Adobeは10月27日(米国時間)、独自開発の新フォント「ヒグミン」をリリースした。ヒグミンは同社のタイプチームが、画家のヒグチユウコ氏とコラボレーションして作成した日本語フォントで、ヒグチ氏が作品の中で使用している個性的な手書き文字がベースとなっている。フォントサービスの「Adobe Fonts」を通じて配布されており、Adobe Creative Cloudのメンバー(無償メンバーシップでも可)であれば無料で使用することができる。

独特の世界観を表現した「ヒグミン」フォント

「ヒグミン」フォントは、一目見ればそれと分かる独特の形をしている。うねった線、長く伸びたヒゲ、筆と墨で描いたようなにじみなど、ほかのフォントでは見られない実にユニークな文字である。ヒグチユウコ氏の世界観がよく現れており、フォントというよりもイラストの一種のように見える。

文字だけでなく、動物や植物、リボンなどといった小さなイラストがカラーグリフとして搭載されている点も大きな特徴だ。次の図はヒグミンに搭載されている文字の一部を抜き出したものだが、きのこや鳥、てんとう虫、犬や猫、リボン、花、草などのイラストのようなものも、すべて文字として登録されている。これらを駆使すれば簡単なデザインであれば文字だけで作れてしまいそうなくらいである。

  • ヒグチユウコ氏の世界観を反映した新フォント「ヒグミン」

    ヒグチユウコ氏の世界観を反映した新フォント「ヒグミン」

これらのカラーグリフは特殊文字として登録されているので、各アプリケーションの特殊文字の入力方法によって使うことができる。lllustratorなら、「書式」メニューから「字形」を選んで字形パネルを表示し、そこで使用したい文字をダブルクリックすれば入力できる。

  • Illustratorでは「字形パネル」で特殊文字を入力できる

    Illustratorでは「字形パネル」で特殊文字を入力できる

ヒグミンでは、文字ごとに複数の異体字が用意されている。下の図を見てもらえばわかるように、同じ「あ」でも3種類の形があり、それぞれ線の向きやヒゲの長さなどが大きく異なる。

  • 各文字ごとに複数の異体字が用意されている

    各文字ごとに複数の異体字が用意されている

OpenTypeの「プロポーショナルフォント」機能を有効にすれば、前後の文字との距離によって自動的に異体字に切り替わる。次の図は、上が通常の表示、下がプロポーショナルフォントを有効にした場合の表示である。

  • プロポーショナルフォントを有効にすると字間や異体字の調整が行われてより雰囲気が出る

    プロポーショナルフォントを有効にすると字間や異体字の調整が行われてより雰囲気が出る

プロポーショナルフォントを有効にするには、Illustratorであれば、次のようにフォントパネルの「OpenType」タブを開いて、「プロポーショナルメトリクス」の項目にチェックを入れればよい。

  • Illustratorでプロポーショナルフォントを有効にする

    Illustratorでプロポーショナルフォントを有効にする

ヒグミンには、墨と筆を使って描いたような「にじみ」を再現した「ヒグミンにじみ」と、にじみのない「ヒグミン スムーズ」の2種類が用意されており、用途に応じて使い分けられるようになっている。お勧めはもちろん「ヒグミンにじみ」で、より手書きっぽい雰囲気を表現することができる。ヒグミンの制作を担当したタイプフェイスデザイナーの西塚涼子氏によれば、ヒグミンを作るにあたって「にじみ」は絶対に実現したい要素の一つだったとのこと。

次の図は、上が「ヒグミン スムーズ」、下が「ヒグミンにじみ」である。小さい文字ではあまり見分けがつかないが、拡大した場合は線のエッジがグネグネとうねったようになっているのがわかる。大判のポスターなどでは、この「にじみ」が全体の雰囲気を大きく変えてくれるだろう。

  • 「にじみ」有りと無しの比較

    「にじみ」有りとなしの比較