2019年末から続く新型コロナウイルス感染症流行の中で、テレワークやWeb会議システムの導入が進んでいる。しかし一方で、感染者接触アプリやワクチン予約システムに不具合が見つかり、マイナンバーカードの保険証利用が遅延するなど、日本のデジタル化における課題が顕在化する場面も見られた。このような状況において、菅義偉政権は目玉政策としてデジタル庁の発足を打ち出している。
デジタル庁は高度情報通信ネットワーク社会を形成する司令塔として、未来志向のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進し、今後の官民のインフラを一気呵成に作り上げることを目指す。同庁は2021年9月1日の発足に向けて準備が進められており、設置後には内閣総理大臣みずからが主任の大臣を務める。
デジタル庁の発足に向けて、国や地方公共団体のDXを推進する人材の採用が2021年1月から進められ、その4回目となる公募が7月6日から始まっている。今回の公募ではどのような人材の採用を見込んでいるのか、そして入庁後はどのような働き方となるのかを、自身も第1回目の公募でデジタル庁に入庁し、リードリクルーターとして人事採用担当を務める斉藤正樹氏に話を聞いた。
斉藤正樹氏は早稲田大学を卒業後、メーカー営業や人材紹介企業を経てPole&Lineを設立。IT領域をはじめとする採用支援サービスや人事コンサルティングを提供し、2019年にHR(Human Resources)テックプロダクト開発を行うP&L Associatesを設立した。現在は同社の代表と並行して内閣官房IT総合戦略室リクルーターを兼務。
--初めに、今回で4回目となる公募の背景について教えてください
斉藤氏:当初から、1回の公募で全員を採用するのではなく4回に分けて採用する計画でした。今回はその4回目にあたります。第1回目および2回目の募集ではPM(プロジェクトマネージャー)やエンジニアなど、技術職を中心に公募していました。3回目の公募ではCDO(Chief Design Officer)やCTO(Chief Technology Officer)など、いわゆるCXO人材を中心に募集し、現在選考中です。
今回は、積極的にプロジェクトの中心となって、物事を推進してくれるような人材を募集します。過去の公募に引き続きPMやエンジニアの募集も行っていますが、今回はこれまでに募集してこなかった、デジタルヘルスやデジタルエデュケーションの専門的な知識や経験を持った人材を募集しています。
公募を行うのは非常勤職17種と、常勤職4種の計21の職種で、25名程度の採用を予定しています。若く、これから挑戦していきたいという方よりも、これまでに身に着けた高い専門知識を生かしてプロジェクトを進めてくれるような方を期待しています。
平井デジタル改革担当大臣はデジタル庁の人材について、リボルビングドア(回転扉)という考え方に注目しています。採用後に数十年一緒に働くのではなく、既に一定の専門性を持った人材が政府での経験を経て、また民間企業に羽ばたいていただけるようなイメージです。過去の公募では、60歳代の方が入庁した例もあります。
--公募で求める人物像はどのような方でしょうか
斉藤氏:これまでの職種で専門的な経験を身に着け、入庁後にも実力を発揮してくれる方を採用したいです。
現在は、9月1日のデジタル庁発足に向けて準備をしている段階ですので、制度や仕組みが定まっていない点が多々あります。完璧に物事を進められる状況はまだ整っておらず、カオスティックな状況の中で、ご自身のやりたいことや実践すべきことを主体的に推進してくれる心強い方が応募してくれたらうれしいですね。
--9月に向けて準備中とのことですが、人材やリソースが足りなくて大変なことはあるのでしょうか
斉藤氏:現在、もちろん忙しくはあるのですが、それは人が足りないからというわけではありません。むしろ9月1日という期日が決まっている中で、準備しているものがたくさんあるような状況です。9月1日に政府のすべてのシステムプロジェクトををデジタル庁が管轄できるわけではありませんので、発足してから段階的にデジタル庁が管轄していく領域を広げていくために、計画を練っているところです。
--では、採用が決まって入庁した後の働き方について教えてください
斉藤氏:今回公募をする非常勤のスタッフは、部署にもよりますが、週に3回程度のコミットメントを期待しています。「非常勤」という言い方をすると、終業後や週末にやるような、副業的なイメージを持たれる方も多いかもしれません。
しかし、非常勤雇用ですので、定められた時間にしっかりと勤務できるように、現在就労されている方は、現在の職場と時間の調整をしていただける方を期待しています。
働き方の様子はチームによっても変わりますね。私は現在、月曜日、水曜日、金曜日の週に3回デジタル庁に勤務しています。本来は勤務日でない火曜日や木曜日に打ち合わせなどの予定が入ることもありますが、そのような場合には勤務日を時短勤務に変更して調整しています。何曜日に働くのかは、チームごとに相談して決めているところが多いですね。
常勤での雇用の方は、一般的な公務員と大きく変わらないと思います。
--デジタル庁として、民間企業の人材を採用する意図はどこにありますか?
