ServiceNow Japanの社長として、国内企業や日本の社会のデジタル変革をリードしてきました。しかし、DXの提案をしていても、なにか足らないということを感じていました。日本の企業が、デジタルツールを導入しても、トランスフォーメーションまでいかないのは、データを使えていないからです。そして、データが使えていない理由は、プロセスマイニングがないからです。また日本の企業は、どちらかというと、創造的な取り組みが苦手です。この30年間、日本の企業は、破壊的ビジネスを作ることができなかったともいえます。しかし、プロセスマイニングのプラットフォームを活用すれば、新たなビジネスを日本の企業が創るきっかけになるのではないかとも考えています。

私は、30年間に渡るIT業界での経験がありますが、この経験を生かして、日本経済の発展や明るい未来を実現したいと思っています。もし、これから10年以上が経過し、私が定年になったときに、プロセスマイニングを活用して、日本の企業が元気になっていればいいと思っています。私は家族に誇れる仕事、奇跡なほどやりがいのある仕事をしたいと思ってきました。Celonisはそれができる企業だと考えています。

まずはどんなところから手を打ちますか。

村瀬氏: 5年前のServiceNowのような勢いを持った会社だと感じていますし、それ以上の成長を遂げることができると思っています。2022年2月以降、日本の社員数を倍増させ、売上高も初年度から数倍に伸ばしたいと思っています。そして、成長のためのコアチームを作ることにも力を注ぎたいと思っています。プロセスマイニングは、さまざまな領域での活用が期待できますが、最初は、IT系企業や通信系企業、そして製造業を中心にアプローチしたいですね。これらの業界の企業では、自ら導入し、その成果をもとに販売をしていくことが可能です。たとえば、日立システムズでは、自らCelonisを導入し、SAP S/4HANAの販売系システムと、スクラッチで開発したフィールド作業支援システムの業務プロセスを可視化し、継続的な業務改善に取り組むことで、年間1000万円の削減効果を見込んでいます。また、こうした実績をもとに、パートナーとして、2025年までには40億円の売上げを目指す考えを明らかにしています。さらに、金融、保険分野のお客様にも積極的にアプローチしていきたいと考えています。

約20社の販売パートナーがいますが、戦略的パートナーとより深く組みたいと考えています。主要コンサルティングファームともグローバルではパートナーとして連携していますから、日本でも同様の取り組みをしたいですね。

私は、どんどん外に出ていきたいと思っています。それによって、まずは、プロセスマイニングはなにかということを知ってもらい、Celonisを知ってもらいたいと思っています。

過去6年近く日本のDX業界を支援してきた私にとって、日本企業のDXで欠けている「データ活用による迅速なビジネスの実行」に挑めることにとてもワクワクしています。企業のDXにおける最後のピースとして、プロセスマイニングをベースとしたEMSを普及させることにより、持続可能な日本社会の実現に貢献したいですね。