2019年10月の消費税増税に伴い軽減税率が導入されたため、日本には現在、2種類の税率が存在する。取引の透明性を高めつつ正確な経理処理ができるよう、政府は2023年10月1日から「インボイス制度」の導入を決定している。また、インボイス制度の導入に先駆けて、2021年10月1日から適格請求書発行事業者の登録が開始する。

しかし、弥生が実施した調査では、全国の個人事業者や、30名以下の小規模事業者の経営者および経理担当者のうち8割以上がインボイス制度について「全く知らない・聞いたことがない」「聞いたことはあるが内容はよくわからない」と回答するなど、小規模事業者が同制度を認知していないことが明らかになっている。さらに、インボイス制度を認知している人でも、適格請求書発行事業者の登録申請が2021年10月1日に開始することを「知っている」と回答した人は約2割にとどまった。

そこで、2023年のインボイス制度の導入によって何が変わるのか、そして、今からどのような準備をすべきかについて、弥生のビジネス戦略チーム担当マネージャー 広沢義和氏に話を聞いた。

  • 弥生 ビジネス戦略チーム担当マネージャー 広沢義和氏

--「インボイス制度」とは、どのような制度ですか

広沢氏:インボイス制度は簡単に言いますと、「適格請求書の保存が必要になりますよ」という制度になります。適格請求書とは、国が求める基準を満たした請求書のことです。適格請求書のことをインボイスと呼ぶのですが、実は見積書や納品書もインボイスになり得ることがあります。

インボイス制度の導入によって大きく変わる点は、消費税の計算についてです。事業者はモノやサービスを販売して得たお金のうち、モノやサービスの仕入れにかかった消費税の差額分を国に納めていますよね。インボイス制度の導入後は、自分が仕入れの際に支払った消費税額をインボイスで保存しておかなければ、消費税を支払ったと認められなくなります。

つまり、仕入れ先から受け取る請求書がインボイスでないと仕入れにかかった消費税が実際よりも少ないと見なされて、その分多くの消費税を自分が支払わなければいけなくなるということです。基本的には消費税を納めている全ての事業者に関わる制度ですので、注意してください。

  • インボイス制度とは、消費税の支払いの際に重要になる制度なのだという 資料:国税庁

請求書を受け取る事業者だけではなく、実は請求書を発行する事業者にとっても変化があります。請求書を受け取る企業の視点では、インボイスがないとこれまで以上に消費税を払わなければなりませんので、取引先にはインボイスを発行してほしいと思うのが自然な流れです。しかし、インボイスを発行するためには「適格請求書発行事業者」に登録をする必要があります。

世の中の事業者は消費税を納める義務がある「課税事業者」と、消費税の納税義務が免除されている「免税事業者」に大別されます。このうち、適格請求書発行事業者の申請登録ができるのは課税事業者に限られます。免税事業者は適格請求書発行事業者の登録申請ができないため、そもそもインボイスを発行できないということですね。現在、免税事業者として事業をしている方は、インボイスを発行するために課税事業者になるべきか、あるいは免税事業者のままでいるかを見直す過渡期だと思ってください。

システム開発会社をイメージするとわかりやすいのですが、フリーランスのエンジニアに業務を支援していただく機会が多いですよね。フリーランスの方って実は免税事業者が多いのです。そうした場合、フリーランスの方は課税事業者になってインボイスを発行できるようになるか、あるいは取引の見直しや停止までを視野に入れて免税事業者のまま活動を続けるのかを考えなければいけないような制度です。

--他にインボイス制度によって変わることはありますか

広沢氏:インボイスを発行する側の変化があります。インボイスを発行する際、これまでの請求書とは記載の方法が少し変わります。適格請求書発行事業者に登録をすると、アルファベットのTから始まる13桁の番号が事業者ごとに割り当てられるのですが、この登録番号を請求書に記載する必要があります。

それに加えて、8%と10%の消費税区分ごとに消費税額がいくらなのかを分けて記載する必要もあります。既に専用のソフトウェアを導入している場合は大丈夫ですが、手書きやExcelで請求書を管理している事業者は注意が必要です。

  • インボイス制度によって請求書の記載事項が変わる 資料:国税庁