斉藤氏:たくさんあると思います。
年金システムやCOCOAなど、公官庁が管理するシステムは実に多いです。システムを開発する際は、内製ではなくITベンダーやシステム開発会社に発注をして、作ってもらっていました。しかし、発注する側の職員は必ずしもITリテラシーが高いわけではなく、ベンダーロックインと言われかねない状況や、発注後はベンダーに任せきりになってしまい、事実上オーナーシップを持てなかったことなど、反省がありました。
これまでの反省を生かして、公官庁の内側にもシステム構築ができる職員や、ベンダー社員と同じレベルで仕様を作ることが可能な職員がいることが大切だと思っています。
実は、これまでにもCIO補佐官制度がありました。CIO補佐官は高い専門性を持った民間企業のIT職種の方が、週に1回程度アドバイザー的に支援していく制度です。ですが、アドバイザー的にかかわるのではなく、実際に職員としてシステム構築に関わっていく必要があることから、今回のような採用になりました。
--なぜ、非常勤職員の公募なのでしょうか
斉藤氏:公務員は副業が禁じられていますので、今回の公募においても、常勤のポジションで採用になる方は兼業が禁じられています。一方で、非常勤での採用となる方は副業も可能ですし、様々なメリットがあると思っています。
近年のIT界隈で能力の高い方を見ていると、本業以外にも、副業やフリーランスのように複数のプロジェクトに関わっている方が少なくありません。われわれは、そうした業界トップクラスの方にも応募いただきたいと考えていますので、非常勤として力を発揮していただくことがメリットになると思っています。
能力の高い方や専門性の高い方は、現在所属している企業でもエース級だったり、責任のある立場にいたりと、デジタル庁にフルコミットしていただくのが難しいのではないかと思っています。しかし私たちは、国のDXを進めるためにも、そうした方々にぜひ力を発揮してほしいと思い、非常勤という雇用形態での採用を行います。
現在お勤めの企業によっては、兼業での働き方や時間の調整が難しい方がいらっしゃることはもちろん理解しています。今後は、そうした方々も関わりを持っていただくための施策を課題として、どのように解決していくのかを考えたいです。
--過去の公募で採用され、既にデジタル庁で働き始めている方もいると思いますが、どのような方が多いですか?
斉藤氏:1回目の採用では35名ほどが入庁しましたが、非常に人材の幅が広いですね。ITベンダーやSIerなどの専門家が力を発揮するプロジェクトもありますし、一方では、国民向けサービスのWeb画面が見やすくなるような業務を担うデザイナーのポジションもあります。年齢層は30歳代から40歳代くらいの方が多いです。しかし、最も若い方では20歳代後半の方もいますし、60歳代で入庁した職員もいますので、年齢層も非常に幅が広いです。
--実際にご自身も入庁して働き始めていらっしゃいますが、入庁前のイメージと違いはありますか。
斉藤氏:現在は9月の発足に向けて、「こんな仕組みがあったらいいよね」というものを準備している段階ですので、入庁の前と後で違和感はありません。現時点では、むしろ組織の理想の姿に向かって制度や人員を整えていく段階だと思っています。
--それでは最後に、応募を考えていらっしゃる方にメッセージをお願い致します
斉藤氏:4回目となる今回の公募は、9月1日のデジタル庁発足に向けた最後の募集です。デジタル庁を立ち上げるメンバーとして参画できる最後のチャンスなので、ぜひご応募ください。
また、今回の募集職種は大まかに記載されていますので、ご自身の専門や経験が、求人案内と合致しない場合もあるかと思います。応募いただければ、面談を通じて職種の案内ができますので、まずは応募してください。