国立情報学研究所は7月9日、36回目となる大学等におけるオンライン教育とデジタル変革に関するサイバーシンポジウム「教育機関DX(デジタルトランスフォーメーション)シンポ」を開催した。同シンポジウムは、遠隔授業の準備状況などを多くの大学間で共有することを目的に、2020年3月26日に「4月からの大学等遠隔授業に関する取組状況共有サイバーシンポジウム」として発足した。

自治医科大学学長 永井良三氏は、「新型コロナウイルスによる市中感染の実態」をテーマに、大学機関でのDXを加速させる一因となった新型コロナウイルスの最新の状況について講演した。永井氏は、これまでの日本では検査数が圧倒的に少なく、データ駆動型の対策を取れていないと述べ、市中感染の実態を考慮した感染状況シミュレーションが必要だと主張した。さらに、現在のワクチンの副反応報告が紙資材で実施されていることに触れ、デジタル技術を活用したデータ収集の必要性を訴えた。

  • データに基づいたシミュレーションモデルを構築すべきと主張した 資料:自治医科大学

東京工業大学学長の益一哉氏は、コロナ禍における同大学の教育と研究活動について紹介した。同大学では2020年3月の新入生ガイダンスをオンラインで実施したという。その結果、ガイダンスの出席率が98%を超え、対面での実施と比較しても出席率が高かったとしている。大学の講義にオンラインでの実施を取り入れる際に最も苦労したのは、時間割の設計だとのこと。同大学では、オンラインでの講義を午前中に集めて、実験など対面での実施が必要な講義を午後にすることで、昼休みを2時間にして移動時間に余裕を持たせるように調整をしたという。

益氏は講演の中で「学長として、当たり前の学生の学びや環境を提供できないことが最も辛いことであった。ただ、コロナ禍の中、本学の教員の意識の高さと優秀さに誇りを感じるとともに、感謝し尊敬の念を深めた。全ての大学においても同じであろう」とし、今後の課題として、他大学を卒業して同大学の修士課程に入学した学生が大学院の半数を占めるなかで、オンラインが中心となる学生生活においてどのように愛校心を持ってもらうかを考えたいと加えた。

  • 講義の方法をオンラインに変更したことに伴う影響 資料:東京工業大学

文部科学省総合教育政策局教育人材政策課 教員免許企画室長 平野博紀氏は、コロナ禍においても約8割の学生が、必要なすべての期間で教育実習を実施できたと述べた。また、教育実習を一部の期間で実施できなかった学生のうち約7割が、全期間で実施できなかった学生のうち約4割が、大学などが実施する演習によって教育実習を代替したという。また、中には次年度以降に教育実習を持ち越した学生もいるとのことだ。文部科学省は教育委員会に対して、教育実習を受けないまま教員免許を取得した初任者については、実践的な指導を充実させるなどの配慮を求めているという。

  • コロナ禍で教育実習が困難となった場合は代替措置が認められている 資料:文部科学省